第80話 ド・ド・ドスケベランド

 真夜中の大通り。

 サキュバス騒動のせいで通りは静かなもので、店や道端で寝こけている人がいる。それでも人が行きかっているあたり、この町にいかに人の息吹が根づいてきたかわかる。


 今宵、人と魔性が仁義なき戦いを行う。


 俺はすーぅーはぁ―と呼吸を整えてから腹をくくる。

 恥も外聞も捨て去り、なんもかんも頭空っぽにしてサキュバスの領域レベルまで意識をあげていく。


 魔導街灯に照らされながら、俺は肩をゆらしながら口ずさむ。


「ドピュピュ、ドピュピュドゥ、ドッピュドゥ♪ ドピュピュ、ドピュピュドゥ、ドッピュドゥ♪ ドピュピュ、ドピュピュドゥ、ドッピュドゥ♪」


 若いカップルが俺の側を通りすぎながら笑っていた。

 春先にあらわれる頭の愉快な奴だと思ったのだろう。


 俺はかまわず口ずさんでいく。


「ドスケベ、ダンシング、オールナイト♪ いつだって勃っているよー♪」


 軽快な足音を立てながら、歌をつむいでいく。


「ドスケベ、セックス、オナー〇ィ♪ いつだって発散したいからー♪」


 危ない酔っ払いだと思ったのか、若いカップルが不審な目で見つめてきた。


 しかしすぐに広目屋たちがあらわれて、俺の背後につく。

 それぞれの楽器で静かな音楽を奏でてきたので、なにかの広告だと思ったようだ。


 ゆったりした音楽に合わせて、俺は夜魔ラディをこき下ろしていく。


「夢でセックスしたところでなにさ♪ 素人のままでしかないから♪

 夜魔ラディが魅せるハーレムも♪ 木のウロにこすりつける、むなしい自己処理でしかないよ♪

 それがしょせん夜魔ラディの限界ー♪」


 俺は靴でタップをきざみ、にこやかに大通りを歩いていく。

 広目屋が後ろからついてきて、曲調が少し速くなった。


 俺が踊るように歩いていると、いつぞやの槍の人が地面に膝をついていた。

 遊び慣れている彼に、俺は歌いかける。


「腰の槍を勃たせずにどうしたんだい♪ 夜遊びの君♪」


 槍の人が悔しそうに口ずさむ。


「夜魔の魅せる夢に堕ちてしまって、現実でヤル気がでないのさ♪」

「思い出すんだ♪ 生々しく勃っていた日の頃を♪」

「ああ、そうだ♪ オレはいつだって生での繋がりを求めていたー♪」


 近くの家の窓がバンッとひらき、おじさんが叫ぶ。


「パンツに出すより、中でだしたーい♪♪♪」


 槍の人は晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、俺の背後に回る。

 おじさんも街灯に飛びうつり、くるくると回りながら降りてきて列に混ざった。


「「「夜魔ラディなんかクソザコ♪ 夜魔ラディなんかクソザコ♪」」」


 広目屋の奏でる音楽に合わせて、ノリノリではもる(歌詞は広目屋の背中に貼ってある)と、純愛派閥の人が祈るように地面で膝をついていた。


 俺は両腕を広げながらくるくると回り、彼の前に立つ。


「君も夢に憑かれたのかい♪ 純愛の君よ♪」


 純愛派閥の人が悔しそうに口ずさむ。


「夢に堕ちるだけじゃない♪ 純愛を裏切ったのさ♪」

「夢は夢でしかないさ♪ 俺も君も童貞のままさ♪」

「ああ、そうだ♪ 身体は清らかなままなのさー♪」


 近くの家の窓がバンッとひらき、おばさんが叫ぶ。


「夢でなんてノーカン、現実では素人のまま♪♪♪」


 純愛派閥の人がすっきりした笑顔を浮かべて、俺の背後に回る。

 おばさんも街灯に飛びうつり、くるくると回りながら降りてきて、さらに列に混ざった。


「「「夜魔ラディなんかオナシコ以下♪ 夜魔ラディなんかオナシコ以下♪」」」


 みんなではまりながら歩いていく。

 曲調が激しくなる。サビだ。


 俺たちは両腕を広げて、腰を左右にふりふりしながら踊り歌う。


「「「ドスケベ、ダンシング、オールナイト♪ いつだって勃っているよー♪」」」


 テテレテレテレーと音楽が鳴る。

 俺たちは爽やかな夏の青空のような笑顔で歌うのさ。


「「「ドスケベ、セックス、オナー〇ィ♪ いつだって発散したいからー♪」」」


 眠っていた人が、派手な曲を聴いて次々に目覚めていく。

 夜魔ラディの言葉に反応したのだ。


 目の前で起きているバカ騒ぎをわけもわからず見つめていたが、隠れていた冒険者たちがあらわれて彼らを列にまねきいれる。

 ノリノリで手を叩いたり、踊りはじめた。


 俺の背後に、次々に町の人や、冒険者が集まりはじめる。


「「「ドスケベ、ダンシング、オールナイト♪ バカシコ騒ぎはつづくよー♪」」」


 パパラパヤパヤヤー。

 俺はみんなを引き連れながら、軽快に踊っていく。


「現実でしか味わえない生がある♪ 童貞な俺はいつか夢見ている♪

 夜魔ラディの夢は嘘でしかない♪ チリ紙に吐き捨てる、自己処理にもなりえないから♪

 それが夜魔ラディの限界ー♪」


 音楽が激しい曲調を保ったままスローテンポになる。

 俺たちの歌に目覚めた町の人が次々に合流したり、遠巻きしながらも手拍子してくれた。


 もちろん、冒険者の仕込みあってのことだ。

 彼らが事情をささやいて、歌と踊りに誘導している。

 広目屋が手をふって煽るので、町の人たちは「ひゃーふぅー!」と歓声をあげながら両手をふりはじめた。


 音楽に合わせて、男女でダンスバトルもはじまっている。


「あんあんあんああんあんあん♪」

「しこしこしこしこしこしこっ♪」


 大通りでのいたるところでお馬鹿なダンスが繰り広げられ、さらに熱気があがっていった。


 仕込みの冒険者たちが、列に加わっていく。

 各自持ちあわせていた下着をふりまわしながら声高らかに歌う。


「「「叶えたい現実がある♪ 吐き出したい生がある♪ 受け入れたい性がある♪」」」


 老若男女問わず、ノリノリ下ネタのオンパレード。

 さすがに子供は夜間とか関係なしに、教育に悪いので参加させない。できない。俺たちは腰をクイクイとさせながら大バカ鹿騒ぎをつづける。


「「「夜魔ラディの夢はオナシコ以下♪

 誰一人満足させられないカスサキュバス♪」」」


 アケミも、ヴァルキリーも、顔真っ赤にしながらやけくそで歌い踊っていた。


 よくわからないまま即興の踊りを披露する者もいる。

 バカ騒ぎに笑い転げている者もいた。


 夢で欲望丸裸にされていた者たちは、いまさら恥を晒したところで平気だと、ひらきなおりの極致を見せつけるように笑顔で踊りまくった。


 音楽がさらに盛りあがり、俺たちは一層声をはりあげた。


「「「「「ドスケベ、ダンシング、オールナイト♪ いつだって勃っているよー♪」」」」」


 テテテレテレテレー。

 パパラパヤパヤヤー。


 いたるところで下着がふりまわされ、窓から下着が舞い降りる。

 花びらが舞い散るように、下着が舞うに舞っていた。


「「「「「ドスケベ、セックス、オナー〇ィ♪ いつだって発散したいからー♪」」」」」


 テテテレテレテレー。

 パパラパヤパヤヤー。


 みなさん、ご一緒に‼‼‼‼‼‼


「「「「ドスケベ、ダンシング、オールナイト♪ バカシコ騒ぎはつづくよー♪」」」」」


 数百もの人が集まっている。

 頭はからに、心も空に、なんもかんも空っぽに。知能はギリ理性を保っている程度。すべてをお馬鹿ドスケベ時空にほうりこんで、ドスケベ・ダンシング・オールナイトを決めていく。

 先に待ちうけるは、はたして、エロかドスケベか。


 そしてあらわれたのは、スイートさんだった。

 眼鏡の美人ギルド員は、大行進をふさぐように厳しい顔で立っている。眼鏡を光らせ、この先にいかせないと一人で立ちふさがっていた。


 大行進が止まり、音楽が静かになっていく。


「みなさん、夜分に騒ぎすぎですよ」

「下手な芝居はいいぜ、夜魔ラディ。スイートさんにとり憑いていたか」


 スイートさんがたおやかに微笑む。

 すると彼女の影が蠢いて、人の形をとっていく、影は禍々しく蠱惑的なサキュバスの姿になっていき、そして艶やかなバニースーツを着飾った。


「よくぞ見抜いた。ぴょん♪」


 夜魔ラディは、気絶したスイートさんを支えながら俺を見据えてきた。


 夢に堕ちた者が冒険者ばかりなのが気になっていたからな。

 対策を立ててきそうな冒険者を早めに夢に取りこむため、彼女にとり憑いていたのだろう。


 夜魔ラディは気絶したスイートさんを椅子に座らせる。

 さりげなくエッチなポーズをとらせているあたり、さすがサキュバスだ。


「……貴様の案か?」

「頭からっぽなドスケベ空気にあてられて出てくると思ったぜ」

「ふむ、我を煽ったのは?」

「誰かに似ているお前は、ぜったい負けず嫌いだと思ったからな」

「なるほどなるほど、たしかに撤退するという案が消し飛んだわ」


 夢の中での戦いは、俺たちがムキになっていたのもあるが、夜魔ラディもわざわざ張りあってくるからな。


 と、夜魔ラディが不敵に笑う。

 ヒールをかつんと鳴らし、ウサギのポーズを決めてきた。


「貴様たちのあけすけな性への欲望‼ そして我への挑戦‼ しかとおマ〇コにひびいたわ! よって現実でもお相手いたそう‼」


 すかさず槍の人や、今まで辛酸を味わってきた冒険者が飛びかかる。

 槍が、剣が、斧が、魔性を叩き斬ろうとしていた。


「調子に乗るんじゃねぇぞ‼」「現実世界に引きずり出せば、こっちのもんだ!」「夢みたいに力は改変できんだろ!」


「四十八手‼ 大爆乳回し揉み‼‼‼」


 夜魔ラディはまるで爆乳を回しながら揉むように両腕をふるう。

 魔性の腕に武器がからめとられ、冒険者たちは明後日の方向に勢いよくすっ飛んでいく。数十メートル先にあった店のガラスに突っこんだ。


「馬鹿者どもめ‼ 強者と心ゆくまでセックスするため、夢で身体能力はいじっておらんわ! 犯すもよし! 犯されるもよし! 両方を楽しむ寛容さこそが、サキュバスには大事なのだ!」


 夜魔ラディに一喝されて、他の冒険者たちはたじろいだ。


 現実でも強いままと思ったけども‼


 たが、ここでひるむ俺たちじゃない。

 魔法使いのアケミは雪辱を晴らすべく、すべての恥と恨みと憎しみをこめた大火球をぶっぱなした。


「こっちじゃ魔術が使えるのよ‼ 恥と一緒に燃えカスになれ‼ フレイムボーーーーール‼」


 迫りくる大火球に、しかし夜魔ラディは避けようとしない。

 なんだか窓ガラスに巨乳を押し当てるようなエッチな姿勢を取ってきた。


「四十八手‼ エッチ❤ウォッシュ‼‼‼」


 大火球は、夜魔ラディの雑巾できゅっきゅっと拭くような仕草のあと、吸いこまれるように消えていく。


 アケミも、俺だって唖然としていた。

 夜魔ラディは両腕を組み、巨乳を持ちあげながら叫ぶ。


吸精ドレインにはこういう使い方もある‼ 万物すべてが学びであり、エロの道へとつながる! サキュバスを極めるとはこういうことだ‼‼‼」


 ちくしょうが‼ あっちのノリがもう浸食してきやがった‼

 もうヤダ、このおばあちゃんサキュバス! 濃すぎるんだよ‼


 さすがに聖剣は無効化しねーだろうな? なんかわけのわからん理屈で無効化してきそうだなあああ‼


 夜魔ラディが俺に向かって叫ぶ。


「純愛よ! まずはお前からか⁉ 複数プレイでもかまわんぞ!」

「……サシでやりたいところはやまやまだが、お前には先約があるんだよ」

「ほう?」


 夜魔ラディが夜空を見あげる。同胞の匂いを感じたらしい。


 満月を背にして、金髪碧眼の義賊がくるくるとかっこよく降り立ってくる。昔から形から入りがちな彼女は、祖母の前で颯爽と膝をつくようにして着地した。


「フィリオ‼ よき瞳をしているな! 答えがでたか‼」


 夜魔ラディは満面の笑みを浮かべた。


「ラディ祖母様」

「うむ! 我はお前のおばあちゃまであるぞ‼」

「迷いに迷っていたけど、覚悟を決めたよ」

「うむ! 若者の迷う姿はいのう‼」

「ボクは祖母様の道は歩まない。性をむさぼる悪しき魔性の道は歩めない。ボクはボクであるために、魔性の道に一生抗いつづけるよ」

「ふむ。それは……人間の道を歩む、ということか?」

「どっちでもないよ。まっすぐに立つ、ただそれだけだ」


 フィリオが立ちあがり、腰の双剣をゆっくりとぬいた。


 夜魔ラディは少しだけ寂しそうに笑ったあと、凛々しい表情になる。


「偶然血族に出会ったかと思えば……どうやら必然の出会い、運命であったか」

「おかげで自分の道がハッキリとしたよ」

「よかろう‼ 我のかてになるか、我を糧にするか‼ いざ闘争を重ねる、ぴょん♪」


 夜魔ラディはウサギのポーズをとった。

 お尻を可愛らしくふりふりして、巨乳をはずませながら名乗りをあげる。


「我が名は夜魔ラディ‼ 夜を統べ、エッチを統べる、セックス大好きっ子である‼‼‼」


 さあお前も名乗れと、魔性は血族に問うてくる。

 フィリオは深呼吸してから、誰よりもまっすぐに魔性を見据えた。


 双剣を高速で回しながら、ぴーんっと十字に斬る。

 それだけで、ことがわかった。


 フィリオは俺を一度だけチラ見してから告げる。


「人も魔も、己が運命に翻弄されるのだろう。性を極めた魔性よ、ただ快楽を享受するというのならば、ボクたちの本気を見せてやる。世界を照らす光は、闇からでもあらわれると知れ」


 フィリオの圧に、夜魔ラディが心底嬉しそうに微笑む。


 前世のフィリオならば、ここで通り名【無風鮮血むふうせんけつ】を語るだろう。

 風が通りすぎたこともわからない静かな速さで敵を葬る。光の勇者だった俺に張りあいつづけた彼女がつけられた通り名。


 でも、フィリオはその名を告げないとわかっていた。

 禍々しい風が吹きすさび、彼女は、角と尻尾と羽根を生やす。


「ボクは正義のドスケベサキュバス! フィリオ=ヴァル=エーデルシェイドだ‼‼‼」


 迷いはない、ただ愚直に立ち続ける。そう瞳で語りつづける。


 フィリオ、一緒に世界に意地をはりつづけよう。

 バカやりながら安心してドスケベできる世界にしてやろうぜ。

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