第69話 ラブちゅっちゅ

 そんでもって後日談。


 魔導街ヒヒイロカネは、魔芸師パテリーを倒したことにより解放された。

 町をおおっていた木々は枯れはて、技術で彩られた町に戻る。といっても地面は隆起しまくりだし、建物も壊れていたりで天災がすぎたような有様だった。


 ただそれよりも、町の人を打ちのめしたのは、マスドールだろう。


 マスドールはうんともすんとも反応を示さなくなった。

 魔芸によるパワーアップ化は負担がかかっていたようで、魔芸師パテリーが滅んだときに内部コアが破損したらしい。


 技術とエロの結晶は、本当にただの人形になってしまった。

 打ちひがれていたマイクに、俺は声をかける。


「マイク……」

「大丈夫です、ボス。オレたちは悲しんでいません。だってこの子たちは、ボスとのドスケベ接待プレイに殉じれたのですから……。幸せだったと思います……」


 よい話なのかな。

 感傷的になってよいのかなと俺は迷った。


「それにです! 実地試験のデータがこんなにもたんまり! この子たちは決して無駄じゃありません! むしろ、どんな宝石よりも輝かいている!」


 マイクの叫びに技術者たちが呼応して、「次はもっといいもの作るぞー!」「トライ&エラーのお時間だあっ!」「おほっ、想定外の駆動機構が痛んでやがるぜ!」「たまりませんなあああ!」と、危険なほどやる気に満ちていた。


 挫折を一瞬で終わらせて、もう前を向いている。

 町が壊れたぐらい、彼らにはどうでもよすぎることだったようだ。


 ……元々、風当たりの強い、魔導技術者が集まった町だしな。

 これも人の強さだと思う。思うが、忠告はしておいた。


「ほどほどにしろよ⁉ いいか‼ ほどほどにしておけよ⁉」


 フローラ様も人寄りの女神様とはいえ、さすがにお目こぼし叶うか難しい。なんなら今すぐ天罰がおちかねん。


 俺たちは巻きこまれないよう、はやばやと町を脱出することにした。


 魔行船ドッグは、ぼろぼろで使用不能。

 海路は近年まれにみる大しけだとかで船は使えない。山越えして最短距離で帰ろうとしたが、まるで雲行きがあやしい。


 ……。……。

 だ、大丈夫、大丈夫。大丈夫さ。


 だが万全を期して遠回りしながら(道中、何度も遠雷を聞いた)、交易都市グランニュールに帰ってきた。


 久々のギルドハウス。

 屋根を見かけるだけで安心するあたり、もう我が家になったらしい。仲間も同じようで表情を和らげていた。


 細々とやることはあるけど、さすがにいろいろありすぎた。

 しばらく休息日にしようと提案する。誰も異論を挟まなかった。


 そんなわけで休息日。フィリオとココノは所用で出かけた。


 俺はリリィの部屋に向かい、『死に戻り前に関して、どこまで話すことができるか』を試した。


 もちろん直接的な話題は避けてだ。危ないが、見極めはしておかなければいけない。この先、待ちうける運命のためにも。


 そう、話しあっていたわけだが……。


「ちゅ……♥ ハルヤ様……夢中になりすぎじゃありません?」

「はー? キスを欲しがったのはリリィからじゃねぇ?」

「体調がよくなるまでと言ったのに……我慢できないなんて、よほど私のことが――」

「…………」

「ほら、都合が悪くなったらすぐに口をふさぐんですから♥ ……んー♥ ちゅ♥」


 俺とリリィはベッドに腰をかけて、キスをしていた。

 昼間だから、のぼせたようなリリィの顔がよくわかる。唇を何度もつばみ、何度合わせても、欲しがる表情のままでいた。


 たぶん、俺も同じ表情だと思う。


「くすくす……ハルヤ様。そんなに……でございますか」

「なーにがそんなにだ。離さないのは、リリィだろう」

「ここで終わりにしてもよろしいのですよ? ちゅ♥」

「………どうせすぐに体調が悪くなるじゃん」

「んー……♥ どうでしょうか……ん♥」


 リリィは目を閉じて、俺の胸に飛びこむように唇を重ねてくる。お互い、高熱があるかのように部屋の空気が蒸していた。


 いや、その、最初はちゃんと検討していたんだ。

 やっぱり言及するのはマズいのか、仮定の話と前置きしないとリリィの具合が悪くなる。仮定の話でも、モンスターの大群のことを掘り下げようとすると、体温が下がっていった。


 きっと、俺たちの運命はそこにある。


 体調を崩しかけたリリィに、約束の件もあって、唇を合わせることにした。

 彼女の体調はすぐによくなったが、なぜか、そう、なぜか。リリィからだな。こうして唇をあわせてくるのだ。


「ハルヤ様……そんなにキスがお好きなのですか? 少々驚きです」

「……リリィがだろう?」

「ちょうどいい言い訳ができたからと、気軽にしすぎです」

「こ、こいつ……!」


 リリィの腰をグッと抱き寄せる。

 唇を合わせると、彼女は幸せそうに脱力した。優位を保っているのは俺だとわからせようとしたが。


「⁉」

「んーー……♥ れろー……♥」


 リリィは瞳を閉じながら舌をいれてきた。


 温かく、ねっとりしたものが口内で暴れる。

 くちゅくちゅと粘着質の音だけが部屋にひびいた。お互い、息を忘れるようにむさぼっていたので息苦しくなり、慌てて唇を離す。


「はーっ……はーっ……♥」


 熱をこめた瞳で見つめてくるリリィがいた。


 くくっ……ははははははっ!

 我が魅力に負けたようだな、リリィ! さっきから無我夢中で俺を求めすぎじゃないかなーーーー? ふふーーん‼

 いっちょ腰をへこって、徹底的にわからせるタイミングか?


「ふふっ、欲しがりすぎですよ。ハルヤ様」

「……今のはぜったいリリィからだろうが!」

「さあ、どうでしょう? あ……♥」


 お前からだろーお前からだろーと、わからせるようにまた唇を合わせる。


 …………あれ? なんかこれだけで、ものすごく、満たされるというか。

 リリィとどっちが上だとか、どっちが欲しがっているかとか言い合いながら、キスするのすごく楽しい……すごく幸せな気持ちになる……あれ?


 これ、もしかして、ただのバカップルか???


「ハルヤ様……ちゅ♥」


 馬鹿な⁉⁉⁉

 ハーレム王とあろう者が一番唾棄すべきバカップルに、だと⁉


 街中でイチャついている奴らを見ながら『ああはなるまい』と思っていた俺が、バカップル化⁉

 ありえぬ! ありえぬわ‼‼‼


「ハルヤ様……いい加減、離してくれませんか? ちゅ♥」

「リリィがどーーーーーーしても離れて欲しいのならやめるぜ?」

「どーしても離れて欲しいです。はい、言いました」

「……ぜんぜん感情こもってないじゃん‼」

「ほら、やっぱりやめようとしない♥ ちゅ♥ んー……♥」


 生意気なリリィの唇をふさいでやる。


 うん、やっぱりバカップルじゃないな。

 ちょっと喧嘩しながらだし、ちょっと意地をはりあっているだけだから、ラブ要素はない。


「んー……♥」


 こうしてキスだけで一日が終わる予感がしていたときだ。


 トントン、と部屋の扉が叩かれる。


 フィリオたちは出かけている。

 一体誰だと顔を見合わせていると、扉を叩く音が、トントンからドンドン、そしてドドドドドドに切り替わった。

 俺は慌てて(警戒しながら)立ちあがり、扉をあける。


「はいはい、誰だ?」

「ただの……町娘だぁ‼‼‼」


 恰好は町娘だが、凛々しい表情な武人武人している女が立っていた。


 あ、フローラ様付きのヴァルキリーだ……。この町で俺を監視するようになった人でもある。俺はげんなりしながら言ってやる。


「ただの町娘は、人の家に勝手にあがって扉をノックしねーんだよ……」

「ふん、下界の作法はわからぬ」

「天界にも作法はあるだろうが」

「私は、ただの町娘だ!」


 ヴァルキリーはキリリッとした表情で言ってきた。

 もう、それでいいや。


「で、町娘がなんの用件で?」

「フロ……我が主様は此度の件、たいそう喜んでいられる。敬虔なる信徒の目覚めに祝福あらんとのことだ」


 リリィのことか。フローラ様的にも、ひとまず安心か。

 よかった。俺の所業はなかったことにしてくれて……ねーな……。

 ヴァルキリーが俺がにらんでくる。


「だがな! 貴様のせいで! 主様は何日も寝込まれてしまったのだ!」

「……あのさ。海の大しけや山の天候が悪かったのも」

「しらん‼ が、裁きのふりおろし先がわからなかったのだろう‼ ふしだら極まりない町も、主様の教義的には抗う人の姿ではあるからな! ああ、なんと心の広いお方だ‼」


 ヒヒイロカネの人たちか。

 何度くじけても立ちあがる姿は、フローラ様好みか。

 ただ造っていたのがアレなだけで……ああ、つまり八つ当たり先が行方不明になった感じか。


「……マイクからさ、最新エログッズが届くことになったんだけどよ。落雷が落ちて全部焼けたって、手紙が。しかも送ろうとするたび天候が悪くなるとか」

「しらん! だが、そういったこともありえるかもな!」


 町娘は暑苦しく言った。


 お目こぼしはあった。

 あったが、町は要監視対象になったようだ。マイクには『神々に目をつけられたから、マジでほどほどにしとけ』ときつく止めておかねば、町が業火の炎に包まれかねない。いつか天に届く塔を作らんでくれよ。まじで。


 俺が眉間をおさえていると、ヴァルキリーがぶすっとした顔で箱を渡してくる。


「これは?」

「我が主様は寛大なお方だ。そして以前の反省もしておられる」

「は、はあ……?」


 俺は渡された箱を丁寧にあける。中身は水晶だ。

 どうやら記録媒体のようで、俺が触れると水晶から光が漏れはじめて、立体映像が飛びだしてしてきた。


『ハルヤお兄様ー。水がとっても冷たくて気持ちいいいですよー』


 真っ白いビキニ姿の、フローラ様が映し出された。


 なんだか荘厳そうな建物の水浴び場。

 水際で戯れるロリ女神様がいる。ときおりお腹や素足を見せたり、恥ずかしそうに顔を隠しながらも『お兄様ー』と言って、懸命な笑顔を見せてきた。


「なに……これ……」


 ヴァルキリーは断腸の思いをしぼりだすように言った。


「耐えられなくなったら……使、とのことだ……」

「使えるかよ⁉⁉⁉」


 ストレスが限界を超えて奇行にはしったのか⁉ 執着心が爆発したのか⁉

 なんにせよ、いろいろ危険すぎて使えんわい‼


 ヴァルキリーが激昂する。


「なっ⁉⁉⁉ 我が主のご厚意を‼ 歩み寄りを、無下にするつもりか⁉」

「ネタがド危険すぎるんだわ‼ 持っているだけで危ないってのによう!」

「捨てるというのか⁉ 貴様! なんたる不敬な!」

「ちくしょう‼ めんどくせえええ‼」


 俺が水晶を突き返しても、ヴァルキリーはぐいぐいと押し返してくる。


 こんな単純所持が危うい代物……しかも神聖なる者の恥ずかしい姿。下手に捨てられないしで、絶対に受けとりたくはない! 


 俺は助けてと、リリィに目をやる。

 リリィは実に困ったように、面白そうに、楽しそうに、ぷいと顔をそむけた。


「しりません」


 慎ましく微笑む彼女の横顔は、ずっと変わらず、愛らしいものだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 腰ヘコ~。 

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 ネタ練り練りのため、2~3日ほど、また更新お休みいただきます!


 元々軽いおバカな話を書く予定が、ありがたいことにキャラクターと世界観がどんどん広がり、1話1話の執筆カロリーもどんどん高くなってきた感じです。ノリを維持しつつ、連続投稿はちょっとむずかしいなー……と。ご容赦ください!


 キリのいい着地地点は見えましたので、あとはそこに向かって駆けていく感じになります! 折り返しはすぎたと思います!


 またコメントや応援、ギフトまでいただき、本当にありがとうございます!

 楽しいー、面白いーといった素敵なコメントだけでなく、熱く、濃く……本当に濃いコメントも楽しく読ませていただいております、楽しみにしております。

 話の内容が内容だけに、隠れ猛者たちが集まっている気がします。

 気分は幽〇白書の黄泉です。


 コメントに負けないぐらい濃いもの書いていくぞーをしたら作品停止しかねないので、ほどほどラインを勢いよく駆けていく所存ですので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!


 それでは、腰ヘコ~。

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