第5話

ふたりの約束、引き裂かれる未来


 「翔太くん!」


 黒服の男たちに囲まれ、震える声で僕の名を呼ぶ美月。その姿を見た瞬間、僕の中の理性が切れた。


 《空間制圧モード・フェイズ2、展開》


 空間が歪む。重力の軸が逆転し、黒服たちが次々と宙へ舞い上がった。


 「なんだこいつ……!?」


 「人間じゃない……っ!」


 その通りだ。

 僕はもう、ただの“人間”ではない。

 でも――だからこそ、守らなきゃいけない人がいる。


 「美月、目を閉じて」


 僕の指がスナップする。瞬間、空間が白く染まり、爆風のような“光の圧”が黒服たちを校舎の壁ごと吹き飛ばした。


     *


 静寂が戻った後、美月は僕の胸にしがみついていた。


 「翔太くん……もう、会えなくなるかと思った」


 「ごめん。間に合って、よかった」


 しばらくの間、何も言わずに彼女を抱きしめていた。

 風に、彼女の髪がふわりと揺れる。


 「……もう、普通の生活には戻れないかも」


 そう言うと、美月は小さく首を振った。


 「それでもいい。翔太くんが、翔太くんでいてくれるなら」


 その言葉が、何よりも温かかった。


     *


 だが――その夜。銀河連盟からの通信が入った。


 「地球政府が正式に“脅威認定”を発表。君の存在が、惑星全体の安全を揺るがすとして、拘束勧告が出された」


 「……つまり、僕はもう地球にいてはいけないってこと?」


 「そうだ。だが、もう一つ方法がある」


 執政官バリオスが静かに言う。


 「高瀬美月と共に、異星保護区へ移住するか」


 選択肢は二つだった。

 ――地球を離れ、美月と共に生きる。

 ――それとも、力を封印し、彼女の前から姿を消す。


     *


 翌朝。僕は美月と約束の場所、川沿いの土手にいた。

 中学時代、彼女がよく本を読んでいた静かな場所。


 「翔太くん、何かあったの?」


 彼女の問いに、僕は正直に話した。

 地球政府から追われていること。

 銀河連盟が“移住”の選択肢を提示してきたこと。

 そして――


 「一緒に来てくれないか?」


 風が止まった。


 「異星って……地球じゃないんだよね?」


 「うん。でも、安全な場所だ。ふたりで静かに暮らせる」


 彼女は何も言わなかった。

 目を閉じ、しばらく空を見上げていた。


 「……答え、少しだけ待ってくれる?」


 「もちろん」


 彼女の瞳に、迷いと――何かを抱える覚悟が見えた。


     *


 だがその日の夜、美月は姿を消した。


 連絡は一切取れなかった。学校にも、家にもいなかった。


 翌日、銀河連盟から届いた報告。


 「高瀬美月、地球政府・超常監視室によって“保護”された可能性あり」


 僕の胸は怒りと絶望で満たされた。


 「……やはり、僕たちを引き離すつもりだったんだ」


     *


 その夜、僕はひとりで“連盟特殊機動艦イグナイト”に乗り込んだ。


 地球への再侵入を禁じられた存在として。


 だが、心は決まっていた。

 彼女を取り戻す。たとえ全銀河を敵に回しても。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る