令和珍解釈むかしばなし、かちかち山リスペクト「業火のランナー」

0和田理史

あらすじという名の前日譚

お婆さんを殺害し、その死肉で食事を作り(被告曰く、ババア汁)、被害者の配偶者であるお爺さんに食べさせた…。


どうぶつワールドを震撼させた未曽有の凶悪事件から一年。そのあまりの残虐性とえげつなさから、どうぶつ警察もどうぶつ裁判所も、被告であるタヌキさんをどう扱ったらいいか困り果てていた。


人間的な発想でいけば死刑か無期懲役が妥当だが、そんないかつい刑罰、どうぶつワールドには似合わない。

かといって「ヒツジさん100匹もこもこの刑」やら「アマガエルさんファミリーげろげろの刑」などの刑では、とうていタヌキさんの罪の重さに見合わない。


「なかったことにしよう」


そう提案したのはどうぶつワールドで一番の知恵者、フクロウさんだった。


「こんなお話、絵本に載せたら子どもが泣いちゃうだろ。お父さんお母さんもドン引きすると思う」


フクロウさんの度を過ぎた事なかれ主義にびっくりしたどうぶつたちだったが、しかしなかったことにしたい事件であることは確か。結局異論は出なかった。


「お婆さんなんていなかったんだよ。わかってるね君たち」


数日後、タヌキさんはニワトリさんによる三歩式忘却術で事件の記憶を抹消のうえ、釈放された。

お爺さんは元々どうぶつワールドに迷い込んだ猟師であり、どうぶつを頻繁に食用としていたこともあって、外界への移住勧告が出されることとなる。




失意のお爺さんは旅立つ前夜、親友のウサギさんに涙ながらに打ち明ける。


「わしはこれから大陸に渡り、世界中のタヌキを狩りつくす。手始めに朝鮮半島を血祭りにあげるつもりだ。しかしやっぱりあのタヌキさんを狩れないのは口惜しい。

ウサギさんや、ワシに代わってタヌキさんを懲らしめておくれ。再起不能にしておくれ」


「善処しよう」


努力はするが、未来の出来事について確約はしない。

それがウサギさんのポリシー。

そしてお爺さんは羽田空港から旅立つ。

だが猟銃を機内に持ち込もうとしたため、保安検査場で逮捕された。


翌日、すべての記憶を失って山野をさまようタヌキさんの背後からウサギさんが駆け寄り、燃え盛る松明の入ったカゴを無理やり背負わせる。

小細工一切なし。それがウサギさんのポリシー。


「ああああつい熱いアッツイツイ!」

タヌキさんの絶叫が山々にこだまする。

ところがそこで、ウサギさんはタヌキさんの思いがけない才能を見つけ出してしまうのだった。

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