第13話:信じていいのね?

ある夜、パンケーキの余韻を残した食卓で。


 レティシアはふと、ライナルトを見つめて言った。


 


 「ねえ、王太子殿下」


 


 ライナルトは顔を上げる。

 彼女の表情は穏やかで、けれどその目は真っ直ぐだった。


 


 「……私、信じていいのね?」


 


 問いかけは小さな声だった。

 でも、そこには――幾重にも重なった時間と、覚悟と、希望が詰まっていた。


 


 「信じたいの。あなたが……“心”を持ってくれたなら」


 


 ライナルトは言葉を探した。

 でも、すぐに出てきたのはたったひとつ。


 


 「……ああ。信じてくれ」


 


 それだけを返すと、レティシアはふっと微笑んだ。


 


 「よかった。じゃあ、明日のパンは、ちょっとだけ大きめにします」


 


 それは、最大の信頼の証だった。


 


* * *


 


 翌日。離宮の裏庭で、レティシアとライナルトは小さな来客と対面する。


 


 新たに紹介された、ひとりの若い男。


 


 「シンベルトと申します。……もとはこの国の書記官を務めておりました」


 


 元国王ジーラの紹介で、離宮の味方陣営に加わった新たな人物。

 実は、現国王の側近に“父親が反逆の意思を持った”と濡れ衣を着せられ、一族ごと粛清された――生き残り。


 


 「王都の税収管理の記録を一部、密かに保全してあります。……民は、限界です」


 


 シンベルトが差し出した書類には、圧倒的な数字が並んでいた。


 


 理不尽な課税。

 複数重課税。

 庶民から搾り取られた税金の行き先は不明。


 


 「……民が、疲弊しています。今日を生きるのがやっとです」


 


 ライナルトは、書類を見ながら唇を噛んだ。


 


 「こんなにも……」


 


 「ええ。ですが、この記録が、光になるかもしれません」


 


 その言葉に、レティシアはそっと手を添える。


 


 「ねえ。王太子殿下。……あなたは今、傀儡じゃないわよ」


 


 「……ああ。今の俺は、俺の意志で動く」


 


 レティシアは微笑んだ。


 


 「じゃあ、その意志で――この国の“食卓”も、守ってくれる?」


 


 彼は強く頷いた。


 


 「……毎日のあたたかい家庭料理。それだけは、絶対に守る」

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