第7話:また来てもいいか?

朝食を終えたあと、王太子ライナルトは少し迷ったように席を立ち、扉の前で振り返った。


 


 そして、レティシアに向かって――初めて、自分の言葉で問いかけた。


 


 「……また来てもいいか?」


 


 それは、“命令”ではなかった。


 “呼ぶ”でも“指示”でもなく。


 ただの一人の人間としての、確認。


 


 レティシアはパンケーキの皿を片付けながら、ふっと笑った。


 


 「……一人分ぐらい、余るとは思いますが」


 


 その言い方は、肯定とも否定ともつかない。

 けれど――明らかに拒絶ではなかった。


 


 ライナルトの金のまつ毛がわずかに震え、目元が緩んだ気がした。


 


 「用事、忘れたんですか?」


 


 皮肉のようでいて、どこかあたたかい。


 


 「……いや。ちゃんと、覚えてる」


 


 彼が扉の向こうへ消えると、元国王ジーラがゆるく微笑んだ。


 


 「人形が、心を持ち始めたか」


 


 「王子が変わり始めましたな」ジョルジュも同意する。


 


 「……操り人形のままでいてくれたほうが、都合がいい連中もいる」


 ジーラはそう呟くと、残った紅茶を飲み干した。


 


 「でもな。心がないまま動くってのも、寂しいもんだよ」


 


 離宮の空気に、微かな希望の匂いが混じりはじめていた。


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