『結婚のはじまりは、ブルーベリーパンケーキから ――追放妃と王太子、あら、政略結婚じゃなかったかしら』
夢窓(ゆめまど)
第1話:政略結婚、式場での追放宣言
結婚式場の天井は、どこまでも高く、どこまでも冷たかった。
「君を愛することはない。奥の離宮に引きこもってもらおう。用があれば、呼ぶ」
まるで契約書の一文のような口調で、王太子はそう言い放った。
取りつく島もない。一方的で、情の欠片もない。
式を挙げてすぐその場で、「君は不要だ」と突きつけられる政略結婚。これが王族というやつかと、私は苦笑を噛み殺す。
それにしても、式場にこれほど人がいるのに、誰ひとりとして異を唱えないあたり、これはもう「予定通り」だったのだろう。国のために嫁いできたというのに、この扱いとは。
「……まあ、いいけど」
ぽつりと漏らした私の声は、装飾の豪奢な壁に吸い込まれていった。
* * *
政略結婚。
それは確かに予定されていたことだった。
私は敗戦国の王女。
そして今、この国の王太子妃。
名前は、レティシア。金髪に金色の瞳を持つ、まあまあ整った顔の女。
そして私は――転生者でもある。
前世では料理研究家として、毎日料理教室で生徒たちと笑い合い、試作して、レシピをノートに書き溜めていた。あれはあれで悪くなかった。
……まあ、最後はちょっと、派手だったけど。
帰宅途中、自転車で坂道を下っていたら、交差点で――はい、どーん。
記憶がはっきりしてるのが笑えるくらい鮮明で、目が覚めたら金の髪とドレス姿で玉座の前に立ってたんだから、人生ってわからない。
* * *
というわけで、私は今、王宮の片隅――離宮と呼ばれる屋敷に追いやられている。
なるほど。これが、王子(あ、王太子だっけ)とその政の手段ね。
だけど。
「案外、何とかなるかもね……」
窓の外には、豊かな畑。大根、かぼちゃ、キャベツ、トマト。
台所には、小麦粉、たまご、牛乳。
そして、私には――料理研究家としての全知識がある。
そう、食材と火とレシピがあれば、私は何とかなる。
さて。とりあえず今日の朝ごはん、何にしようかしら。
うん、パンケーキがいいわね。あとは、ブルーベリーがあれば完璧なんだけど。
(……あ、でもブルーベリーって季節ものか。やっぱ、毎日は無理かしら)
追放されて落ち込むかと思ったけど、案外この生活、悪くないかもしれない。
──こうして、離宮から始まる“パンケーキ王妃”の物語が、静かに幕を開けた。
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