誰がお前みたいな奴のことを好きになるか。いい加減、自分が嫌われてんの気付け。


「な、なに言ってるのあなたはっ!? 今すぐ謝りなさいっ!!」


 バシっ! と、頬への衝撃。次いで、わたしを叩いた母の怒声が響く。


 ピリピリと痛む頬。けれど、俯かない。頬を押さえることもしないで、傲然と胸を張る。


「お前っ、母上になんてこと言うんだっ!?」


 と、激昂してわたしを睨むクソガキや、怒りを滲ませる親共を、冷めた目で睥睨へいげいする。


「あら、皆さん。なぜ怒っているのですか? わたしが、先程から彼に言われ続けているような言葉じゃないですか? ほら? 先程からずっと『ブス』だ『地味女』だって、わたしは言われているじゃないですか? ご子息の『ブス』という暴言や、酷い態度は全部照れ隠し・・・・で、微笑ましいのでしょう? なのに、わたしの言った言葉は、笑って流してはくれないのですか? 奥様は、もしご自分の旦那様にあのような言葉を掛けられたら、『あら可愛らしい、照れているのね』と言って喜ぶのではないのですか? 嬉しくないのですか? ほら、笑ってくださいよ。わたしに、『照れているだけなのね。もう、素直じゃないんだから』と言ってくださいよ。お母様も、怒っていないで。『うちの子は照れ屋なので、気にしないでくださいね』と言って、笑ってくださいよ」


 わたしの淡々とした言葉に、空気が凍る。


「な、なに言ってんだよ、お前」


 怯えを孕む視線に、震える声。


「は? 気安く話し掛けんなよ、このクズが。お前みたいに低能で低俗で、下品で下劣、暴力的なクソ野郎に話し掛けられて、わたしが喜ぶとでも思ってんの? 馬鹿なの? ああ、馬鹿だったっけ。大した顔してるワケでもないし、取り立てて才能があるワケでもない。全部が中途半端なクセに、自分がモテると思ってる、イタい勘違い野郎が。誰がお前みたいな奴のことを好きになるか。いい加減、自分が嫌われてんの気付け。キモいんだよ。存在自体が目障りだから、わたしの前から消えてくれない?」


 そう言うと、クソガキの顔が蒼白に変わり、次々と涙が零れ落ちた。


「あら、どうして泣くのです? ほら、あなたがそうだったように。わたしも単に、照れ隠し・・・・でこう言ってるだけかもしれないでしょう? 笑ってくださいよ。喜びなさいよ。ほら? なに泣いてんだよ、うぜぇな。わたしは一度も泣かなかったのに。男のクセに、これくらいで泣くのかよ? 同情買ってるつもりか?」


 鼻で嗤って淡々と続けたわたしの言葉に、


「不っ細工な泣き顔晒してんじゃねぇよ。女々しくてキモい奴だな」


 嗚咽が酷くなり、


「なにショック受けてんだよ? お前が、これまでわたしにして来た言動は、こんな言葉の比じゃないだろうが? 公衆の面前で罵倒されるわたしの気持ちなんか、考えたことないだろ。人を罵倒して悦に入るクズが。自分が言い返されたら、みっともなく号泣かよ? なんとか言ったらどう? ほら、わたしが、勘違い低能、下劣なクズ野郎であるお前に、こうしてわざわざ話し掛けてやってやってんだから、ありがたがれよ。喜べよ。愚図愚図泣いてないで、なにか言ったらどうなの? この、勘違い醜男ぶおとこが」


 みるみるうちにクソガキは、真っ赤な顔で号泣。ぼろぼろと涙が、そして鼻水が垂れる。


「それで、こうやってボロクソ言われるのは嬉しい? 楽しい? 声を掛けてくれてありがたい?」


 返事は、無い。


「・・・汚い面だな。どっか消えろよ」


 蔑みながら低く言ったわたしへ、大人達はなにか恐ろしいものを見るような視線を向けている。


「どうしたんです? ついさっきまで、彼がわたしを馬鹿にして、暴言を吐いていたときには、皆さん微笑ましいという顔で笑って見ていたじゃないですか? なんでそんな顔をしているんです? 笑ってくださいよ。所詮、子供のすること・・・・・・・なのでしょう? 大人になって分別が付けば、直るのでしょう? それまで、長い目で見てほしいのでしょう? まさか、彼がわたしにして来たことは、『笑って許される』のに、わたしが今ちょっと言った言葉を『許さない』、だなんて言わないですよね? 彼にはチャンスを求めるのに? わたしは三年間ずっと、彼にあのようなことを……いえ、もっと酷い態度を取られて来ているのですが? 子供の、照れ隠し・・・・の言動は、暴言でも微笑ましいのでしょう? 突き飛ばされて転ばされたり、わざとぶつかられたり、強く腕を引かれたり、髪を引っ張られたりして、何度も何度も怪我をさせられて、学園のみんなの前で罵倒されて、そんなことをするクソ野郎ご子息のことを、わたしは心底嫌っているのに。その彼の心情とやらを汲んで、こうして無理矢理お見合いまでさせられているのに。彼と同じ年齢の、子供である・・・・・わたしを、差別するのですか? それともまさか、皆さん。わたしが彼に馬鹿にされて、暴言を吐かれて嫌がっている姿を見て、楽しんでいたのですか? それはそれは、嗜虐趣味というとんだ下衆げすな嗜好をお持ちなことで。楽しかったですか? 面白かったですか? わたしが苦しんでいる姿を、嫌がっている姿を、皆さんで囲んで、寄ってたかって、嘲笑うのは」


 しん、とする席。泣きじゃくる彼。


「ほら、なにか言ってくださいよ。お父様もお母様も、彼の言葉通り、わたしのことをブスだと、不細工だと、地味で可愛くないと思っていたから、笑っていたのですよね? 楽しかったですか? 実の娘が馬鹿にされている姿は」


 と、応えを促しても、みんな絶句したまま。


 では、確実にこの縁談をぶち壊すために、更に奥の手を披露しよう。


「ちなみにですが、わたし。中等部に入学した頃から、ずっと記録を付けているんです。彼に突き飛ばされたり、わざとぶつかられて怪我をさせられたことを。学園の保健室にも、わたしが怪我をした記録が残っていると思います。わたしを無理矢理婚約させるというのでしたら、教会や学園に、彼の暴力行為を訴えようと思いますので」


 暴力や、クソガキに言われた数々の暴言の記録。これを提出すれば、婚約させられたとしても解消に持ち込めるだろう。残念ながら解消にまでは持ち込めなかったとしても、教会に保護してもらえるはずだ。


 教会に訴えれば、ことなかれ主義の学園だって動かざるを得ない。


 最悪、命の危険を感じると言って大袈裟に騒げばいい。幸い……と言っていいのか、クソガキの家と我が家は、さして爵位や資産の差も無い。政略の意味も大して無いはず。


 クソガキとの縁談が破談になっても、クソガキの家に恨まれようとも、わたしは全く困らない。


 暴力事件だなんだと騒ぐと、わたしの瑕疵になって、今後の結婚などに支障が出るかもしれないけど・・・わたしは、この暴言クソ野郎と結婚させられて、一生コイツに縛られることの方が、我慢ならない。


 そんなわたしの、覚悟をもって宣言した言葉に、大人達は顔を蒼白にした。


「す、すみませんが、今日のところはお開きに……」


 絞り出すような震える声で、お見合いの席はあっという間にお開きになった。


 ・・・並んでた美味しそうな軽食、食べ損ねたっ!? 今日は朝から、なにも食べてないのにっ!


 なんて残念に思いながら、俯く両親と馬車へ乗り込む。なにか言いたげな視線を感じるが、わたしが視線を向けると父も母も、なにも言わずに顔を伏せる。


 そんな居心地の悪い時間を過ごし、ようやく家に着いたときにはお昼過ぎだった。


 予定よりも大分早い帰りと、両親の悪い顔色に、出迎えた使用人達がみんな驚いていた。


 お腹が空いたと訴えたら、お昼は食べて来ると思っていたとのことで、昼食は用意していないと言われた。


 結局、昼食も食べ損ねた。


 慌てて用意してもらったティータイムの軽食を、ガッツリ食べた。ヤケ食いだと思われているのか、なんだかわたしの好きな物がたくさん出て来た。


 ヤケ食いというよりは、わたし的にはむしろ、お祝いな感じなんだけどね?


✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る