第1話 召還者 1
土砂降りの雨の中、俺はあいつの墓の前で、あんなにも帰りたいと切望していた前世の世界に戻された。
***
辺境の小さな村に前世の俺は隠されていた。
ある日、スタンピードで魔物が村に押し寄せ、今にも村が壊滅しそうになっていた時、あの子が現れた。
俺よりも小さな、でもとても綺麗な子供。
その子供は聖者様だった。
聖者様は聖騎士たちと共に現れ、スタンピードを終息させて去って行った。
俺は小さな聖者様に恋焦がれ、共にありたいと願った。
聖者様の従者となる神官か、聖者様を護る聖騎士になりたかった。
俺を産んだ母親は特別な一族の末裔で、平民だったけれど、聖女だった。
母親に懸想した貴族に攫われるように無理矢理結婚させられて、俺を産んで死んだ。
その貴族の親兄弟たちは母親を平民上がりの卑しい女と蔑み、その子供である俺も卑しい平民の子として蔑み、何度も殺そうとした。
俺は母親の従者だった神官に密かに助け出され、小さな村に隠された。
スタンピードに立ち向かった小さな聖者様に憧れて、俺は養父でもある神官に魔法と剣技を習い始めた。
少しは才能があったのか、魔法も剣技もメキメキと上達した俺は聖騎士を目指した。
けれど、聖騎士の実技試験には受からなかった。
上には上がいたし、聖具に選ばれる事も無かった。
魔法属性は光と闇と無で、魔力量も多かったけれど、俺が違う神の加護持ちだったせいで、女神アステリアを祀る教皇国の神殿や教会の聖職者にもなれなかった。
それでも諦めきれなかった俺はS級冒険者を目指した。
S級冒険者になれば「勇者」の称号を得られる可能性が高まる。
「勇者」には聖者か聖女を自分のパーティメンバーに指名できる特権がある。
だから「勇者」の称号を得る為に、俺は様々なダンジョンに潜った。
そして14歳で冒険者ランクB級になった時に、炎のダンジョンの最奥の隠し部屋で、俺は神器を見つけたんだ!
神器の主になれれば「勇者」の称号は格段に近くなる。
けれど、神器を手にする前に、俺は、パーティの仲間に殺された。
仲間だと思っていた奴らは、俺の父親の後継を狙う親族に雇われた監視者で殺し屋に成り下がっていた。
俺は廃嫡と相続権の放棄を願い出て、養父の神官が書類も用意して直接渡したはずなのに、あの男は手続きをしていなかったんだ。
そのせいで、俺はこんな目に・・・!
「悪く思うなよ? ホントは子供を殺すなんてしたくなかったんだ。でもよぉ、神器見つけるなんてな・・・うっかりお前が神器の主になっちまったらよ、俺らの雇い主に人質に取られてる俺らの家族がさ、殺されちまう。だから、悪いな。ここで死んでくれ。」
確実に息の根を止める為なのか、何度も何度も剣で刺された。
最後に見たのは神器が、仲間だった裏切り者たちが、何故かみんな炎に包まれている姿だった。
生きながら焼かれ、みんな阿鼻叫喚の叫び声をあげていたけれど、俺は不思議と熱さを感じなかった。
前世の俺が最後に思ったのは、小さな聖者様──ルル様の顔。
ルル様が村のみんなにくれたお守りの護符と、教皇国のバザーで買ったハンカチは
俺の行き先が天国なのか地獄なのかはわからないけれど、一緒に持っていけるだろうか?
そんなことばかりを最後に思っていた。
そして、暖かくて優しい炎に包まれながら前世の俺は死んだ。
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