聖女学園の聖騎士〜男子禁制の聖女学園に入学を命じられた見習い聖騎士は、同室の美少女に迫られて困っているようです〜

綾森れん👑音声ドラマDLsite販売中

プロローグ、聖獣バトル

「リタ!」


 僕の悲鳴が、聖女学園のバトルフィールドに響き渡った。


 黒炎を纏った魔鳥が、天を切り裂くように旋回していた。その翼から散る禍々しい火の粉は、触れた石畳を一瞬で炭へと変えていく。


 闇の魔鳥と対峙するのは、鮮やかな橙色の毛並みを揺らした九尾の狐――リタの聖獣だ。


 九尾の狐が高く跳躍し、青白い炎を吐き出した。


 だが魔鳥は、嘲笑うかのように空高く舞い上がってかわしてしまった。


 リタは鍵盤楽器を必死に奏で、聖獣に力を送ろうとしている。額には汗が浮かび、指先が震えているのが僕の目に映った。


 僕も歌わなければ。ユニコーンに力を与えなければ!


「ああ――」


 だが緊張で喉が締まって、高い音がうまく鳴らない。情けない声しか出せないせいで、僕の聖獣であるユニコーンは、小さなポニーほどの大きさのままだ。所在なさげに蹄を鳴らしている。つぶらな瞳に、僕への失望がよぎった気がして、息がつまった。


「やっぱり僕は落ちこぼれなのか――」


 風になびくスカートを押さえながら、己の無力さに歯噛みした。


 もっと力があれば、そもそも女の子の格好をして、男子禁制の聖女学園に通うこともなかったのに。


「きゃあっ!」


 リタの悲鳴が鼓膜を打って、僕は我に返った。今は女装を恥じている場合じゃない。


 魔鳥の爪が九尾の狐をかすめる。避けた狐が必死で鍵盤を奏でるリタにぶつかった。衝撃でリタがよろめく。


 だめだ、このままじゃ――


 もう一度、歌おうと息を吸い込んだとき、轟音と共に、魔鳥が煉瓦壁に激突した。古い壁が音を立てて崩れる。瓦礫と化した煉瓦の向こうに、運河の水面が見えた。


「リタ!」


 バランスを崩した彼女の体が、崩れた壁の向こうへと消えていく。橙色の髪が、夢の中で見る幻想のように宙を舞った。


 考えている暇はなかった。


 僕はスカートの裾をひるがえして、運河へと飛び込んだ。


 思っていたよりずっと水は冷たく、指先が凍える。しかも――


 くそっ、スカートが絡まる!


 水を吸った生地が脚にまとわりつき、思うように泳げない。リタの姿を探しながら、僕は必死に手足を動かした。女物の下着が水の抵抗を増やし、体が沈んでいく。


 どうして僕は、こんな格好で水に飛び込んでいるんだ――理不尽が次第に心をむしばんでいく。


 聖騎士見習いのはずの僕が、なぜ聖女学園の制服を着て、女子生徒のふりをしているのか?


 すべては二週間前に始まった。声楽の師匠から破門を言い渡された、あの日から。




─ * ─




新作にお越しいただきありがとうございます。

続く「第一話」もプロローグと同時更新しております!

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