第4話 朱莉④

「蒼也さんは、子どもの頃から建築家を目指してたんですか?」


「実は、今も建築家を目指してるわけではないんだけどね」


「え?じゃぁ、何になるつもりで設計士に?」


食事をしながら、ズケズケとだいぶ踏み込んで聞いていた。蒼也が嫌がるそぶりを見せないので、随分と調子に乗っていたのだと思う。


「小さい頃からモノ作りが大好きだったし、住んでた家が古くて、それにものすごく愛着があってね。気づいたら建物好きになってた。僕は、ただの建物オタクなんだ」


暇があればあちこちに建物巡りに行くらしい。できれば将来は大学に残って、建築史やランドスケープを含めた建築デザインについての研究者になりたいと熱く語る。


「冬月さんは商学部だよね。将来、何かやりたい仕事とかあるの?」


「朱莉です。朱莉って呼んでください」


そう迫ると、蒼也の耳がにわかに赤くなり、それがまた自分のど真ん中だった。


「あ、朱莉さんは、どういった仕事がしたいの?」


そう言いながら、やや照れて下を向いてシチューをすくい始める。この店でもシチューを頼んでいる蒼也の、スプーンを持つ長く細い綺麗な指から朱莉は目が離せなかった。あの指に触れられたらどんな感じだろう。


「私は、蒼也さんみたいに、ものすごくやりたい事やつきたい職業って無いんです。まぁ、金融やマーケティングについて広く学ぶのがいいかなと思って商学部ですかね」


アルバイト以外に収入源のない自分は、ひじりの今後の為にも、母が残してくれたお金を大きく減らすわけにはいかなかった。だから、市場経済や金融の仕組みを学ぶ為に商学部を選んだ。とはいえ、お金を増やす方法を勉強したくて、とはさすがに初めてのデートでは言えない。


その後は、それぞれの趣味の話などたあいのない話をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る