第39話 漆原ユミとかのんの対談 ②
撮影後、動画撮影チームが機材を片付け始める中、漆原が東動に歩み寄ってきた。
「東動君、今日は本当にありがとうございました。東動君がいてくれたから、安心して話せました。ラジオの時とは違う、私自身の素の部分も引き出してくれた気がします」
「いえ、とんでもないです。漆原さんの新しい一面を知ることができて、僕もとても有意義な時間でした」と、東動は素直に答えた。
かのんも東動に近づき、「裕ニィ、本当に助かったよ!裕ニィがいたから、ユミちゃんもあんなに本音を話してくれたんだと思う。この対談、絶対良い記事になるよ!」と、興奮気味に言った。
東動は漆原さんのことをちゃっかり、「ユミちゃん」って呼んでるかのんに、
「かのん、締切りに間に合うように原稿書いてくれよ。」と念を押す。
マネージャーの佐藤と門矢も、互いに顔を見合わせて頷いている。
「東動さんのおかげで、素晴らしい対談になりました。本当にありがとうございます」と、佐藤が深々と頭を下げた。
門矢が「交渉の結果、どうにか編集部に特典動画の予算をつけてもらえそうだけど、翌々月号の対談コラムの休載の代わりの目玉記事にしたいって言われたよ」と言った。
「その辺は、編集部に任せますよ」と東動は答えた。
予期せぬ形で舞い込んだこの対談の進行役は、彼の自信を大きく育ててくれた。
かのん達はこれから、大阪グルメ特番の撮影店に向かうロケバスが、ピックアップに来るという事で、バス到着時間まで、社内の休憩室で待機してもらう。大役を終えてホッとして漆原達と雑談していると、受付けから来客だと連絡が来た。迎えがきたと皆んなに伝え、東動たちが受付に到着すると、そこに立っていたのは$林リラとツインクルの二人だった。
「あれ、$林達?どうしてここに?」東動は驚いて尋ねた。
$林はいつものように腕組みをして、ニヤリと笑った。「何言うとるんや、裕方。今回の大阪グルメ特番のロケ、ウチの事務所がコーディネートしとるんやで。そんで、ロケバスとの連絡とか、諸々確認しに来たんや」
シオリとサキは「東動さん、この前はありがとうございました。今回、私たちはお店の従業員役で出演するんですよ」と言った。
東動は思わず「ええっ!」と声を上げた。
$林は「店によっては従業員の顔出しがNGな所があって、代わりに二人が出るんよ」と言った。まさか、こんなところで$林とツインクルに再会するとは夢にも思わなかった。漆原ユミも、驚いた顔で$林を見ている。
$林はかのんに向かって軽く会釈した。「かのんさん、お疲れ様です。ロケバス、もうすぐ着きますんで、もうしばらくお待ちくださいね」
漆原は「リラちゃん、久しぶり、元気だった?」と笑顔で挨拶し、$林も「ユミちゃんも相変わらず忙しそうやね!」とお互い抱き合っている。
ツインクルの二人は「かのちゃん、今日はよろしくお願いします。よろしければサイン頂けませんか?」とまた、色紙とサインペンを渡していたが断られていた。
ロケバスが会社の前に到着し、門矢がスタッフ達を促す。
「またね!今度こそゆっくりご飯行こうね!」とかのんも手を振りながらバスに乗り込んだ。
東動は、見送りのために玄関に集まっていた佐々木課長や撮影チームの面々と共に、ロケバスに手を振った。
$林も東動に「裕方、また連絡するわ。ツインクルの件も、また相談に乗ってや」と言い残し、ツインクルの二人と撮影店に向かうと言って車に乗って行ってしまった。
漆原と佐藤は事務所で打ち合わせがあると言って帰っていった。
全てが終わり、静かになった社内で東動は、今日の撮影の報告書と、撮影した映像の編集プランを作成するために残業していた、東動は今日の出来事を(本当に、人生って何が起こるか分からないな…)と思いながら、ポケットの中の青い石をそっと撫でる。ハナという女の子がナオに託し、ナオがコウに託し、そしてコウが自分に託したこの石。何か特別な意味があるのかもしれない。この石が、まるで自分を導いてくれているかのように感じられた。
東動は、明日からの日常が、今日までのそれとは少し違って見えるような気がした。芸人としての活動、会社での仕事、そして人との繋がり。全てが、少しずつ、しかし確実に、新しい方向へと動き出している。彼は、これから何が起こるのか、期待と、そしてわずかな不安を胸に、静かに夜のオフィスを後にした。
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