第33話 二回目収録後

 収録を終えた東動は、漆原ユミ、そのマネージャーの佐藤、そして谷口ディレクターと共に、谷口行きつけだという放送局近くの中華料理店へと向かった。賑わいを見せる店内には、食欲をそそる香りが漂っている。一行はテーブル席に案内され、それぞれメニューを開いた。

「ここの麻婆豆腐は絶品なんですよ」と、谷口ディレクターがおすすめを教えてくれた。漆原は迷いながら酢豚を、佐藤は回鍋肉を注文した。東動は、せっかくなので谷口おすすめの麻婆豆腐にご飯セットを付けることにした。


 料理が運ばれてくるまでの間、今日の収録の感想などを話した。「只見さんのオーディオブックの話、盛り上がりそうですね」と、谷口が改めて言うと、漆原も「私も、只見先生のファンの方の反応が楽しみです!」と笑顔で答えた。

「パワースポットの紹介も、リスナーの方からの投稿が楽しみですね」と東動が言うと、漆原は「私も、どんな情報が集まるかワクワクします!」と目を輝かせた。マネージャーの佐藤も、「新しいコーナーができると、番組の幅が広がって良いですね」と頷いた。


 運ばれてきた料理はどれも熱々で、食べた感想を聞くと本格的な味わいらしい。特に谷口ディレクターおすすめの麻婆豆腐は、山椒の痺れる辛さと豆腐の甘みが絶妙で、東動も思わずご飯が進んだ。


 食事も一段落した頃、漆原がふと思い出したように言った。「そういえば東動君、この間、お笑いライブに出演したメンバーの飲み会に参加されたんですよね?何か面白い話でもありましたか?」

「ええ、実は… あの飲み会で、ツインクルという若い女性コンビと話す機会があったんです」と、東動は少し言葉を選びながら話し始めた。「コンビ名から双子の姉妹かと思ってたんですが、全く似ていなくて… それで聞いてみたら、本当に驚くような複雑な事情を抱えていたんですよ」

 東動は、シオリとサキが実の姉妹ではなく、両親の再婚によって戸籍上の姉妹になったこと、そしてコンビ名の由来や、彼女たちが抱える悩みなどを、昼食の席で他のメンバーに話した。漆原も佐藤も、興味深そうに東道の話に耳を傾けていた。谷口ディレクターも時折、相槌を打ちながら聞いていた。


 漆原は、目を丸くして「ええ!そんな複雑な事情があったんですね…。」と驚いた様子で言った。

 マネージャーの佐藤も、「それは驚きですね。芸人さんって、色々な過去や思いを抱えて舞台に立っているんですね」と、しみじみとした口調で呟いた。

 谷口ディレクターは腕を組みながら、「なるほど…。それは面白い話ですね。何か、番組で触れることはできそうでしょうか?」と、早速番組のネタとして活用できないかと考え始めた様子だった。

 東動は少し考えて答えた。「そうですね…。彼女たちの許可なしに話すのは控えるべきだと思いますが、もしかしたら、いつか番組にゲストとして来てもらう、という形ならありかもしれません。ただ、まだ彼女たち自身、色々と悩んでいるようなので、まずは僕が個人的に相談に乗ってみようと思っています」

 漆原は賛同するように頷いた。「そうですね。無理に話させるようなことは避けるべきだと思います。でも、もし彼女たちが話せるようになったら、ぜひ番組に来てほしいですね。リスナーの方もきっと興味を持つと思います」

 佐藤も「もし何かお手伝いできることがあれば、いつでも声をかけてください」と東道に言った。


 谷口ディレクターは「次回は2週間後の火曜日の10時から収録します。近々になったら、確認の連絡をします。今日から、本放送も開始しますので募集コーナーや反響が楽しみです。次回もよろしくお願いします」と言った。

 和やかな雰囲気の中、昼食の時間は過ぎていった。昼食後、東動は漆原たちと別れ、今日のもう一つの目的、天月ナオのお墓参りのため、「グリル天月」に向かうのだった。


 電車の車内で、天月コウに今から店に向かうと連絡した。先週も来たので道に迷うことはない。途中の花屋でお墓に供える花を買い、店への道を進むにつれて、東動の心にはじんわりとした寂しさが広がってきた。ナオのことを思い出すと、今でも胸の奥が締め付けられるような感覚になる。

 しばらく歩くと、「グリル天月」の看板が見えてきた。扉を開けると、カウンターの隅に天月コウの姿を見つけた。

東道はコウに挨拶をするとコウは「オヤジたちは今支度してるよ」と答えた

カウンターに座るように即されて座ってると、間もなく天月のおじさんとおばさんが出てきた。

「あら、裕方君、いらっしゃい。よく来てくれたわね」と、おばさんは優しく微笑みながら言った。

「裕方君、来てくれてありがとう。忙しいのに悪いね」と、おじさんも労いの言葉をかけてくれた。

東動は立ち上がり、深々と頭を下げた。「いえ、お邪魔します。」

東動は、持ってきた花束をカウンターに置くと、「ナオちゃん、喜んでくれると嬉しいんですけど…」と、静かに言った。

おばさんは、花束を手に取り、目を細めた。「きれいな花ね。きっと喜んでくれるわ」

「それじゃ、皆んな、車を表に持ってくるから」と言って、コウが車を店先に持ってきたので車に乗り込み、ナオのお墓がある郊外の共同墓地に向かうのだった。


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