君のもう一人の君が好き
たかしろひと
第1話
私には好きな人がいるのです。
十六年間、ほぼ毎日顔を合わせている幼馴染みの男の子……なんですけど、正確には違いますね。
つまり虐待なのです。
それが原因で、総夏は解離性同一障害という病気を患うことになってしまったわけです。
俗にいう二重人格ですね。
小学生の頃は本当に大変だったんです。元の総夏と病気によって現れた人格の総夏、二人の境界が曖昧で不安定で、会話することもままならない時期があったりしました。
でも今は違うのです。二つの人格は完全に個々のものとなり、二つの思考パターンが存在するようになったのでした。
……私が好きなのは、何を隠そう、病気によって生まれた、もう一人の総夏……通称ナツ君の方なのです。
一目惚れなどではなく、いつの間にか好きになっていましたパターンなのです。滅多に会えないけど、いや、だからこそ。この想いは強くなっていったのかも知れないのです。
○
八月、夏休みの登校日。
私、
久しぶりに総夏に会えるのです。いや、正確にはナツ君に会えるかもしれないチャンスに心が踊っていたのですね。
「なんか緊張します、ね……。いや、でも普通に総夏が来ますよね。当たり前だし当然です」
私は拳を握りしめ、一人、力強く頷きました。
「……僕が何?」
「っ!?」
慌てて振り返ると、眠そうに目を擦る片瀬総夏が立っていたのです。
ボサボサの黒髪、細身で身長はやや低め。とは言っても私とほぼ同じくらい。
高校の制服のネクタイの締め方が凄くだらしないのはいつものこと、そして今日は目に隈を作っていました。
「おはよーです、総夏。また夜更かしですか?」
「おはよー。ちょっとネットを回ってて。ふああぁ」
総夏は欠伸をし、私と一緒に歩き出しました。
やっぱりナツ君じゃなかったですね。どうすれば出てきてくれるんでしょうか。
いっそ、総夏に頼んで人格を交代してもらうとか。いや、出来るんですかね、そんなこと。
ふと、総夏が私の顔を見ていることに気づきました。
「なんです?」
「目を見開いて凝視されると怖いんだけど」
私は慌てて咳払いをしました。
「すみません、あまりにもアホ面だったので愛おしくて」
「相変わらず、何を言ってるのかさっぱりわからないよ」
総夏は呆れたように言いつつも、何故かそわそわと落ち着つかない様子。というか、総夏こそちらちらと私を見ています。
「あ、もしかして、私の顔になんかついてます? 今日の朝ご飯、ミートソーススパゲティだったので。恐れていたことが起こったのでしょうか」
「あはは、相変わらずだよね。有栖の家は」
苦笑を浮かべる総夏です。
うちに泊まりに来たこともあって、うちの朝ご飯の重さを知ってるのです。朝食にステーキ、牛丼は当たり前、刺身なんかも出たことあります。
私は慣れっこなんですけどね。
と、背後から視線を感じ、私は後ろを振り返った。
あれ、誰もいない。気のせい?
「あ、あのさ、有栖」
「ん、なんですか?」
「今日、夜とか出掛けないよね?」
「なんでです?」
夜、空いてる? とかならともかく何なんなんですか、その聞き方。
「いや、なんでもないんだけどさ、もし出掛ける時には、僕に連絡くれない?」
妙に緊張した様子で、やっぱり顔を赤くしてます。
まさか熱あるんじゃないですか?
私は無意識に総夏の額に手を当てました。
「っ!?」
目を見開く総夏。私はおかまいなしです。
ふむ、熱はないみたいですね。
「と、とにかく連絡してね」
「総夏」
なんだかよくわからないですけど、総夏はそのまま学校の方へと走って行ってしまったのでした。
登校日は何事もなく過ぎて行きました。
放課後、十二時過ぎでした。
再び夏休みへと舞い戻れるとあって、生徒達の解放感は全開です。
相変わらず総夏は一人でぼんやりとしてます。
まぁ、でも良しとしますかね。人付き合いが苦手でも、最近は大分良くなってきてると思いますし。声をかけられれば笑顔で返答しますし、挨拶もちゃんとするようになりましたし。
「あー、また片瀬くん見てるのね!? 視線があつーい」
クラスメートで友達の
「違いますよ」
恋愛的なことじゃないんです。いや、そういう部分もあるんですけど、昔っから総夏の心配はつきないんですよ。弟みたいなものですし。
「いっそ告白しちゃいなよ。九十九パーセント成功するよ。ていうか、鈍いよねぇ」
「違うって言ってるじゃないで……鈍いってどういうことです?」
「うーう。なーんでも」
そんな感じで登校日は終わりました。
○
帰り道。
私は総夏以上にぼんやりと歩いてました。
せっかくナツ君に会えるチャンスだったのに見事に逃してしまいました。まだまだ夏休みだけど、総夏を遊びに誘うのは違う気がしますし。てか、それはさすがに総夏に失礼ですよね。
「ん?」
私が歩いてるのは歩道と車道が分かれていない細い道なんですが、進行方向の先で泣いている小学生と、うちの制服を着た高校生が話をしていた。
「っ! まさか!?」
私は慌てて走り寄る。二人の会話が聞こえてきた。
「わかったな?」
「う、うん。ごめんなさい」
よく見ると、小学生は腕や足に擦り傷がありました。近くに公園があるため、この辺りは子供の飛び出しが多いのです。車にひかれそうにでもなったのかもしれません。
「じゃあ気をつけて帰れよ」
「ありがと」
「ああ」
小学生を見送る背中に声をかけてみる。
「総夏?」
私の呼び掛けに反応して、こちらを振り向いたのは片瀬総夏で間違いなかったのです。でも、今朝や学校での様子と違って、表情の作り方が明らかに異なっていました。
上手く表現できないけど、全体的にキリッとしていて雰囲気が落ち着いているのです。
「ナツ君、ですね!?」
「……どうした? 有栖」
ああ。その声だけで胸がキュンてなります。
なんと、会えたのは一ヶ月ぶりなのです。
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