闘神薔薇夢 戦国遊戯

@eichan4

第1話 桶狭間の戦い

冒頭 ~暗雲の刻~


永禄三年、梅雨入り間近の尾張。空には重く濁った雲が垂れこめ、湿った風が戦の気配を運んでいた。

今川義元、総勢二万五千。対するは織田信長のわずか二千の兵。誰もが信長の敗北を疑わなかった。


その戦場の影に、異質な存在がひとり、静かに佇んでいた。


「……この風は腐っている。悪魔が混じっているな」


黒い外套の下、鎧を纏い、背に巨大な戦槍を負う男。名を――薔薇夢(バラム)。

天界より地上へ遣わされた、“闘神”である。


彼の使命はただ一つ。

歴史を歪める悪魔の干渉を断つこと。



義元陣 ~契約の刻~


「ふふ……まさか信長が雨中を進軍してくるとはな。全て、そなたのおかげだ」


今川義元が口元を歪めて笑う。その視線の先には、霧のように揺れる黒い影――

名も知れぬ悪魔〈インサイド〉。義元の耳元で囁き続ける闇の存在。


「信長など、神にも見捨てられた小僧。貴殿が踏みつぶせば、それで終わることだ」


「終わる……いや、始まるのだ。我が天下が!」


しかし悪魔は、義元の耳元に冷たく囁く。


「だが、お忘れなく。風が動いた時、天がひとりの闘神を遣わす……その名は、薔薇夢」



雨中の突撃 ~風のごとく現れる者~


桶狭間の山道。織田軍は伏兵に囲まれ、混乱に陥っていた。

霧が濃く、足元もぬかるみ、進軍は鈍る。


だがそのとき、突如として吹き抜ける一陣の風。

霧を裂いて現れたのは、黒槍を掲げる一人の戦士――


「織田信長の兵ども!今こそ、風となれ!」


天を衝く声とともに、槍が地に突き刺さる。

直後、雷鳴が轟き、周囲の木々が爆ぜるように倒れる。


「誰だ……!? 神か、鬼か!?」


「名乗るほどの者ではない。だが、この世の秩序を守るため、悪魔どもを討ち果たす。俺の名は――薔薇夢!」


信長は目を見開き、狂気じみた笑みを浮かべる。


「おもしろい! その槍、貸せとは言わぬが……風は我らの味方だ!」



義元の死 ~一輪の刃~


混乱の只中、義元は側近数名と共に森へ逃げ込む。

だが、そこに静かに佇む影があった。


「今川義元……これ以上、歴史を汚すことは許されません」


女が一人、黒装束に身を包み、短刀を握って立っていた。

その名は――祖父愛(そふあ)。天界の密偵の血を引く、女刺客。


「貴様……どこから……!」


「あなたの影に、悪魔の臭いが染みついています。私の刃で、祓わせていただきます」


義元は叫ぶが、遅い。一瞬で間合いを詰めた彼女の一撃が、喉を貫いた。


「ぐ……う、我が……主よ……時は……まだ……」


その言葉を最後に、今川義元、討ち死に。


悪魔〈インサイド〉の気配が風に溶け、消えていく。



結末 ~序章の終わり~


信長は勝利の凱歌を挙げるが、薔薇夢は一歩退いて空を見上げていた。


「悪魔はまだ終わっていない……これは、ほんの始まりに過ぎん」


祖父愛が静かに近寄る。


「あなたが……天からの使い、薔薇夢ですね。ようやく会えました」


「俺の名を知っているとは……お前も、ただ者ではないな」


彼女は無言で首を振り、風に舞う一枚の羽根を拾った。


「天の秩序を守る者として、あなたと共に戦います。父の遺志を継ぐためにも」


闘神と刺客。二つの運命が、ここに交差した。


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