第12話 開戦
12 開戦
食事をとった後――オレ達は雑談をしながら件のレーダーを観察する。
だが、今の所、大きな動きは無い。
敵同士が戦った形跡も無く、皆、一定の距離を保っている。
一つ気になった事は、敵が皆、この市に集中している事だろう。
恐らく他の点より大きな九の点が〝行使い〟の筈。
その九の点は、全てオレが居を構える市にあるのだ。
オレはこれが――ただの偶然だと思えない。
「ですね。
恐らく〝行使い〟は、全員、この市の出身なのでしょう。
誰がどんな基準で選んだのかは分かりませんが、彼等が〝行使い〟になったのは最近の筈」
「んん?
そうなんだ?
それは――未だに誰も〝行使い〟が倒されていないから?」
「ええ。
仮にこの戦いが長期にわたっているなら、既に脱落者が居てもおかしくない。
でも実際は違っていて、〝行使い〟は皆健在です。
それもただの偶然とは思えないので、私としてはやはり自説を支持する他ありません」
「………」
オレもその見方に、異議を唱える気は無い。
仮に戦闘があれば、紫雨華南がそれを〝察知〟する筈。
彼女もオレ達と同じ作戦が使えるから、生き残った敵を不意討ち出来る。
そういった有利な作戦を使えるのに、紫雨華南はソレを使った形跡がない。
という事は戦闘自体が、まだ無いという事ではないか?
昨日行われたオレ達と紫雨華南の戦いが、初めての〝行使い〟同士の戦いだったのでは?
だとすれば――戦闘は正にこれからという事。
鹿山さんの作戦通り――敵同士が上手く潰し合ってくれるかに全てはかかっている。
「……んん?」
いや。
そう思っていたのだが――事態は思わぬ方向に動く。
鹿山さんは不可思議そうに眉をひそめると――こう告げた。
「一寸この点の動きは、気になりますね。
この電車の路線は、私達が居るホテルに通じる物です。
まさか――この点の主は私達の居場所に気付いた?」
「は、い?
でも、青髪さんは完全に紫雨華南をまいたのでしょう?
なら、敵が私達の居場所を把握している訳が無いわ。
ただの偶然なんじゃない?」
「………」
だが、鹿山さんの表情は優れない。
いや。
やがて彼女は、こう結論した。
「と――私達のホテルがある直ぐ傍の駅で電車をおりましたね。
やはりこの敵は――私達の居場所を把握している様です」
「――つっ?」
即ち、ソレは逃げるか戦うかという、選択肢を迫られているという事。
敵が本当にこのホテルに向かっているなら、オレ達はそのどちらかを選ぶしかない。
その判断次第では、オレ達は、或いは終わりかねない――?
「……そうね。
私達と敵が交戦状態になれば、紫雨華南がソレを察知する。
仮に私達が敵を倒しても、今度は紫雨華南が疲弊した私達を不意討ちする筈だわ。
そう考えると――安易に戦闘は行えない」
「――ですね。
私もそう思うので、先ずはホテルから出ましょう。
それでも敵が私達を追跡してきたなら、何か別の手を打たなければ」
いや。
鹿山さんがそう計算した時――それは起った。
オレ達が居る部屋は変化して――オレ達に食らいついたのだ。
◇
「く――っ?」
オレ達の部屋が折りたたまれ――巨大な顎と化す。
凶悪な歯がついたソレは既に部屋でなく――何かの巨大な口の中だ。
常人が見たら――まずパニックを起こす状況。
驚いている間に――そのまま死亡するというのが普通だろう。
事実――折れ曲がった部屋は歯を立ててオレ達に食らいつく。
だが、オレと鹿山さんは残念ながら普通ではなく――彼女はこの時も冷静に対処した。
「〝あたし達〟は――〝落とし穴〟に〝落ちる〟」
途端、部屋の床に穴が開き、オレ達はそこに落下する。
敵の不意討ちから逃れたオレ達は、階下の部屋に降り立ち、眉をひそめた。
「――〝部屋〟を〝変化〟してきました、ね。
つまり敵は――〝は行使い〟という事。
問題はなぜ〝は行使い〟が――私達の居場所をピンポイントで特定できたかという事」
「………」
確かに、そうだ。
今の不意討ちは、オレ達が泊まっている部屋の位置を、正確に把握しなければ出来ない。
鹿山さんですら、敵の位置を知る事ができるだけで、それが何者かは分からない。
だというのに〝は行使い〟はオレ達の居場所を正確に特定して、攻撃してきた。
〝ば行〟も使える敵は、だから鹿山さんより強制力が低い筈。
それでも――敵がオレ達の居場所を特定出来た理由は何だ――?
「――とにかく、これで開戦ですね。
もう既にこの戦いは紫雨華南に〝察知〟された筈なので、ここは考え方を変えましょう。
〝は行使い〟とは私が戦うので――折紙さんは何もしないで下さい」
「――はっ?
それはどういう――って、そうか!
私は紫雨華南が奇襲してきた時の為に、力を温存しておくべきなのね?
それなら彼女が漁夫の利を狙っても――私が対応できる」
因みに階下にも人は居て、彼等は突然上から降ってきたオレ達を見て、亜然としている。
鹿山さんは一般人に見られながらも、こう詠唱した。
「〝あたし〟は〝得物〟を〝得る〟。
〝あたし〟の〝得物〟は――〝あなた〟に〝当たる〟」
小型拳銃を具現した鹿山さんは、そのまま発砲。
弾丸はホテルの窓を突き破って、あろう事か東に向かう。
敵は今東に居て、その敵を追い、鹿山さんの弾丸が迫った。
「――と、駄目ですね。
やはり敵に、攻撃を防御された様です」
「敵に防御?」
「はい。
恐らく此方の弾丸の〝方向〟を〝変化〟させたのでしょう。
かすり傷位は負わせた筈ですが、とても深刻なダメージとは言えない。
そしてやはり問題なのは――私と敵が互いに互いの居場所を把握しているという事」
その直後――鹿山さんは更に詠唱を繰り返す。
「〝落とし穴〟に〝落ちる〟」
同時に――オレ達が居た場所で〝爆発〟が起きる。
今の鹿山さんの詠唱は、ソレを避ける為の物だ。
彼女はただの直感で、敵の動きを察知した。
能力者は常人より五感が優れ、身体能力が高いケースが多い。
よってオレ達は一気にホテルの一階まで落下して、見事に着地する。
そのままオレ達はホテルを出て、鹿山さんはオレと共に人ごみに紛れた。
「人ごみに居る限り、敵は大規模な〝爆発〟は行えない筈。
その間に私は攻撃するべきなのでしょうが、この場合どうなのでしょうね?
街中で発砲すれば、さすがに当局が駆けつけてくる?」
「いえ、それは無いでしょう。
一般人は私達の戦いを認識さえ出来ない筈だから、発砲した事にさえ気が付かない。
人ごみに紛れて敵の攻撃を封じ、その間に此方が攻撃するというのは有効な作戦の筈よ」
オレが説明すると、鹿山さんは即座に動く。
大規模攻撃が行えない敵に対して、鹿山さんはこう詠唱を繰り返す。
「〝あたし〟の〝得物〟は――〝あなた〟に〝当たる〟」
弾丸を五発連射して、ソレを敵へと命中する様に図る。
が、ここでも均衡状態は続いた。
「やはり、敵の防御も完璧です。
現に敵の点滅は、今も健在ですから」
オレが広げている地図を視て、鹿山さんがぼやく。
遠距離で戦っている間は、やはり優劣をつけるのは難しい?
オレがそう計算している間に、敵は次の手を打ってきた。
「つっ!」
鹿山さんが手にしていた拳銃が――爆発したのだ。
鹿山さんの武器は半壊して――使い物にならなくなる。
「――〝武器〟を〝爆破〟してきましたね。
予想はしていましたが――やはり手強い」
それも、当然だろう。
何せ敵は、鹿山さんの二倍のワードを使える。
紫雨華南の件があるとはいえ、そんな敵に鹿山さんだけで勝てるのか――?
オレが固唾を呑む中――尚も戦闘は継続された。
「やはり――ここは逃げるべき?
いえ。
ですが敵には謎の探知能力がある。
その謎を明らかにしない限り――ここで逃げても同じ事を繰り返すだけ?」
自問自答する、鹿山さん。
いや。
彼女は即座にその可能性に気付く。
「と――これは不味い!」
この時、敵は恐らくこう詠唱した。
〝人々〟を――〝暴走〟させると。
途端、オレ達の周囲に居る全ての人々は敵と化し――一斉に此方へ押し寄せてきた!
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