第5章 始動開始 第1話
第1話
目覚めた時、ここが自分の世界とは別の世界であることが、徐々に実感してきた。
夢ではないリアリティさに、私は溜息を隠しきれない。
ブリアナの身体の中にある自分。
もとの世界にいない、今の自分。
これは、母の本が予見していたこと?
是非とも読んでみたいが、手元にない。
今の今が自分の現実であることに、私自身実感していた。
薔薇が描かれた優美なカップをソーサーに戻した私の腹は、現実的に充分に満たされていた。
私は、ようやく近くにいるクリシアの存在を感じ、落ち着いて観察することができた。
スレンダー美女のクリシアは、私よりもずっと年上で、四つ上のブリアナと同じくらいに見えた。
「クリシアって、いくつなの?」
私は、疑問に感じたので率直に問う。
クリシアは、驚いた顔をしている。
「私、ですか?」
「そう。ホアンからきいていない? 私、以前のブリアナと違うってこと」
私は、隣にいるクリシアにも念を押しておこうと考え、神妙な声で言った。
「もちろん、きいていますわ。でも一介の侍女の年齢を気になさることですか?」
戸惑いが入り混じった声音で、クリシアが問うてくる。
私は、小首を傾げてしまう。
「それって、きいては駄目なの? 私の専任だと言っていたから、ここにいる間って、クリシアといる時間は長いってことよね?」
「そうですが」
「私自身、この世界のことはよくわかっていないから、同性の親しい人が欲しいの。それにできればね、クリシアとはお友達になりたいの。駄目?」
「と、友達ですか? 恐れ多いです」
「なぜ? 私は一介の花嫁候補って、きいているよ?」
困惑を隠し切れないクリシアに、私は苦笑して言う。
「ブリアナ様は、王子様たちのお気に入りの姫君です」
「だから私はね、以前のブリアナと違うの。王子様たちと仲良くするよりもずっと、何でも話せそうな同性の友達が欲しいの」
「友達、ですか?」
「そうよ。庇護者のホアンでもいいかもしれないけど、彼がここにいないってことは、忙しいのでしょ?」
私は、どう見てもこの部屋に、ホアンがいないことに気づいていた。
彼女自身、目の前にいるクリシアと仲良くなりたいと感じて懇願する。
ブリアナよりも穏やかそうであるが、手厳しいところもある。
それでも雰囲気的に、優しい姉のような印象がクリシアにはあった。
私としては、クリシアとお近づきになりたいと、切実に願っている。
「そうですか。ブリアナ様がそう仰るのであれば、よろしいですが」
「私としては、友達になりたいから、敬語はなしって駄目?」
「だ、駄目です。私は、賃金を頂いてお仕えさせて貰っているのです。それを踏まえて、主に対しては礼儀をわきまえることを信条としております」
「あ、主って……。まあいいわ。よろしくね、クリシア」
「は、はい。よろしくお願いします」
私は、クリシアの現状を踏まえて妥協し、無邪気に笑って言う。
それに応じてクリシアも嬉しそうに笑ってくれたので、私自身安堵に胸を撫で下ろした。
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