第11話 番を見つけた④

ラーダはうっとりと番からの初めての施しを食べた。

途端にびりびりと脳髄が痺れるほどの幸福感に襲われる。

細胞の一つ一つが活性化したような万能感とそれこそ骨の髄まで溶けるようなうっとりとした感覚に襲われた。

これが番の力、とクラクラとしながら視界が歪む。

幸せすぎて鼻血が出そうだった。


「うまい。こんなに美味いとは」

「そっ、そんなにですか?そんなに……嬉しいんですか?」


困ったように見上げてくる番が可愛い。撫で回したい。

しかし、戸惑ったというか胡乱げな様子の彼女に己の感謝と感激を疑われている気がして慌てて言葉で弁明した。


「当たり前だろう!やっと、やっと出会えたんだ!それだけでも僥倖なのに、まさかこんな……食べさせてもらえるなんて」


番に出会いたくないなんてなぜそのようなことを思っていたのかもう全くわからない。

やっと会えたと全身が嬉しいと叫んでいる。

それに呪いとまで言われる番に出会ってすぐに求愛行動をされるだなんてどれだけの徳を自分は積んだのだろう。

幸せすぎて怖い。


「もっとたくさんありますからいいですよ」

「えっ、いいのか?」

「はい。もうあなたのものです」


ちょっとまってくださいね、と微笑みと柔らかい声でどんっと、カゴに盛られた菓子が目の前に差し出される。

それに、いま、あなたのもの、と言ってくれた。


愛しい愛しい番が、あなたのものと自分を差し出してくれている。


涙が出てきた。


「へっ、え?だ、大丈夫ですか?」

「………夢のようだ」

「そっそんなに?!」


番はびっくりしている。

なぜそんなに驚くのだろう。唯一無二の魂の片割れが惜しまない求愛をしてくれているというのに。


(そうか、彼女は人族だから…)


匂いがわからないのだ。

ラーダはこんなにも好きだ嬉しいとフェロモンを出しているのに。

彼女の匂いはずっと一定で変わらなくて、求愛が成功したことに気がついてさえいなそうだ。嬉しいというよりもやっぱり疑ってそうな様子。


いや、そもそも銀狼の雄は愛した相手の”感情の匂い”は突然わからなくなる生き物だ。

自分がすでに何もわからなくなっているのではないだろうか。

そうすると途端に不安感が込み上げてくる。


すると、ぱっ、と彼女が決意した顔をした。


「わかりました!他にも作りますよ!」

「えっ、いいのか?」

「もちろん!」


もしかして彼女はラーダが受け入れていることに気がついてないのだろうか。

突然さらなる求愛行動に出てきた。

もちろん、それを断るわけもなく、ラーダはどうぞどうぞと次々差し出されるものをぺろりと平らげた。


彼女は満足そうにニコニコと笑ってくれていた。


こんなにも番が求めてくれているのであれば急いで巣を用意して迎えなければ。

しかし彼女はこの店を大切にしているようだしいきなり違う場所に攫うのはよくないかもしれない。

巣に連れ帰ったら外に出してあげる自信がない。

次兄のことを全く笑えなくなるだろう。


(嫌だが、人族だしな。人族は確か……、結婚式、という制度があって。それで式のあとが初夜とやらでそれまでは手を出したら不誠実なんだったか。遊びと思われるとか。すぐくっついたり別れたりするから逆に大切な相手には不用意に手を出さないんだったな。じゃあまずは通いでその間に過ごしやすい巣穴を用意して………あぁ、我慢できるだろうか)


番からの施しで気力体力がみなぎりまくり、高速回転する頭で必死に最速の段取りを考える。

番はラーダが食べる様子をうっとりと嬉しそうに頬を染めて眺めていた。

この様子なら人族でも浮気の心配はなさそうだ。


ラーダは幸福感に頭がうっとりとろけていて、人族と獣人族の求愛の仕方が違うということに全く気が付かなかったし、自分が脳筋で物事を大雑把にしか把握しない性質だと言うことを忘れていた。

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