第3話 Fight

「全然戻って来ねぇな、ドラネルのヤツ」


新しい絵本を取りに行ったきり戻って来ないドラネルを、部屋でずっと待ってたがあまりにも遅すぎる。


「まさか、なんかあったのか?」


しょうがない、探しに行くか。部屋を出ようかと思ってたら、突然扉が開いてアワリティアが入ってきた。


「異丸さん、ドラネルさんは?」


「え?ここにはいねぇよ。2時間前に新しい絵本取りに行ったし。ま、全然戻って来ねぇけどな」


「そうですか。異丸さん急用が出来てしまいましたので、私がいない間の留守を頼みたいのですが……よろしいでしょうか?」


「わかった。気をつけてな」


「はい。終わり次第、すぐに戻りますね」


そう言うとアワリティアは、小走りで子供部屋を後にしていった。


「しょうがねぇ、部屋の片付けでもするか」


ドラネルが出しっぱなしにした折り紙や読み飽きた数冊の絵本、ボドゲやトランプに人形などで部屋は散らかっていた。


近場に落ちてた絵本を片付けようと拾い上げたその時、突然部屋の窓ガラスが割れる音がしたため俺は急いで振り返ってみる。


するとソイツは見るからに、周りからイケメンだと言われたら納得してしまいそうなくらいの美青年だった。


驚きのあまり俺がソイツに見惚れていたら、相手が俺に向かって何かを叫んでいた。


「ここにいてはいけないッ!!少年、すぐにでもここから立ち去れッ!!アイツが帰ってくる前にッ!!」


「アイツ?ていうか、アンタ誰?」


「覚えていないのか?あの年齢ではしかたないか。ならば……“妖精”、“ネージュ”と。そう言えば何か思い出せそうか?」


妖精?ネージュ?俺は……その言葉を、知っているッ!!


「まさか、あん時のッ!?何でッ!?」


「今そんなことはどうでもいいッ!!早く行けッ!!でなければアイツが……ッ!!」


物凄い剣幕で焦ったような口調で俺に話し続けるネージュを見てるうちに、段々嫌な予感を感じだした俺は彼を信じてみよう。


そう思った時、勢いよく扉が開きアワリティアが入ってくる。


「道理でおかしいと思ったら……オマエのせいか?第六位さんよォッ!!」


「アワリ……ティア、さん?」


「あ~あ、予定……狂っちまったじゃねぇかァッ!!どう落とし前つけるつもりだオマエッ!?ああんッ!?」


俺とネージュに話しかけながら右耳のピアスを外しそれを左耳に付け替えた途端、アワリティアの魔力が徐々にどす黒く濁っていく。


そして彼女が着ていたメイド服は不穏な音を立てながらビリビリ破けていき、濁った魔力を浴びた瞬間に上下グレーのスーツという姿に変わる。


髪も焦げ茶色から真っ黒に変わり、長かった髪は濁った魔力を浴びた途端短くなり自動的に外側へと跳ねていた。


「なッ!?」


「これがコイツの、私ら兄弟で次男の姿だよ。少年、君が今まで見ていた彼女の……本性だ」


「そ、そんな……」


「オイオイ、俺のお気に入りに……何してくれちゃってんだぁッ!?オマエはよォッ!!」


アワリティアの時の面影なんか、微塵も感じられなかった。


ただひたすら、怖いッ!!知らないッ!!こんなヤツ俺は知らないッ!!怖いッ!!


「嗚呼、可哀想になぁ。オマエが気づかなきゃ……ずっと幸せで楽しい日々だったのになぁッ!!哀れだなぁオマエ」


「いい加減にしろよ、兄様。オマエのそれは“愛”じゃないッ!!ただの“束縛”だッ!!」


「相変わらずだなぁ、正論野郎。俺はコイツに恩を返してるだけだ。約束必ずは守るし、借りは必ず返す。俺はそういうタイプなんでね」


「恩?借り?少年、君は彼を助けたことがあるのかッ!?」


え?俺がコイツをッ!?いつだ?いったい俺がいつコイツを……まさかッ!?


「アンタ、あの時の……ッ!?」


去年の夏休み、俺は反抗期が一番強く出ていた時だった。


母さんに嫌がらせするつもりで俺は「本屋に行って参考書を買いたい」と嘘を吐き、その金で前から気になっていた高級塩大福をこっそり買っていた。


母さんに見つかりたくなかったので隣町まで移動し食べながら歩いてた俺は、目の前で倒れて気絶してる“誰か”に遭遇する。


「え?人が……行き倒れとるーーッ!!これって生きてるのかッ!?死んでたらどうしよッ!?」


「……、うるせ……頭に……響くだろ……」


「ああッ!!生きてたッ!!大丈夫かアンタッ!?水いるかッ!?飲みかけだけど」


俺が心配で眺めてたソレが声に反応したため、俺は声をかけつつソイツに飲みかけの水が入ったペットボトルを差し出す。


さすがに衛生面は良くねぇが、助けたい気持ちが勝ったので試しに渡してみようと俺は試みた。


するとソイツはペットボトルを認識するなり、乱暴にそれを受け取りキャップを開けるなり勢いよく水を飲み干した。


「ああ~ッ!!助かったァッ!!今回マジでヤバかったんだよッ!!あんがとよ、オマエに借しができたなぁ」


「借しって……さすがに大袈裟では?」


「いや、大袈裟じゃねぇよ。オマエは俺の命の恩人ってことだ。そうだなぁ、今回はサービスだ。対価無しで叶えてやんよ、オマエの願い」


「サービス?対価無し?願いを叶えるって……神じゃあるまいし。アンタ詐欺師なのか?」


「あ”?あんなカス共と一緒にすんな。俺は神じゃねぇが、ある程度の願いは叶えてやれんだよ。悪魔だし」


え?今なんて言ったコイツ?あ、悪魔ッ!?まさかね、そんなんが現実にいるわけ……


「で……オマエは今、願いってあんの?今ねぇなら半年後また訊きに行くけど」


「願いか……強いて言えば、あの頃に戻りたい」


「戻りたい?何で?」


「一番楽しくて幸せだったのは、幼かった俺と両親で過ごしたあの日々だから」


「今は、辛ぇのか?」


「優秀な妹ができてから、両親の態度は変わった。俺は長男だが妹よりも出来が悪い。だから母さんも父さんも、成績の悪い俺を見てくれない」


俺なりに努力はした。けど妹には勝てなかった。


努力の秀才とか才能があるヤツって、ホントにいるんだって思い知らされた。


中学生になってからはもっと勉強に着いていけず、とうとう俺はテストで赤点ばかり取るようになっていった。


妹は小学生で高学年だけど、テストは全教科85点越えが当たり前という状態をキープしていた。


それからは、言わなくても分かるだろ?俺は両親から何も期待されなくなってしまった。


「つまりオマエは、“幸せで楽しい時間の多い日々”が望みってことか?」


「そうかもね。ヤベッ!!もうこんな時間ッ!?さすがに帰らねぇと。聞いてくれてありがと、でもこの話は忘れてくれ。今のナシな」


そう言って俺はソイツと別れて帰路に向かった。


「気に入ったァッ!!俺がオマエの望みを、願いを叶えてやんよッ!!喜べニンゲン、俺は優しいからなぁ。楽しみにしとけや」


このことが原因で後に俺は、コイツに囚われることとなってしまった。




「これで恩返しのサービスは終わった。ま、オマエが払ってくれんなら……さっきの続き仕切り直してやんよッ!!ただし、こっから先は有料だがな」


「有料って……」


「少年、君は対価を払ってまで……彼の与えてくれる“幸せ”が欲しいのか?」


幸せ?確かにここでの暮らしは賑やかで楽しいし、嫌なことなんか辛いことなんか何もない。


けど、俺の欲しかったモノは……違うだろ、俺は……


「ごめん、アワリティアさん。やっぱ俺は……自分のいた世界に帰りたいッ!!」


「よく言った、少年ッ!!走って走って走り続けろッ!!コイツから逃げきるんだッ!!絶対に振り返るなッ!!扉が見えたらそれを開けて……怖いかもしれないが、そこから飛び降りるんだッ!!」


「さっきから余計なこと、べちゃくちゃ喋りやがって……お仕置きだなァッ!!第六位ッ!!」


「くっ……かはッ!!」


「妖精さんッ!?」


「何も信じられないというのなら、信じなくたっていいッ!!だが、今だけは……私を信じてくれッ!!行けッ!!少年、逃げろーーッ!!」


こんなに傷だらけなのに、吐血してもボロボロになっても……ネージュは俺を逃がそうとしてるのに……


俺がコイツを信じてやらねぇなんて、そんなん……出来るわけがないだろうッ!!


「ありがとう、妖精さん。それと……ごめんね、バイバイ」


二人に向かって涙を流しながらそう言うと俺は、その場から力の全てを振り絞り走り去った。


「行ったか。さぁ、兄様。今から私と、ちょっと喧嘩しようか?」


「言葉は不要だ。かかってこいよッ!!この……偽善者がァッ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る