第43話 病気
アクダマス侯爵と皇帝陛下の話し合いが終わったのか、テーバイの騎士たちがアクダマス侯爵をどこかに連れて行った。
きっと、これからさらに厳しい詰問が待っているんだろうなと、憶測する。
よぉっし、皇帝陛下に詳しく聞かなくちゃ!
「皇帝陛下、アクダマス侯爵のせいで病気になった領民の人たちを、私が治癒できると思うんです」
「え!? あの謎の病気を!? しかもあの病気ってアクダマスのせいなの!?」
私の突然の告白に、皇帝陛下の声が裏返る。
さっきまでの威厳も何処へやら。
……なんだかすみません、もう少し前置きが必要でした。
「んんっ、詳しく説明してもらえるか」
そりゃそう。興奮のあまり端折りすぎました。
「はい。あの紫色の斑点ができる病気は、アクダマス侯爵たちが呪具を作る時に出来る呪われた水が原因で。その水が湖に流れ落ち、湖の水を飲んだ領民は病気になり、湖は紫色の朽ちた湖に成り果てました」
私は叡智から教えてもらった知識を、事細かく皇帝陛下に話した。
「そういえば……領民たちから話を聞いた騎士も、水が原因だと言っていたな。だけどまさか、あんな色の水を飲むなんて……」
「初めは透明だったみたいです。だからいつも通り飲んだんだと」
「そうか……なるほど」
私の話を聞いた皇帝陛下が黙り込む。
それはそうだろう。テーバイで起こった全ての元凶が、アクダマス侯爵だったんだもの。
「だから、その水を飲んだ人たちを、私が少しでも多く助けてあげれたらと」
自分で言いながら、偽善っぽいし、烏滸がましいなと思うけれども……
本当に助けてあげたいと思うのだ。
この感情は、自分が助けるだけの力があると、分かっているからなのか。
それは分からない。
だが、そんなことはどーでもいい! 助かる命を助ける。
「レティシア嬢が、その病人たちを救えると言うんだね」
「はい!」
大きく自信満々に返事を返すと、皇帝陛下は私に頭を下げ「ありがとうレティシア嬢」と、柔らかく微笑みお礼を言った。
その姿は、国民のために頭を下げたのだなと分かる。
テーバイ皇帝陛下は、本当に国民思いの素晴らしい人だ。
「それで、その病人たちはどこに居るんでしょう? この街に入った時に思ったんですが、街が死んでいるようでした」
「……そうだね。私もこの街に入って同じことを思ったよ。街の人たちの様子を騎士たちに調査するよう、今頼んでいる。そろそろ報告に来ても、いい頃なんだが……下に降りてみるか」
皇帝陛下が、赤い狂騎士たちが集まっている広間へと向かう。
その後を私もついて行こうとすると。
「ふぇ!?」
後ろからお父様に抱き上げられた。
「レティ? さっき皇帝陛下との話、お父様にも聞こえたんだけど、詳しく教えてくれるかな?」
「ひっ!?」
笑ってはいるけれど、口角がピクピクとし、無理やり笑顔を作っているのが分かる。
きっと、厄災の魔王の力で、また何を始めようとしてるんだい? っと思っているに違いない。
もうその表情で分かる。
「ええとですね……」
広間に向かう道中で、私は湖の水を元に戻した話や、その水を使って謎の病気が治癒できる話などを説明した。
「そんな事が……またレティには驚かされる。だが、領民に罪はない。レティは本当に優しいね。厄災の魔王の力を人の為にばかり使っている。自慢の娘だよ」
お父様はそう言って私の頭を撫でた。
なんだか褒められて照れ臭いけども、嬉しい。
階段をおり広間に下りると、五、六人の騎士たちが慌てて侯爵邸に入って来た。
そのままの勢いで、皇帝陛下の所まで走って来た。
もしかして、この騎士たちが調査していた人たちでは。
私たちも慌てて皇帝陛下の近くに行き、話を聞く。
「街を調べて来たのですが、どうやら病人たちは街の病院に居ました。ですが病人の人数が多すぎて、その隣にある教会も開放しているみたいです」
「そんなにも病人が多いのか!?」
「それだけでも入り切らず、仮設テントも建てられていました」
「この街に住む領民の、三分の一の人が病気になっています。病気になってない残りの人たちは、病人たちの看病に追われていて、かなり疲弊していました。この街が全く機能していないのはそれが原因です」
調査した騎士たちの話を聞く限り、事態はかなり深刻だった。
急いで癒しに行かなくちゃ!
「皇帝陛下、私助けに行ってきます。場所を案内してもらって良いですか」
「ありがとう、レティシア嬢。私はまだここでやる事があるので行けないのだが、手伝いに騎士たちを連れて行ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
皇帝陛下が騎士たちを紹介してくれる。
「「「「「「ウォォォォォォ!!」」」」」」
「ふぁっ!?」
赤い狂騎士たちが、士気を高め鼓舞している。
急にどうしたの!? 戦う敵はいないよ?
——はっ!!
もしかして……一緒に行くき?
待って待って、今から戦闘に行くんじゃないんだよ?
今から癒しに行くんだよ?
「「「「「「姫、我々にもお手伝いさせて下さい!」」」」」」
赤い狂騎士たちが私の周りに跪く。
予感は的中。やっぱり一緒に行く気なのね。
人数は多い方が良いと思うんだけど……
大丈夫かな? 襲いに来たって、怖がられたりしないかな。
そんな一縷の不安を残しながらも、私は助けに向かった。
待っててね! 絶対に助けてあげるから。
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