第39話 ジュエルボアのステーキ
せっかくのお肉を台無しに出来ない。
この肉汁溢れるステーキ(絶対お美味しい)は死守しないと。
慌ててフライパンごと無限収納に入れる。
さぁ、どんな奴が来るの!?
ジュエルボアと戦って勝ったんだもの、私ならやれる!
身体強化で身構えた私の前に、聞こえてきたのは。
『あるじぃ! やっと見つけたっちぃ』
間抜けな聞き慣れた声だった。
ガサガサと茂みの中から現れたのは、なんと泣きべそ顔のおもちだった。
「おっ、おもちぃ! 私を探してくれたの!?」
嬉しい。さっきまで一人でちょっとだけ不安だったのが、おもちが側にいる事で安心感が広がる。
『目覚めたら、あるじが居なくちぇ。わりぇはビックリしたっち! そりぇに、あるじの魔力も探知出来ないし……見ちゅけれて良かったっち』
大きな瞳からポロポロと涙を流すおもち。
一生懸命に私を探してくれたんだろう。
「おもちありがとう」
ふわふわのおもちに抱きつき、顎の下を撫でる。
おもちはここを撫でられるのが、一番好きなのだ。
そうか、おもちが私の場所が分からなかったのは、誘拐された建物にいたからだ。
あの建物は、認識阻害や魔力探知なども出来なくなっていた。
建物を出たから、おもちは私の魔力を辿ってみつけてくれたのね。
『なんで急に、あるじの魔力が分かったんでちぃ?』
泣き止むと今度は、不思議そうに首を傾げる。
表情がコロコロ変わって可愛いなぁ。
「あのね……」
私は今までのことを詳しくおもちに話した。
『ぬぅぅん! 許さないっちぃぃ。そいちゅらまとめてお仕置きっちぃぃ!』
話を聞いたおもちが怒り、前足でテチテチと地面を叩いている。
「私のために怒ってくれてありがとう」
ギュルル〜。
緊張の糸が緩んだからか、私のお腹から爆音が鳴り響く。
ご飯食べる直前だったもの。そりゃそう。
『プククッ、おっきな音でちねぇ。プクククッ』
私のお腹の音を聞いたおもちが、寝転がって楽しそうに笑う。
「むっ! 朝から何も食べてないんだもん。今から食べる美味しいご飯おもちはいらないんだね?」
『あああっ、いるっち! わりぇもいっぱい走ったからお腹すいてるっちぃぃ。もう笑わないから! 食べるっちぃぃ』
おもちが行儀良くお座りして頭を下げる。
大量のよだれを垂らしながら。
「あははっ、はいはい。一緒に食べよ」
無限収納に入れていた、フライパンを取り出す。
すると、出来たてホワホワの状態で出てきた。
すごい! 無限収納の中では、時間経過しないんだ。
お皿がないので、鉄鉱石でお皿やナイフとフォークを急いで創り、お肉を切り分けておもちと一緒に食べる。
「おおおっ、おいしぃ!」
『うんまいっちぃぃ!」
私とおもちは、ジュエルボアのお肉の美味しさに舌鼓を打つ。
なんて美味しいんだろう。
久しぶりの塩だけのシンプルな味付けなのに、もうこれだけでいい。
なんなら、他の調味料なんていらない。
塩がジュエルボアの旨みを引き立てている。
この岩塩、最強に旨いんやが! ジュエルボア旨すぎるんやが!
おっと興奮しすぎて、変なイマジナリーさんが登場してしまった。
初めて食べたジュエルボアのお肉は、最強に美味しかった。
おもちなんて収納していたお肉の半分は、食べたんじゃないかな。
『うんまいっちぃぃぃ! おかわり』っと催促するので、何度も焼いたもの。
ジュエルボアは、私たちの国エンディバン王国には生息してないみたいだから、また出会ったら絶対にお肉をゲットしたい。
「よし、岩塩はこれくらい採取したらいいかな?」
あまりにも岩塩が美味しかったので、再び多めに採取したのだ。
こんなに旨味がある岩塩は、前世も含めて初めて食べた。
帰ったらこの岩塩を生かした料理を作りたいなぁ。
「じゃあ、お腹もいっぱいになった事だし、アクダマス領に向かって出発する?」
『ちょっとお昼寝したいっちけれど、あるじぃに酷いことしたやちゅらは許せんっち!』
お腹いっぱいになって眠たいんだろう。
おもちはご飯を食べると毎回寝ていたから。
私のために眠そうな目を擦りながら、キリリと目を強める。
『急ぐならわりぇの上に乗るっち!』
おもちが自分の上に乗れと伏せの体制で待機している。
確かにおもちに乗って移動したら、早いんだけれど。ちょっと気になる事があって……
さっきから目に入ってくる香草の情報。
チラホラと魔眼が教えてくれているのだ。
あっちにはカルダモン! あの奥にあるのはクミン!
正確な名称は違うのだけど、魔眼様が分かりやすく教えてくれるのだ。
本当なら香草は、ライオスにお店を案内してもらう予定が……誘拐されたりとで色々あり行けてない。
買うより、自分で採取するのも楽しそうだし。
香草を集めながら、アクダマス領に向かっても大丈夫だよね?
私の無事は報告しているし、領主は呪い返しで倒れているし。
なんせドンバッセル領の最強の赤い騎士たちがいるんだもん。
みんなに任せて大丈夫。
なので私が、ちょっとくらい香草採取しても問題ないよね?
そう私はこの香草たちを見て……例のアレを作れるんじゃないかとワクワクしてしまったのだ。
そうみんなが大好きカレー!
この森でその材料が、全て入手できそうなんだよね。
——ワクワクしてきたぁ!
「おもち、今は背中に乗せてくれなくて大丈夫! 気になる材料がいっぱいあるから、それを採取したら背中に乗せてね」
私はおもちにそう告げると、ニッコニッコで香草の採取を始めた。
『ぬううん? あるじぃ草をとってニコニコしてる……何が楽しいっち?』
そんな私の姿を、おもちは不思議そうに首を傾げて見ていた。
あとでビックリする料理になるんだからね!
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