第37話 お父様焦る
テーバイ王国陛下たちと泊まっていた宿から、レティシアが姿を消したのを気付いてから、一時間の時がたった。
我々はレティシアを探すべく、大急ぎで出発の準備を進めていた。
「レティはどこに攫われたのだろう……はぁ」
——レティ無事でいてくれ!
せめておもち様が、レティの居場所を知ることができたら……
いつもなら、何処にいてもレティの居場所が分かるのに、今は全く感知できないと暴れていたからな。
「ん? あれ!? おもち様どこに行った!?」
さっきまで『ぬううん』っと唸り声をあげて、ソファーの前で居たのに。
おもち様がいたであろう場所にその姿がない。
どこに行ったのだ?
「お父様! アクダマス領への出発の準備が、完了したみたいです」
「……そうか、ジュエルよ報告ありがとう。では向かおう」
おもち様のことは気になるが、今はレティが優先だ。おもち様ならどこにいても大丈夫だろう。
ジュエルと慌てて部屋を出ようとした時に、突然ソレは現れた。
「なっ!?」
青白く輝く用紙のような物が突然目の前に現れたのだ。
そして次の瞬間。レティシアの声で、用紙に書かれていることが読み上げられていく。
——なんだこれは!?
レティの口から無事だと告げられる。これは創造魔法で、レティが作った魔法なのか?
伝えたい事を告げると、光る用紙は細やかな粒子となり消えた。
「……よかった」
レティは無事。
そして予想通り、アクダマスの奴らがレティを誘拐していたんだな。
しかし、どうやって誘拐したのだろう。
寝台で寝ているレティのすぐ側には、おもち様もいたというのに。
まぁ、それは後でレティから詳しく教えておう。
今はアクダマス領に、いち早く向かうことだけに専念しよう。
レティもアクダマス領に向かっていると、この謎の手紙で教えてくれた。
私たちもアクダマス領に急がなくては!
★★★
う〜ん……とりあえず、この森は方向感覚が狂うのよね。
だけど、魔眼のおかげなのかアクダマス領に行きたいと望むと、一本の真っ直ぐに光る棒が現れた。
まるでアクダマス領が、コチラだと教えてくれるかの如く。
魔眼、すごい。
これなら迷わない。
光に導かれながら、歩いていくも朝から何も食べていないので気力が出ない。
なんせ寝て起きたら、知らない場所に連れ去られていたんだから。
なんでも良いから、食べものないかな……
「ん?」
なんだろう木に矢印……上を指している。
矢印が刺している上を見上げると、オレンジ色の木の実がたわわに実っている。
「美味しそうだけど食べれるのかな?」
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【リリンの実】
食べると甘くて美味しい。
マンゴーに近い味だが、マンゴーよりも甘い。
食べると魔力が二十%回復します。
魔素を好む、強力な魔獣が生息している所に生息している。
ジュエルボアの大好物
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マンゴーより甘い!? 最高なんだけど!
そうか、さっきの矢印は魔眼が上に食べものがあると、教えてくれてたんだ。
今もずっと、下に生えている草の中から薬草を教えてくれている。
私が上を見てなかったから、ワザワザ矢印を出して教えてくれたんだ。
魔眼、優秀すぎる。
でもどうやってリリンの実を採ろうかな?
六歳の身長では手が届かない場所にある。
木に登ろうにも三メートルくらいは横枝などが全くなくて、足をかけて登れそうにない。
「そうだ! 身体強化して揺らせば?」
よし! 早速体を身体強化する。お腹が空いて、力が抜けそうになるけど。
美味しいリリンの実を食べるんだ。
身体強化して太い気の幹を掴む。
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
身体強化の力は凄かった。
危うく木をポッキリと折そうだった。
頑張った甲斐もあり、大量のリリンの実が落ちてきてくれた。
早速一口味見。
パクリと皮のまま口に頬張った。
「あまーい!」
何これ!? マンゴーより遥かに美味しい! 皮は剥かないで食べちゃったけど、そんなに気にならない。
口の中が幸せだぁ……
かぶりつく度に口の中がジューシーな果汁でいっぱいになる。
大人の拳くらいの大きさのリリンの実を、あっという間に食べ終え、気がついたら五つも食べていた。
「ゲフッ……」
果物でお腹いっぱいになってしまった。
はぁ幸せ。
しかしリリンの実はまだ二十個近くある。
マジックバックもないので、持って帰ることが出来ない。
こんなにも美味しい木の実、おもちやお父様たちにも食べてもらいたいのになぁ。
「どうにか持って帰れないかなぁ……」
——ピコン!
【無限収納】を作ると、全てのリリンの実が全て持って帰れます。
容量は無限です。
無限収納魔法を創りますか?
え!? そんな便利な魔法まで創れるの!?
創造魔法最強すぎなんだけど。
「もちろん創っ!? ええ!?」
なに!? あの魔獣!?
目の前に風船のように丸く膨らんだ大きな猪? が現れた。
鼻息が荒く、今にも私に突進してきそうな勢い。
リリンの実に夢中で、近くまで来ている事に全く気付かなかった。
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【ジュエルボア】
Aランク魔獣
ジュエルボアの突進は、大型トラックとぶつかったのと同様の衝撃。
リリンの実が大好物。リリンの甘い果肉を食べて育つせいか、食べるとジューシーで甘味がある肉質。
肉は高額で取引されている。
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そうだよ! さっきリリンの実を魔眼で見た時に、ジュエルボアの大好物って書いてたじゃん!
リリンの実に夢中で、スッポリ情報が抜け落ちてた。
しかもトラックと同様の衝撃!!?
絶対ぶつかったらダメなやつ!!
ジュエルボアはフシューフシューと鼻息荒く私を威嚇する。
今にも突進してきそうな勢い。
どーする!?
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