第3話 夜

「あー」

 ドライヤーもかけないで、湿った髪のままソファーに背中を持たれてる。

 隣で私は、テレビでNetflixを見てる。

「なんかなったよ?」

 鞄からバイブ音がした。

「まじで? なんだろ」

 ソファーを立って鞄を取ると、スマホを取り出す。

「あー男が今からどうだって? うち行ってくるわ」

「えーゆっくりしてきなよ」

「太客だから、繋ぎ止めときたいんだ」

「……じゃあ、私もついてく。見送る」

「意味な」

「意味ないとか言うなよ」

「その分、男取って、そのお金私に頂戴よ」

「やだ。フユカと違って穢れなき体なの」

「ごめんね。穢れてて」

「……今ちょっと怒ったでしょ」

「別に」

 彼女は『別に』ってよく言う。


 微妙な空気のまま、一緒に付いて出た。

 昼間はまだ夏の暑さが残っているけど、夜になると空気が冷たい。

 さっきまでグダグダしてたのに、髪と化粧を整えて、お洒落な服を着てる。大人っぽい。

「水商売の人みたい」

「水商売の人だもん」

「まだ高校生だよ」

「親に言ってよ」

「相手の男にも言ってあげる」

「未成年とやるのを怖がる、ちゃんとした大人も中にはいるから、やめてね」

「でも、高校生の方が需要あるんじゃない?」

「じゃあ、佐原も体売ったら? 女子高校生」

「……ほんとやろっかな」

 段々人通りが増えてきた。街を行きかう人たち。女も男も、二人組も一人もいる。

 さっきの男とか引っかかんないかな。

「やめな、佐原向いてなさそう」

「そう? なんで?」

「……んー」

「理由考えてるでしょ?」

「……私が嫌だから、嫌なの」

「……私の子と心配してくれてるんだ。ありがとね。じゃあ、フユカが言うなら、やめといてあげる」

「そうしときな。ホテルそこだから、じゃあね」

「終わったら、ラインして。迎えに来るから」

「佐原がつく頃には、私家についてるよ」

「真ん中で落ち合おう」

「あはは、すれ違いそう。じゃあね」

 光の中に消えていく。



『急いで来て! 真ん中で落ち合おう』

 夜中になって通知が来た。どうしたんだろう。

 とにかく急いで来てほしいそうなので、家を出る。

 深夜で人も車もない通りを歩いていると、向こうから走ってくるフユカの姿がある。

 服の袖をはためかせて。ヒールなのに……痛そう。

「やばい! 人殺しちゃった」

「は?」

「警察はまだだけど、いづればれる! もう通報されてるかも」

「ちょ……何があったの?」

「相手の男が襲い掛かって来たから、思わず護身用のナイフで刺しちゃって。場所悪かったのか動かなくなっちゃって……」

「えぇ……正当防衛?」

「正当防衛。あっちが先に首絞めてきた。プレイみたいだけど、やめてっていっても聞かないから……!」

「なら、警察に言えばわかってくれるって」

「犯人が薬中の娘でも?」

「親と子は別の人間でしょ」

「学校の生贄で、売春婦でも?」

「んんー…でも、逃げてどうにかなるものなの? いずれ捕まるよ? カメラとかには残ってる?」

「ホテルの部屋はカメラなかったと思う。入口あるから、一緒に入ったのはバレてる……あと、なんか逃げるときに女の人の叫び声がした。ひょっとしたらバレたかも……」

「……自首しよう」

「えー…」

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