第8話 相関図を整理しよう
この一週間で仕事のルーティンが決まってきた。
私たちは9時に出勤する。午前中は前日の午後のデータを確認する。
昼の時間になると愛のデータ通信があるため、私たちもシステムに触れないようにする。いわゆる昼休憩だ。
昼休憩が終わると、午前中のデータを確認する。
皆が下校を終えた後、愛自身にトラブルがないか本体をメンテナンスし万全の状態でセッティングして帰宅といった流れだ。
ただ、私は少し早めに出勤している。愛にトラブルが起きたときのために対処をするためだ。
そのため、9時になるまでは私は一人で作業をしている。
トントン
扉を叩く音が聞こえた。
亘はノックをしないため、馬場先生だろう。
「すみません。プリントをお渡しに来ました。」
扉が開くと、大量のプリントを持った馬場先生が入ってきた。
持っているプリントは、愛に関する、生徒に書いてもらったアンケートだ。
「ありがとうございます!そこに置いておいて下さい。」
私は使用していない机を指さした。
馬場はプリントを机の上で整え、綺麗に置いた。
「ではこれで。」
「あっ!ちょっと待ってください。」
部屋を去ろうとする馬場先生を私は引き留めた。
プリントは生徒のものしかなく、先生の意見は書いてない。その意見も私にとっては貴重なものだった。
「馬場先生から見て愛はどうですか?」
馬場先生は立ち止まり、振り返った。
「そうですね、思ったよりも普通で学校に馴染んでいます。」
学校に馴染んでいるのは、私の目的通りの成果だ。
しかし、先生はまだ何かを言いたそうだった。
「ただ、夜中の見回り時に彼女を見るとびっくりしてしまいます。あれは起動しているのですか?夜中の間は布で隠すとかしていただきたいです。」
確かに、夜の学校で人型の影が見えたら怖いよな。
私は笑顔を馬場先生に向けた。
「メンテナンス後は全く動いていないので大丈夫ですよ。でも確かに、怖いですよね。顔の部分に布をかけておきますね。」
「それはそれで怖いですが。ありがとうございます。」
馬場先生はそのまま扉を開け部屋を出て行ってしまった。
馬場先生は私たちに対して距離があるように感じる。どうやら、元々この実験は反対だったようだが学校には逆らえなかったみたいだ。
私は馬場先生が置いていったアンケートを眺めた。
「おはようございます!それ愛のアンケートですか?」
亘が部屋に入ってきた。
時計を見るとまだ8時半だが、少し早めに来てくれたようだ。
「そうだよ!楽しみだね!」
私はそう話しながら、複数枚のアンケート用紙を選別した。
「準備しておくから、ゆっくりでいいよ。」
ホワイトボードを持ってきて、愛を中心に複数の名前を書き出した。
「何をしてますか?」
亘は荷物を整理しながらこっちを見ている。
「この一週間でできた人間関係を整理するために相関図を作ろうと思って。」
ホワイトボードには、広瀬美穂、坂巻凪、新島博之の名前が載っている。
亘も荷物を整理し終えたようだ。椅子をこちらに向けて待機している。
「よし、じゃあまずは広瀬美穂についてだ。この子は毎朝話をする関係になっている。」
私は広瀬美穂と書かれている部分を指さした。
「この子のアンケート内容は、人間としての友情といった関係だね。」
広瀬美穂から愛へ→と『人間としての友情』を書き込んだ。
「具体的には何が書いてますか?」
私は紙をめくって内容を確認する。
「広瀬美穂は部活での相談に良く乗ってもらっている。それに対する感謝が書いてあるな。」
「AIの相談がそんなに刺さるものですかね。」
亘が素っ頓狂な意見を出してきた。
「何言ってるの!?相談はAIの得意分野だよ。相手の心情を尊重しつつ、膨大なデータからアドバイスするんだから。」
現に、今は会社のコンサルをAIに任せる社長もいるぐらいだ。
「確かにそうですね。」
亘はすっと黙り込んだ。
とりあえず話を続けよう。
「次に、坂巻凪だね。この子は昼休みによくいる子だ。この子はロボットとして友情を感じているみたいだ。」
坂巻凪から愛へ→と『ロボットとしての友情』を書き込んだ。
「『ロボットとしての友情』とは何ですか?」
亘は絶えず質問をしてくる。
結構、神経が太いタイプなのかもしれない。
「坂巻凪はAIの思考方法やロボットの構造についての質問が多い。私たちみたいなことを考えているね。アンケートでも感情をどうプログラムしているかの質問が書いてある。」
私はそのアンケートを読んで少し笑ってしまった。
サービスとして、アンケートに質問の答えを書いてあげようか。
「最後に新島博之だね。この子は放課後によく話をしている子だ。この子は異性として愛を見ているね。」
「アンケートにそんなこと書いていますか!?」
亘はびっくりした顔をした。
「いや、アンケートは当たり障りのないことが書いてあるね。でも、日常の様子を見るとね。」
「確かに!可愛いくらいにバレバレですよね。」
亘の笑い声を背に新島博之から愛へ→と『恋』を書き込んだ。
一通り笑い終えた亘がホワイトボードを見て首を傾げた。
「工藤凛は相関図から除外ですか?」
確かに、私が初日に注目してほしい人の中に挙げていた名前だ。
私は工藤凛のアンケート用紙を亘に見せた。
「見ての通り、実験に非協力的なの。」
アンケートは名前だけ記入しており、後は白紙だった。
「まぁ、それもデータの一部として扱うけど、どこがどう気に入らないかを教えて欲しいよね。」
「なるほど、こればかりはどうしようもないですね。」
私はアンケートを戻し、ホワイトボードの写真を撮った。
ここから相関図がどう変化するか、愛がどう変化するか、楽しみはこれからだ。
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