妖魔との約束 その恋は…実らない
テマキズシ
第1話 彼から見た彼女
魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい世界。
しかし人はそんな世の中もたくましく生き、幾つもの国を作り上げた。
我、金剛風丸(こんごうかざまる)はこの世界で生まれた国の一つ。ワノ国の殿様になる男である。
ワノ国はこの世界にある国の中でも上から数えればいいほどの大国。
百万を超える民がおり、国土も世界第三位。更には千年を超える歴史を保有している。
妖魔達に滅ぼされる国が多い中ここまで生き残り続けている理由は単純明快。我らには侍がいるからだ。
一振りで大地を切り裂き、悪鬼羅刹を消滅させる。心身ともに最強の存在。
何を隠そうこの我はその侍達の頂点。ワノ国一番の強者である。
妖魔達の中には真魔と呼ばれる普通の妖魔を超える怪物達が存在する。
港町を歩くだけで崩壊させた山よりも大きな海坊主。大地をえぐり新たな大地を生み出す竜巻を引き起こす大天狗。千里に渡って病魔を振り撒いた陰陽師の亡霊。
どれも強大な敵。だが我はそれら全てを倒し、侍達の頂点と呼ばれるようになった。
しかしそんな我にも弱点はある。
……それは頭が悪いということだ。
まあ読み書きは問題ない。戦術もある程度理解できる。
だが民達を満足させられる政策を作れるほどの頭脳は我には無かった。
だから多くの助けを借りた。各地に眠る優秀な人材を集めるため、我が父。現当主は寺子屋という制度を導入。
これのお陰で我が国は識字率が上昇。八割もの人々が文字を読み書きできるようになった。
多くの頭の良い部下達のお陰で更に我が国は発展していく。そんなある日のことだった。
我に婚約者ができたのは。
「よろしくお願いします。風丸様」
「よ……よろしく」
美しい女だった。私はそれ以上何も言うことができない。……いやきっとこの世界に存在する全ての人間が美しいとしか言うことができなくなるだろう。
ワノ国では珍しい金色の美しい髪。並の男よりもはるかに大きい肉体。まさしく黄金比。
この女性に靡かない男など……いや女ですら靡いてしまう。
そう確信するほどの美人だった。
彼女の名前は睡蓮(すいれん)
元は平民の生まれで、その頭の良さから我が父。金剛膝丸(こんごうひざまる)に拾われ成人となるまで育てられた。
平民の生まれだが気品があり上品。名家の人間からの評判が高くその人気がうかがえる。
今は父の配下となりワノ国の貢献に大きく役立ち、これでこの国は更に安泰へとなった。世間的にはそう言われていた。
……だが我は彼女のことが怖かった。
「どうかなさいましたか若様?」
「いいや……なんでもない。此度の戦闘で少し疲れてしまっただけだ。」
彼女は我が考え事をしているのを即座に気づき、あざとく男の欲を揺さぶる姿を取る。
これだ。彼女は人の心に入り込むのが上手い。……あまりにも上手すぎる。
この国の人間は将軍や女中。はたまた商人や農民達。男女問わず全ての人間が二言目には彼女の事を話す。
その時の笑顔が……不気味なのだ。まるで日常を侵食されているようで。私は彼女から距離を置いた。
だが父上はそれを許してはくれなかった。
「お前は彼女と契約結婚は絶対だ。これは決定事項だ。全ては我らがワノ国の為に」
この時の事は今でも頭の中に残り続けている。まるで脳みそを焼かれたかのようだ。
あの父上が。我とは違い武だけでなく聡明で優秀な君主だった父が…。彼女の言うことを何でも聞いている。
あの美しい女。恐ろしい女。だが私の意見など誰も聞いてくれるわけがない。
そもそも我の意見は正しいのか?我はもしかしたら間違っていて彼女はただの善良な人間なのかもしれない。
その善良さ故に人に好かれるだけではないのか?我には何も分からない。
「風丸様は私のことがお嫌いですか……?」
ああやめろ。その目をやめろ。その美しい目を。悲しげな目を。そんな目を見てしまったら。
我は余計……お前のことを疑ってしまうではないか。
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