【31話】魔法が効かない相手
火柱が消える。
しかし、レインボードラゴンは健在だった。
さらにはかすり傷ひとつだって負っていない。ノーダメージだ。
「なんて体してんのよ……あんた」
これにはアンジェも、驚きを隠せずにはいられなかった。
ビュン!!
鞭のようにしなった巨大な尻尾が、地面をこすりながらアンジェに向かって振り払われた。
それは、レインボードラゴンのものだった。
その攻撃はあまり突然で素早い。
アンジェはまともに食らってしまった。
巨大な尻尾に吹き飛ばされたアンジェは、瓦礫の山に激突。
そのまま地面に倒れてしまった。起き上がらない。
レインボードラゴンの一撃はとてつもない威力だった。いくらアンジェといえどまともに食らえば致命傷を避けられず、死亡してしまった。享年17歳。短い生涯だった――ということではなかった。
アンジェはまだ生きていて、ピンピンしている。
尻尾が当たる直前に【大天使の絶対守護】を使用したので、ダメージは受けていなかった。
アンジェがこうして寝転がっているのは、考えごとをしているからだ。
二つの最上級魔法を使ったのにもかかわらず、レインボードラゴンはノーダメージだった。
これはどう考えてもおかしい。防御力が異常に高い、というだけでは説明がつかない。
なにか別の理由があるはずだ。
アンジェはその理由を探していて、そして今、ある結論にいたった。
「レインボードラゴンには魔法が効かないんだわ」
なにせ相手は伝説の竜。
いっさいの魔法攻撃を受けない、なんていうとんでもスキルを持っていてもおかしくはない。
二属性の最上級魔法を受けてもノーダメージなのも、そういうことであれば納得がいく。
「それならやることはひとつね」
起き上がったアンジェは拳を握った。
魔法が効かない相手にはどう戦えばいいか? ――そんなのは簡単だ。
殴ればいい、蹴ればいい、両手両足をちぎればいい、翼をむしり取ればいい、首をへし折ればいい。
ただそれだけのことだ。いくらでも戦いようはある。
相手の生命活動が停止するまでそれらを続ける。
そうすればアンジェの勝ちだ。
「第二ラウンドの始まりよ!」
アンジェは地面を蹴った。
疾風のごときスピードで、レインボードラゴンとの距離をつめていく。
しかし、タダでは近かせてくれない。
「キィオオオオオ!」
レインボードラゴンはアンジェめがけて、尻尾を振り回してきた。
近づけさせないつもりだ。
尻尾の速さはとんでもないが、アンジェにすればどうということはない。
攻撃を躱しがら、着実に距離をつめていく。
ついにレインボードラゴンの足元へ到達した。
右手を固く握りしめたアンジェは、軽く腰を落とす。
「ハアッ!」
足首に向けて左足を踏み込み、まっすぐに拳を繰り出す。
全力をこめたその一撃は炸裂。
確かな手ごたえがあった。
「オオオ!?」
レインボードラゴンから驚愕の声を上がった。
体がぐらりと揺れる。
ダメージはしっかりと入っている。
物理攻撃であれば、無効化されないみたいだ。
「どんどんいくわよ!」
ダメージを与える方法がわかれば、もうこっちのもの。
アンジェは両腕を交互に使い、目にもとまらぬ速さで足首を殴りつけていく。
「オオ……オ」
レインボードラゴンの体がよろめいた。
足のダメージが限界に達して、立っていられなくなったのだろう。
アンジェの猛攻に、相手も弱ってきている。
ここが仕留めるチャンスだ。
アンジェは地面を蹴って垂直に跳び上がった。
「仕上げよ!」
レインボードラゴンの顎に向けて、右の拳を下から上へ突き上げる。
アッパーカットをお見舞いした。
レインボードラゴンの巨体が遠くへ吹き飛んでいく。
瓦礫の山へ激突した。
「さっきのお返しよ」
キツネの仮面の内側で、アンジェは鼻を鳴らした。
「さて、とどめをさしましょうか」
拳をポキポキと鳴らしながら、瓦礫の下にいるレインボードラゴンのもとへ向かっていく。
あとは顔面をぐちゃぐちゃになるまで殴りつければ、それで終わりだ。
これでリラもジュペット教会も助かる。
「なかなか楽しい勝負だったわよ。それじゃあね」
ニヤリと笑ったアンジェは、レインボードラゴンの顔面に向けて拳を振り上げる。
振り下ろそうとした、そのとき。
「待て!」
レインボードラゴンのその声が、アンジェの拳をとめた。
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