第2話

『黒犬、軍鶏を語るpart2』

腹も満足したことだし、おねーちゃんの店でもって思ってよ、この街にもある銀座みたいな店…違うか、六本木みてえな、お高い店に連れて行こうかと客人がデューク(東郷)だったら思ったんだろうけど、このジジイなら行きつけのスナックにでもいいかと裏路地を歩いている時、前から来た羽振りの良さげなガタイのいい若い男4人とぶつかった…というか、ありゃ、ぶつかってきたんだな。

ピタT・黒マッチョのヤクザにビビるタイプじゃなさそうな野郎っ子たちで、めんどくせえなと思ったから文句つけて来たのをいきなりノシてやったら、流石に固まってたけど、「やってやんよ!お?コラ!」なんて、俺を囲んでアップライトに構えた奴が向かって来た瞬間、ふら〜っと軍鶏ジイが入り込んできたと思ったら、あっという間にやっちまった。一瞬何が起こったかわかんなかったけど、脳内の残像でスローモーション再生したら、酔拳みたいな動きで、1人目の蹴り足を自分の足で引っ掛けて流し、バランスを崩したところを斜め後ろから上腕を首に引っ掛けラリアットっぽく後頭部から落としてKO。もう1人はくねった動きからボディブローで倒れたところに顎を軽くコツンとKO。

3人目は軍鶏ジイの肩に手をかけた瞬間そのままの勢いを流されて頭から落とされていたな。すげえと声をかけようと思ったら、俺がノした奴がナイフ片手出して軍鶏ジイに突っ込んでいった。「あぶねえ」っていう前にジジイは反応して肘背負って破壊して、これまた頭から落として…素人が見たら酔っ払いたちが勝手に転んで気を失ったように見えるだろうな。レベルが違う…圧倒的な強さ。息の乱れ一つなく、仏のような表情の軍鶏を見て思った。こいつあホンモンだ。どっか眉唾モンの石ころがダイアモンドになった瞬間よ。裏道に差し込んだネオンで、ジジイに後光が見えたぜ。ブラボー!デューク、変更だ!超A級には超高級でなきゃいけねえ。きちんと祝杯上げねえとな。




『金星のカリントウ』

ここいらでいう銀座並みっていやあ、このあたりでよ。俺はあんま来ねえけどな。

中でもここは、ここいらでは一等高級だからな。

客筋も含めてな。

俺はヤクザのランクは三流ってか?

ママの嫌そうな顔見りゃだだ下がりだぜ。

金はそこそこ持ってて、オシャレなつもりよ?

あ〜一番奥の隅っこに通しやがってよ〜。

まあ、目立たなくていいんだけどな。

誰が来るかわかんねえしな。

付いたのは、爆弾処理係のベテラン…麗華だっけか、

と先週入った憎まれそうなニューフェイス!花梨ちゃん。オラあ、ババアにゃ興味ないからよ、そりゃそっちに任せて花梨ちゃんをいきますか。こりゃまた今風だねえ。

パツキン、ショートカットで光合成したことねえだろってぐらいの色白スレンダーにメモリの入った二の腕。何ミリ刻みなんだい?って、ジョーダンだよ!

あのナントカって娘って感じか?今まで会ったことねえタイプだぜー。宇宙人と変わんねえ。ガキの頃見た金星人はもっとグラマーだったぜ。ゼットだかアルファだか、流石の俺も何話していいか分からねえ。

「花梨ちゃんっていい名前だな」

「ここに面接に来た時、かりんとうを店の人にあげたら名前がカリンになった」

「なんでまた、かりんとう?」

「じいじが送ってくるの何箱も、だから店の人にダンボール一箱あげた。」

「ふーん。じゃあよ、これだったらポッキーちゃんってか」

「3000円ポッキリ、腕ポッキリのコンカフェにいたことあるよ」

「なんだそりゃ、ボッタってことか、面白いじゃあねえか、お前」

そうか、コンカフェも悪くねえ。

「LINE交換しようぜ、こんど教えてくれコンカフェのこと」

俺はボッタをやるつもりはねえが、そうじゃねえコンカフェ商売自体に興味がある。エンターティナーだからよ〜

「ねえ、人は死んだらどうなるの?」

「いきなり距離詰めすぎだろ?お前」

「私、いつ死んでもいいと思ってるんだけど、

おじさん達、なんか知ってるような気がして…特にその枯れ木みたいなおじさん…」

「バカ、おれも思ってたけど口に出すもんじゃねえ…わかったよ〜今はめんどくせえからよ、今度教えてやる。」って言ったものの、俺だって分からねえよ、そんなこと。でもジジイは知ってそうだな。なんてったって死兵だからな。軍鶏ジイを見たら、相変わらず眠そうな目でジャックのロックを飲んでたよ。

「やりたいことねえのかよ、何か目指すとかよ〜、俺がお前ぐらいの歳の頃はやりたいこと山ほどあったけどな」

「なんか、もういっかと思うときある、終わってもいいかなって。友達がトー横でオーバードーズで倒れたりしてるのを見ててもなんか違うと思うし」

「オーバードーズっても、やってんのはブロンみたいなモンだろ?」

「やるなら、ホンモンやんねえと」

「知らないし。どーでもいいんだけど」

「でよ、目指すんだよ、テッペンをよ、エルドラドをよ…いや、ガンダーラだな」

「ガンダーラ??」

「若い頃よ〜見たんだよ」


若えころ…

俺は兄貴分(カシラになる前)のシノギの手伝いをしてたんだ。

代官山の住宅街の早朝、俺は上下ジャージで待ってるわけ。そこに来るんだわ、意識高い系のマダムがジョギング姿やテニスルックで。そこでホンモンと現ナマをディールよ。

最後はシャブ漬けになったマダムを犯って、旦那脅して髄までしゃぶるアニキのやり方が大嫌いで、ちょうど銃刀法でパクられたタイミングで俺あ手を引かせてもらってんだけどな。だから、おれはやらねえ…やったことねえなんて言わないけど、やるときは泥酔状態の時に喧嘩で待機かかってシャッキリさせる時ぐらいで、だいたいクスリが嫌えだから。まあ、anywayある朝、バイした帰り道、渋谷駅に着いてよお。山家で一杯引っ掛けてから帰るかなんて考えていたら、今は変わっちまったけど井の頭線に繋がる階段の大理石かなんかの手摺のスペースに腰掛けたサラリーマンの親父が頭にネクタイ巻いて通勤客を指差しながら歌ってるわけだ。ガンダーラを。朝のラッシュアワー、誰も見やしないし、聞きやしないけど、俺には響いたんだ、そんで、わかったんだ…あいつはたどり着いたんだとな、ガンダーラに。知ってるか?ゴダイゴ。

「聴かせてやるよ、ようナンバーワン!カラオケ入れてくれ」

『そこに行けば〜どんな夢も叶うと言うよ〜♪・・・その御国の名はガンダーラ、どこかにあるユートピア♪』「カリントちゃんよ!All or nothing!! そうだぜ、人生全てか無しってことよ、今生きるっきゃねえ」

「だろ?」


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