第23話

(何なんだっ!何なんだ何なんだっ!!)


 いつもと変わらないはずの学校。しかしここでは、人の声も風の音も虫の鳴く声さえ聞こえない。何もかもが同じはずなのに、何もかもが違う世界。


 最近同じ学校の後輩が失踪したと話題になってはいたが、まさか自分が当事者になるとは夢にも思わなかった。


「はぁっはぁっはぁっ……くそっ……何なんだよここっ……!」


 いつもの授業が終わり学校内で友達と駄弁っている間に日は落ち始め、外は夕暮れのオレンジ色へと変わり始めていた。そんな中を俺はあいつらと会話しながら歩いて帰っていたはずだ。今週の漫画の内容からその続きを予想したり、次のテストが近い事を嘆いたり。本当にただ続いていた日常そのものだったはずだ。


(なのにっ、どうしてこんな事になった!?)


 余りにも突然の事だった。間違いなく家に向かっていたはずが、気が付けば学校の正面玄関の前に立っていたのだ。


 何が起きたのか理解出来ずに呆然としていた俺の後ろから、重く大きな音が響き渡った。その音に驚いて振り返った時には、すでに校門は閉じかけており、逃げるという事すら考えられないまま、俺はただその様子を黙って見ながらその場に立ち尽くしていた。


 そうしていると、校門より向こう側が徐々に暗い闇に覆われていくのが見えた。校門のすぐそこまで真っ暗闇になると、まるで髪の毛のような黒い何かが校門の隙間から学校の敷地内へと入って来るのが見えた。


 それを見たその時からが、本当の地獄の始まりだった。





「失踪した三人全員が、男子生徒だという事です」


 抱き締め合うようにして怯えていた深宮さんが彼女に疑問を投げつける。


「男子、という事は私達はその……襲われたりしないんですか?」


 今にも泣き出しそうな顔をしている彼女達の元に、切華さんはゆっくりと立ち上がり移動すると、彼女達をそっと抱き締め語り掛ける。


「少なくとも私が知る限りでは大丈夫だと思います。勿論、絶対とは言い切れないですが襲われる可能性は限りなく低いはずです」


 切華さんのその優しさを感じる言葉と温もりに、彼女達は心から安堵したのかついに泣き出してしまった。


「なぁ護仁、俺達は大丈夫なのか?」

「んー恐らく大丈夫じゃない」

「大丈夫じゃないんかーーーい」


 拓也が冗談めかしてずっこける。


「けど何かあるんだろ?そうじゃなきゃあんな事言わないよな?」

「何かあるかって聞かれたらそれは勿論あるよ。でもそれは彼女に負担をさせてしまう事と同義なんだ」


 啓介が眉を顰めて聞いて来る。


「桐辻さんに負担って、いいのかそれで?」

「良くは無いよ。でも放って置けば間違いなく三人では済まないし、男が狙われている以上、いつかは俺が狙われる可能性だってあるんだ」

「なるほどな。将来的にそうなる可能性がある以上、今のうちに覚悟を決めてやっちまおうって事か」


 翔太の言葉に俺は首肯する。


「どの道俺が狙われた時点で切華さんは動かざるを得ないんだ。だったら色々と準備をした上でこっちから攻め込んでやればいい」

「はぁ……桐辻さん頼りっていうのが何とも情けない話だけどな」

「だから三人にも知恵を貸して欲しいんだ。切華さんとも話をしたけど、どうやら彼女は連れ去った犯人の正体に心当たりがあるみたいだからね」


 それを聞いた啓介達三人と、泣いた事で少し落ち着いた深宮さん達二人が驚いた表情で切華さんを見つめる。


「はい、彼女達に纏わりついている気配などから、三人を連れ去ったものが何なのかはすでに分かっています」

「マジで?桐辻さん何者だよ?」

「気配とか言ったか?何かの達人か?」

「切華さん、今話してたように狙っているのが男であるとすると、俺だってその対象になるはずだ。もの凄く危険なのは分かってる、でもだからこそ俺は何とかしたい」


 俺は彼女の瞳から目を逸らす事無くじっと見つめ続ける。


「先程の時も言いましたよ護仁くん?貴方が助けたいと思うのであれば私は構いませんと」

「切華さん……ごめん、ありがとう」


 そう言って頭を下げた俺を見た彼女は表情を和らげ微笑んだ後、一つ咳払いをしてから真剣な表情へと切り替えた。


「彼らを連れ去ったそれは私に非常に近しい存在です。もしかしたら、今のこの日本において最も有名であり、最も危険かもしれません」


 彼女のその言葉に、誰かが唾を飲み込む音を鳴らした。


「それは――――――」





「はぁっはぁっはぁっはぁっ!」


 もう限界が近い。どれだけ逃げても、どれだけ走っても、この追われているという感覚が消えることが無い。


「はぁっはぁっ……助けて……誰かっ……助けてっ……!!」


 何度も何度も通り抜けた廊下。階段も何度上り下りしたのかも分からない。脚は震え息は乱れ、喉はからからで痛みさえ感じる。


「誰か……助けてくれよ……誰か――――――」





















 ――――――ぽ。


 近くでそんな音が聞こえた。

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