第15話
「……綺麗だな」
すでに日は落ち、外は暗闇と虫の音が響く世界へと変わっている。俺は自分の部屋のベッドで横になり、左手の手の平を天井に向けるように掲げながら薬指に嵌っている指輪を見つめていた。
あれから彼女は、初めて出会った時に俺の命を奪おうとしていた事をひたすらに謝り倒して来た。
そんな彼女に俺は、今はこうして結ばれたんだから気にしないで欲しいと言って宥めたのだが、彼女はそれだけでは納得出来なかったようで、俺を家まで送るという提案を半ば強引に押し通して来た。
「お詫びと言っては何ですが、私と一緒に帰りませんかっ!勿論それだけではありません、万が一また途中で襲われる様な事があっては護仁くんの魂のパートナーとしての名折れですっ!なのでちゃんと護仁くんを家まで送らせてくださいっ!」
そんな風に強く訴えて来た彼女のその気持ちを無下にするのも悪いかなと思い、俺はその提案を受け入れた。
と、まるで全てが受け身だったかのように言ってはいるが、本当は俺の方からお願いしたいと思っていた。
俺は今まで同級生の女の子と一緒に帰った経験が一度も無い。そんな俺がもしかしたら初めて彼女と一緒に帰る事が出来るかもしれないと、初めて彼女と並んで歩けるかもしれないと、そう思っていたからだ。
だから本当は嬉しかったのだ。彼女の方からそう言ってもらえた事が。すでに指輪によって魂が結ばれている関係だったとしても、彼女が普通の人間では無かったとしても、俺は嬉しかったのだ。
そしてそれで浮かれてしまっていたからだったのだろうか。彼女のその特殊性が頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていたのは。
「盲点だったなぁ」
彼女が口裂け女だという事はすでに理解していた。理解していたはずなのに失念していた。どうして彼女の元にあれだけ何度も部活動の勧誘が来ていたのかを。俺は口裂け女という存在の最も恐れられている部分を完全に失念していたのだ。
俺は指輪を見つめたまま、その時の事を想い返す。
「あの、切華さん?何でお姫様だっこされてるの俺?」
「一応私が治したとはいえ、護仁くんは怪我をした上に追いかけ回された事でかなり疲労が溜まっているはずです。ですので私が護仁くんをお家までしっかりと安全に運んであげますっ!」
「いや普通に歩くくらいは全然大丈夫なんだけど」
「駄目ですっ!それに私はこれでも足の速さには自信があるんですよ?」
いくら足の速さに自信があるからって、男一人をお姫様だっこして運んでもらうなんてと思っていた俺が馬鹿だった。
彼女が「それじゃあ行きますね」と一歩踏み出した瞬間、体にとてつもない負荷を感じたと同時に俺の意識は刈り取られたのだ。
今主流となっている都市伝説によると、口裂け女という存在は非常に足が速い。どれだけ速いのかというと、その速さは百メートルを一秒未満で駆け抜ける程だ。
「安全とは一体……?」
それに俺が憧れていたのは好きな女の子と横に並び、楽しそうに会話をしながら歩く姿であって、決して気を失って目が覚めた瞬間に家の前にいる事では無い。
「……とんでもない人と結ばれてしまったのかもしれないな」
俺は変わらず指輪を見つめながら、そうぽつりと漏らした。
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