episode49 氷剣士と純剣士の共闘
空気が張りつめていた。
赤紫の鱗を持つ大蛇が、ゆっくりと頭を持ち上げると、まるで咆哮のような奇声を上げた。
「キアラルさん、待って!」とエレナが声をかけるよりも早く、「いっくよーーっ!!」
キアラルは、満面の笑みで剣を構え、一直線に魔物へと駆けていった。
しかし――
「"キシャアアアァァアア!!"」
大蛇の奇声が響いた次の瞬間、キアラルの足がピタリと止まった。
「……!? キアラルさん!? 何してるの!!」
立ち尽くしたまま、動かなくなってしまった。――そして。
――バゴォン!!
鋭い尾が弧を描いて振り下ろされ、キアラルの体が無防備なまま岩壁に叩きつけられた。
「ぐはっ!?」
「何やってるのバカ!!」
叫びながら、エレナは剣に氷を纏わせて大蛇の胴を狙う。一撃で怯ませようと勢いよく斬りかかった――その瞬間だった。
「キシャァァア!!」
再び響く、耳を裂くような奇声。
――視界が、揺れる。
(……え?)
目の前にあったダンジョンの壁が一瞬にしてかき消えた。
気がつけば、そこは――
焦土と化した、黒い大地。燃え尽きた空。崩れた建物の残骸。風も匂いも、すべてが現実とは思えない。
「え……どこ……?」
そのとき、焦げた地面の向こうに――誰かの姿が見えた。
「エリオスくん……!?」
間違いない。彼だった。
彼の背中を見た瞬間、エレナの足が勝手に動いた。
走って、呼びかけて、手を伸ばして。
しかし、次の瞬間。
エリオスの体が、液体のようにぐにゃりと崩れ、地面に溶けていった。
「……え……? い、いや……いやいやいやあああああああ!!??」
駆け寄ろうとしたその刹那、突然、横腹に激しい衝撃が走った。
「がはっ……!!」
視界が回転し、体が宙に浮く。重力に引かれ、地面に激突する。
……そして、気づけばまた、あのダンジョンの天井が見えた。
さっきまでの焼け野原は跡形もない。
「ッ……幻覚……だった……?」
咳き込みながら身を起こすと、近くに倒れているキアラルの姿が見えた。
瞳は見開かれたまま、意識を失っているようだ。
「キアラルさんっ、しっかりして!」
エレナは肩を揺さぶりながら声をかける。
「これは幻覚なの。あの蛇、声で幻を見せてくるのよ……! 私たちは操られてたんだわ!」
その言葉に反応するように、キアラルはゆっくりと目を覚ました。
虚ろな瞳が何かを彷徨い――次の瞬間、目に光が戻った。
「耳……!」
彼女は自らの両手で耳をふさぎ、力強く立ち上がる。
「もう幻なんかに惑わされない……!」
そして、剣を構え、再び蛇の魔物へと突っ込んでいった。
「キアラルさん、待って!」
しかし――
「キシャアアァァア!!」
再び響く、あの忌まわしい奇声。
その瞬間、キアラルの足が再び止まった。
視線が宙をさまよい、瞳が見えない何かに怯えるように揺れている。
「また……!もうっ!」
エレナは剣をしまい、両足に魔力を込めて地面へと氷を張り巡らせた。
低い姿勢で滑るように疾走し、キアラルの肩を抱きかかえる。
(間に合って……っ!)
ギリギリで蛇の尻尾が地を薙ぐ。その風圧をすり抜けるように、エレナはキアラルを引き寄せて離脱した。
「……はぁ、はぁ……大丈夫?」
キアラルはエレナの腕の中で震えていた。
「……う、うぅ……わたしの……わたしの村……イレイス村が……」
震える声で、キアラルはぽつりと呟いた。
「燃えて……全部……焼けてたの……みんなが……!」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
「キアラルさん……!」
「わかってる、あれが幻だって……でも……でもっ……! 幻でも、嫌なの……!」
その言葉に、エレナの心もざわついた。
あの、エリオスが溶けていく幻覚――
思い出しただけで、胸が軋む。
「……っ、もう……我慢なんてしない!」
エレナはキアラルの手を握りしめ、立ち上がった。
「嫌ならすぐ斬る。絶対、あいつを斬り捨てるわよ!!」
その目には、揺るがぬ決意と怒りが灯っていた。
キアラルも頷き、涙を拭った。
「うん……もう、負けない。こんなもので私たちは止まらない!」
二人は互いに背中を預け合い、剣を構える。
エレナは一歩前に出て、氷剣を構える。
「キアラルさん、次は…絶対に倒すわよ」
「……うん!でも幻覚はどうするの?」
もう幻覚なんて見たくない…!もうエリオスくんが嫌な目に遭うのを見たくない!
どうする……そうだ。痛みで幻覚から抜け出せたのなら…。
「キアラルさん、あいつの声が聞こえた瞬間私の頬を叩いて!」
「え…?…なるほど!ならお互い叩けばいいよね!」
お互いの頬を叩いて、無理やり現実に戻せばいけるかもしれない。
キアラルは剣を構えながら、拳で自分の頬を叩いた。涙の痕が残っていたが、その目には迷いはなかった。
「行くよ、エレナちゃん!」
「来て、キアラルさん!」
ふたりは同時に駆け出す。
エレナが先に氷の波を地面に走らせる。
「――【
蛇の足元へ、三本の氷柱が突き出し、動きを鈍らせた。
「"キシャアアァァ!!"」
蛇が奇声を発する――!
「キアラルさんっ!」
呼び方と共にキアラルの頬を平手打ちした。
パチンッッッ
乾いた音がダンジョン内に響き渡った。
それと同時に自分の頬にも痛みが走った。
(来るな…来るな…幻覚なんかに屈しない…!)
視界がゆらぎかけるが、痛みに集中すると目の前の蛇がはっきり見えた。
「作戦通りよ!キアラルさん!」
「えぇ!ナイス!エレナちゃん!せぃっ!」
地を蹴ったキアラルは、跳躍して蛇の腹下へ――!
渾身の一太刀が振るわれ、鱗を跳ねて火花を散らす。
「……くっ、硬いけど、いける!」
キアラルの技は魔法ではない。ただただ、研ぎ澄まされた純粋な剣技。
属性がない――だからこそ、どんな相手にも偏らない。どんな状況でも、己の技だけで立ち向かえるのが、キアラルの強さだった。
「もう一撃!!」
着地と同時に横薙ぎの連撃を叩き込み、蛇の腹にひびを入れる。
――だが、蛇が尾を振り上げた!
「キアラルさんっ!!」
「……間に合えッ!!」
エレナが地面を滑り、間一髪でキアラルを突き飛ばして避けさせる。
尾が地面に叩きつけられ、轟音と共に破片が散った。
「だ、大丈夫?」
「……うん。ありがと!」
二人は立ち上がり、無言で頷き合う。
氷と剣技。属性と無属性。
異なる強さが、いまひとつになる。
「行くわよ、キアラルさん!」
「任せて!」
エレナが両手に氷剣を構え、斜めに切り込む。
「【
数十本の氷剣が空間に舞い、蛇の身体を翻弄する。
その隙――キアラルが駆け抜ける!
「私が斬る!!」
氷剣をすり抜けながら、空中でひねりを加えて回転斬りを放つ!
――ズバッ!
蛇の喉元に、鮮やかな切り傷が走った。
赤い眼が見開かれ、長大な体がのけ反る。
「今っ!」
エレナが止めを放つ。
氷の剣を両手に、高く飛び――
「――これで終わり!!」
エレナとキアラル、二人の剣が、真上と下から同時に斬り裂いた。
「いっけぇぇぇぇえええええ!!!」
「はぁぁぁぁあああああああ!!!」
巨大な蛇は、断末魔の咆哮を上げて、その場に崩れ落ちた。
地響き。静寂。霧のような瘴気が、ふわりと消えていく。
二人は肩で息をしながら、顔を見合わせた。
「はぁ……やった、ね」
「……うん。やった!」
エレナのうさ耳が、ぴこぴこと揺れる。
「……あ、そういえば、まだその耳ついてたんだ」
「い、今それ言う!?」
二人は思わず笑った。
「はぁあ。それにしても
「えへへ、偶然だよ偶然!」
そう言ってキアラルは笑うが、そんな偶然は存在しない。
無意識に全部避けたのか…それともただ謙虚しているのか。
どっちにしろキアラルの剣術や、運動神経は私より上回っている。
すると、蛇は地面へ溶けていった。死んだ生物はダンジョンに吸収される。
さっき幻覚でみたエリオスの姿が脳裏に浮かんだ。
戦闘が終わった安心感で一気に気持ち悪くなった…。
溶けた蛇から一つ赤く輝く石が取り残された。
「あっ…!これ宝石じゃない!」
「え…あ、本当だ!てことはダンジョンクリア!?」
キアラルは宝石を掴んで飛び跳ねて喜んだ。
キアラルさんと組むとなったとき一時期はどうなることかと思ったけど、意外と呼吸があって悪くないペアになった。
そして、エレナとキアラルの足元から白い転移陣が現れた。
「え…なになになになに!?!?」
――――――――――――――――――――――――
…気がつけば魔剣学院の広場についていた。
「っ……えっ!学院に着いてる!」
「フェリル先生の魔術ね。宝石手に入れたら自動的に転移されるのよ。」
「すごい!」
キアラルは手に入れた宝石を自慢するように掲げながら走りまわった。
全く…あれで私たちより年上だなんて…まあいいけど。
さてと…エリオスくんはどこにいるんだろ。
リオンと組んでいるし、最近のエリオスくんは相当強いからきっと一番乗りだろうな。
そう思いながら徐々に増える人を掻い潜ってエリオスを探したエレナ。しかし………
………いない!?……なんで…!?
急いでエレナは近くにいたフェリル先生に声をかけた。
「フェリル先生!エリオスくんは…エリオスくんはどうしたんですか!!」
そう尋ねるとフェリル先生は見たことない深刻そうな表情を浮かべた。
それだけで、すべてを察した。
「…エリオスとリオンを見失ってしまった…。」
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