episode28 お前にはひるまない
鈴の音が鳴り止むと、少しずつ生徒たちの声が戻ってきた。
授業開始の鐘を聞いて慌てて駆け出す者、本を読みながら歩く者、風魔法で空を滑るように飛んでいく者――それぞれのやり方で教室へと向かっていく。
そんな学院の日常が、また戻ってきたのだと実感して、胸が温かくなった――その束の間。
「あなた、エリオス君から離れなさい。案内するだけなら、そんなにくっつかなくてもいいでしょう?」
「いやよ、私もエリオスと一緒にいたいの!」
二人は、僕を挟んで激しく言い合っていた。
左腕にエレナ、右腕にキアラル。がっちり腕を組まれて、動きづらいどころじゃない。しかも両方が体重を預けてくるものだから、まるで人間サンドイッチだ。
男子寮を出てから、ずっとこの状態が続いている。
「……そういえば、どうして二人とも男子寮まで来たの? 僕を探してたなら、入り口で待ってくれてれば……」
そう尋ねると、エレナが食い気味に答えてきた。
「エリオス君が戻ってきたって聞いたから、急いで部屋まで行ったの。」
続いて、キアラルが僕の腕をぎゅっと掴みながら言った。
「一人より……エリオスと一緒に行きたかったの。」
言い終えると、また睨み合いが再開される。
廊下を歩いていると、すれ違う生徒たちの視線がこちらに集中するのが分かる。ひそひそと囁く声、面白そうに笑う顔、呆れたような視線――その全てが突き刺さって、僕の顔が熱くなっていく。
「ね、ねぇ……そろそろ離れない? 周りの視線もあるし……」
小声で頼んでみるが、エレナは警戒した目をキアラルに向けて言い放った。
「嫌よ。そこの人に取られたくないの。」
キアラルも負けじと顔を近づけてくる。
「取るとかじゃない。私はただ、いたいからいるの。」
エレナまで顔を寄せてきて、二人に囲まれる形に。心臓がドクンと跳ねた。
このままじゃ、僕の精神がもたない……。
どうにかしてこの状況から抜け出さないと、そう思ったその時だった。
「よぉ、エリオス。女二人も連れて戻ってくるとはなぁ!」
「ひ……っ! エリオス、この人誰……?」
「……バルガ……」
バルガ・レリオード。同じ学院の一年生だが、年齢は僕より2つ上の16歳。
そして、自分より弱いと見なした相手を見下し、容赦なくあしらう性格の持ち主だ。
「おいおい、久しぶりなのに呼び捨てかよ。いつもみたいに“バルガさん”って呼んでくれよ。」
「やめなさい!」
エレナが僕の前に立つ。「エリオス君の相手は私がするって、何度言ったらわかるの?」
バルガの威圧にも怯まず、エレナは毅然とした態度を崩さない。
かつて僕が魔力がほとんどなかった頃、バルガは何かと理由をつけて僕をからかった。そのたびにエレナが庇ってくれた。
一度、エレナ自身が標的にされかけたこともあったが、その時、彼女はバルガを氷魔術で氷漬けにした。
それ以来、バルガはエレナには手を出さなくなったが、僕に対する態度は変わっていなかった。
「相変わらずエレナさんに頼りきりだなぁ、情けねぇ。」
「関係ないでしょ。今すぐ立ち去りなさい。」
二人の口論が続く中、キアラルが僕の袖をそっと掴んだ。
「ねぇ……あの人、怖いよ……誰なの?」
その怯えた表情を見て、僕の中に熱い感情がこみ上げてきた。
「キアラル……僕のそばにいて。」
「え……?」
もう、僕は守られるばかりの存在じゃない。エレナにも、もう迷惑はかけたくない。
僕はエレナの前に立ち、バルガを真正面から見据えた。
「エリオス君!? なにしてるの……!?」
「バルガ、これ以上僕に関わらないで。」
普段よりも低く、はっきりとした声でそう告げると、バルガは一瞬だけ目を見開いた。すぐに顔を歪め、皮肉げに笑う。
「へぇ~。偉そうになったもんだな、退学したくせに。どうやって戻ってきたか知らねぇが、調子に乗るなよ。」
その視線が、エレナ、そして僕の背後に隠れるキアラルへと向けられた。明らかに、僕の大切な人たちを侮辱するような目つきだった。
もう、過去の僕じゃない。
「授業始まるし、どいて。」
「は? どくわけねぇだろ。」
その返答が、なぜか妙に腹立たしかった。
バルガの視線がじりじりと近づいてくる中、僕は二人に声をかけた。
「エレナ、キアラル……行こう。」
バルガをすり抜けようとした瞬間、彼の手が僕の肩を掴んだ。
「おい、無視してんじゃ――」
「邪魔。」
低い声とともに、エレナの魔力が発動した。
「な……! 離せよ!」
「エリオス君に触らないで。……10分くらい、そこで反省してなさい。」
バルガの足が、瞬時に氷で地面と固められる。動けない彼を見て、キアラルはぽつりと呟いた。
「……エレナちゃん、すごい……」
「行きましょう、エリオス君。」
「あ、ああ……!」
エレナは自然に僕の左腕へと再び腕を絡める。
一方で、キアラルはエレナに気圧されたのか、少し距離を取りながら僕の背中の裾をちょこんと摘んでいた。
「くそっ……! 絶対、後悔させてやるからな!」
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