episode3 約束

 エリオスが学院を出て数十分後…


エリオスはこれから故郷に帰るべきか悩みながら森の中を歩いていた。


一応親から持たされた金はまだある。本来は食事やら教材、武器を買うためのお金だけど。


学院に入学するために親に散々迷惑をかけておいて退学になったなんて、とてもじゃないが言えない。


旅をしようか悩んだが、剣術も魔術も上手く使えない僕が、見知らぬ土地で飢え死にするか、魔物に襲われて死ぬかとか、嫌な未来しか見えなかった。


 それよりもこの夜に行動するのは危険すぎる。


どんな魔物が現れるか分からないし、この暗い中でまともに戦える気がしない。


 どうしようか歩きながら考えていると、岩の山肌の中に空洞が見えた。


ひとまず夜が明けるまではこの中で過ごそう。


えっと…軽く火をつけるか。


洞窟を抜けてすぐは木に囲まれていたので、木の枝がたくさん落ちていた。


集めて集めて洞窟に戻り、木の枝の中に火打ち石で火をつけようとした。


打ち金で指に当たらないように警戒しながら何度も叩き、やっと微小の火花が散り、木の枝に小さく火がついた。


絶やしたら死ぬ。そんな気持ちで息を吹きかけたり木の枝をさらに乗せたりして何とか火は燃え盛った。


 パチパチと燃える焚き火を見て、今までの学院の日々を思い出していると、後ろから魔物の気配がした。


急いでバッグにしまった剣を取り出して構えた。


足音が聞こえてきた。焦る気持ちを抑えているつもりだが、呼吸が荒れて汗が滴る。


 そこから見たことない魔物が現れた。


狼のような顔つきに鋭い赤い瞳。


全身が黒い毛で覆われていて筋肉質、背中に針が並んでいた。


コボルトに似ているようだが、コボルトにしては背が高いし針のようなものもない。変異種か?


いやそんな呑気なこと言ってる場合じゃない!


早く逃げないと死ぬ!こんな未知の怪物と戦うのはごめんだ!


 荷物を持って洞窟の出口に向かおうとすると、コボルトらしきモンスターが僕の行動を察知したようで、


近くにあった岩を僕に向けて投げてきた。


「ぎゃあ!?」


驚くより先に反射神経が勝ち、すぐ避けれた。


しかしその岩は洞窟の岩壁にぶつかり、天井から大量に落石が発生した。


僕の頭上ではなく出口側に落ちてしまい、出口は岩で塞がってしまった。


「そ、そんな…⁉︎」


絶望する僕の後ろで、コボルトが足音を立てながらこっちに近づいてくる。


背筋が凍る…死ぬ…!


死が近づいてくる恐怖で体を動かせなくなり、考えが纏まらなくなってしまった。


せめて顔だけでもと後ろを振り返ると、そのコボルトは爪を生やして僕を刺すつもりでいた。


くそ…僕は魔剣士になりたかったのに…なんでこんな目に…。


目をつぶって死ぬ瞬間を待つことしかできなかった。


そのまま僕は大した功績残せず死ぬ。


なんてあっけない人生なんだろう。


 そう死の瞬間を待っていると、突然脳裏にあいつらのことを思い出した。


対面試合で負けてしまい、相手に言われた言葉だ。


「お前は弱いなw お前はゴブリンですら倒せないんじゃね?死んだらお参りしておくから、あ、お前じゃ跡形もないか?ハハハw」


あいつらの言われた通りになりたくない…!


だったらこの変異種だろうがなんだろうが倒してやる…!


怒りが僕の恐怖を和らいでくれる。


学院の講義では感情は、剣術魔術の技術を落とす要因になりやすいから落ち着かせた方がいいとか言うけど、


今はそんなこと言ってられない…。


怒りが僕の体を震え上がらせる。


 するとコボルトが、鋭い爪で地面ごと僕に刺そうと構え始めた。


いつもなら後ろに下がったり、剣を構えたりするけどここは突っ込む!


コボルトの元に全力で走った。すると僕の後ろでコボルトの腕が落ちてきた。


いけた…!これなら…少しは渡り合える…!


 しかし、突然僕の横腹に痛みを感じ、そのまま岩壁に突き飛ばされた。


何が起きた…?痛みを感じたところに手を置くと真っ赤な液体が染まっていた。


まさか…コボルトのもう片方の爪で刺されながら飛ばされた…?


ゴフッ!っ!口から血が溢れ出る。油断したなぁ…。


所詮は剣術も魔術もイマイチな僕。いきなり変異種コボルトに勝てるはずなかった…。


ちょうどいい…血が溢れ出て眠くなった…。僕に相応しい死に方か…。


 ゆっくり目を瞑ろうとすると、また頭の中に誰かの言葉が響いた。


この声は…エレナ?


何か懐かしい気がする…この会話は確か…昔のことかな…。


それは7年前…俺らが7歳の頃だった。


僕が魔剣士になりたいと初めてエレナに伝えた日だったかな。


「僕、まけんしになりたい!」


それを聞いたエレナはにっこり微笑んでくれて、


「なら、私もなる!」


「え?エレナも?」


「うん!だってエレナ魔術得意だし!エリオス君のそばにいたい!」


エレナは生まれ持った才能である氷の魔術を得意げに操って僕に見せてくれた。


その姿はまるで氷の妖精のようだった。




そして僕は誓った。道草に生えているクローバーを見つけて丸く結ぶと、エレナの左手の人差し指に通した。


「え?エリオス君、これって…?」


「エレナ、約束だよ。二人で立派なまけんしになろう。」


エレナは嬉しそうに笑って小指を立てた。


「約束!指切りげんまん!」


あぁ!そう言って二人で小指を絡ませて約束を誓った。


――――――――――――


 「…約束守らないとな…。」


エレナとの思い出を思い出し、生きる意思が強まった。


「…【小回復リトルヒール】」


軽い回復しか出来ないが傷跡に魔術をかけて出血を抑えた。


なんとかまだ生きてる…まだ死ぬわけにはいかない…。


ここから生き延びて…もう一度魔剣士として修行したい…。


そしてエレナと一緒に学院を卒業したい…!


 さぁこいコボルト…!今度はそう簡単にくたばらねぇよ!



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