第20話 出発とフリュージュ街

 リュエールさんが森の隠れ家に来てから20日近く経過した朝に、リュエールさんがまた森の隠れ家を訪ねてきた。


 今日は時間的に余裕があるみたいだったので、リビングで飲み物を提供した。


「魔物討伐はどうだったの?」


 遠征中の噂は耳に入らなかったので、どうしても聞いてみたかった。


「予定通りの魔物を討伐できた。多少のかすり傷を負った団員はいたが、みんな無事でフリュージュ街へ戻ってきている」


「それはよかった」


 魔物相手だから無傷はむりなのは承知していたので、無事で戻ってきていると聞いてほっとした。


「今日訪れたのは、ユミーナをフリュージュ街へ連れていく準備ができたからだ。馬車を準備してシュミト村に待たせてあるが、問題なかっただろうか」


 馬には乗れないから歩きで行くと思っていたけれど、うれしい申し入れだった。ちょっとしたことだけれど、リュエールさんのやさしさが心に染みた。


「馬車を用意してくれてありがとう。歩きと考えていたのでうれしい。馬車だとどのくらいの時間でフリュージュ街へ着けるの?」


 野宿を想定して準備していたけれど、1日で行けるのなら荷物が少なくて済む。


「半日も見てもらえれば充分だ。このあとシュミト村を出発すれば、夕方にはフリュージュ街へ着けるだろう」


「それならすぐに準備するね。少しだけ時間をもらえれば出発できるよ」


「分かった、外で待っていよう」


 リュエールさんが席を外すと、私とコガネは2階へ上がって持っていく品物を用意した。野宿で使う品物を省きながら、必要な品物だけを鞄へ入れ直す。荷物が減った分はオパール彫刻とジグソーパズルを多めに入れた。


 準備ができたので、リュエールさんとコガネと一緒にシュミト村へ向かった。村長のカロムさんへフリュージュ街に行くのを伝えたいけれど、その前に憩いの宿屋へ移動した。ここに馬車を留めてあるみたい。


「憩いの宿屋にクリケトとシガーロがいるから、出発すると伝えてくる」


 初めてシュミト村へ来た時に会った騎士団の人たちね。


「コガネと待っているね」


 穏やかな気候なので、外で待っていても苦にならなかった。コガネにフリュージュ街や道中について聞いているうちに、リュエールさんが戻ってきた。


 クリケトさんとシガーロさんが宿の引き上げと馬車の準備をするみたいで、その間にカロムさんの家へ向かった。家に到着すると、カロムさんとロゼリアさんが出迎えてくれた。


「ユミーナ様とリュエール様が一緒とは、フリュージュ街へ行く話じゃろうか」


「その通りよ。急な話で申し訳ないけれど、このあとフリュージュ街へ出かけるからあいさつに来たのよ」


 すでに荷物の準備ができていて、このあと憩いの宿屋に置いてある馬車で、フリュージュ街へ向かうことも伝えた。


「分かったのじゃ。森の隠れ家は村民たちで定期的に見回るつもりじゃから、安心して行って来てほしいのじゃ」


「ありがとう」


 森の隠れ家に高価な品物はないけれど、おばあちゃんが残してくれた家なので大事にしたかった。


「ユミーナは俺たちが安全に届けるから安心してほしい。商業ギルドも俺が立ち会うから問題ないだろう。特産品の件も順調に進んでいる」


「リュエール様の対応に感謝するのじゃ」


 カロムさんが深々と頭を下げた。私の件も含めて、カロムさんからリュエールさんへ相談していたみたいね。たしかに商業ギルドで、リュエールさんが一緒にいてくれれば私も助かる。


「特産品はジグソーパズルの件よね。何かあるの?」


 最後の言葉が気になって聞いてみた。


「まだどうなるか分からない部分があるから、確定したらユミーナにも話そう」


「ジグソーパズル作りを教えているので、進展があったらお願いね」


 ふだんならもっとカロムさんとロゼリアさんと話すけれど、シュミト村を出るのが遅れると危険も増えると言われたので、そうそうに話を切り上げた。必要最小限の話が終わると、カロムさんの家を出て憩いの宿屋へ向かった。


 憩いの宿屋の前には馬車が止まっていて、大柄なクリケトさんと男性としては小柄なシガーロさんが待っていた。馬車には四隅に小さな旗が取り付けられている。


「クリケト、シガーロ、こちらの準備は完了だから、フリュージュ街へ向かう」


「仕事とは異なるのにありがとう。今日はよろしくお願いね」


「お願いするのです」


 私とコガネがクリケトさんとシガーロさんへあいさつする。


「リュエールからおごってもらうから平気だ。慣れた道だから気軽にしてほしい」


 クリケトさんが、おちついた雰囲気で答えてくれた。


「自分が御者を担当します」


 シガーロさんが元気よく申し出たので、残りのメンバーで馬車へ乗りこんだ。


「せまい馬車だから乗り疲れたら言ってほしい。適度に休憩を入れる」


 馬車が動き出すと、向かい側に座ったリュエールさんが話しかけてきた。私の横にはコガネがいて、斜め向かいにクリケトさんが座っている。


 自動車に乗りなれている私には、車輪からの振動が大きく感じる。半日座っているのは大変だと思うので、早めに休憩をお願いするかもしれない。


「さすがに半日も座っていられないから、疲れたときには言うね。ところで道中の魔物は平気なの?」


 半日の移動ならそれなりの距離になるから、魔物が出てもおかしくない。


「人の行き来する道には、かしこい魔物はめったに出てこない。だが下位魔物が群れで出現する場合があるから、たいていの商隊には護衛がいる。今回は俺たちがいるから大丈夫だ」


「逆に盗賊が面倒かもしれないが、おれたちに喧嘩は売ってこないだろう」


 クリケトさんが答えながら、襲われない理由を教えてくれた。馬車の四隅にあった小さな旗は第2騎士団の紋章なので、騎士団に喧嘩を売る盗賊はいない。飾りと思った旗には理由があったのね。


「騎士団の人が3人もいるから安心ね」


「その通りだ。ところでユミーナは商業ギルドに登録すると思うが、フリュージュ街で活動するつもりなのか」


 リュエールさんが聞いてきた。


「今のところ活動拠点はシュミト村のままよ。オパール彫刻を売りたいだけで、フリュージュ街にお店を持つ予定はないから、委託販売などは可能なのかな?」


「店に卸すことは可能だが、信頼がないと最初はむずかしいと思う。俺が紹介できる店もあるが、高級店が多いからオパール彫刻は扱いにくい。手数料は少しかかるが商業ギルドへ卸すのが1番のおすすめだ」


 品物をお店に卸すには実績や信頼が必要なのは、この世界でも同じようね。リュエールさんの話からだと商業ギルドへ卸すのがよさそうね。


「儲けはあまり考えていないから、商業ギルドへ登録するときに、オパール彫刻を委託できないか聞いてみるね。フリュージュ街には大きな鉱山もあるし、きっと発展している街なのよね」


「賑わっているが危険な地区もあるから、今のうちに簡単に説明しておこう。知っていてほしいのはフリュージュ街には上流地区があって、残念ながら貧困街も存在している。具体的には――」


 貴族や裕福層が暮らす上流地区が北側にあって、入るためにはチェックされるみたい。街の中央が1番の活気があって、次は鉱山に通じる門がある東側が発展しているらしい。逆に南西側は危険な場所で貧困街となっている。


 決して貧困街へは近づかないように念を押された。


 商業ギルドは街の東側にあるので、街に出歩くのなら中央と東側の往復がよいと教えてもらった。


「あとは宿屋だが、上流地区に泊まれるように手配もできる」


 リュエールさんの申し出はうれしいけれど、場違いに思えたので遠慮したい。


「そこまでお金に余裕がないのと、街中を見て回りたいから、中央か東側の宿屋を探したいと思う」


「そうか。商業ギルドで聞けば、手頃な宿屋を教えてくれるだろう」


「リュエールが、ここまで気を使うとはめずらしい。その態度をもう少し貴族令嬢にも向けたらどうだ」


 クリケトさんがからかうような感じでリュエールさんへ話しかけた。団長と部下の関係だと思うけれど、ふだんは友達や友人同士という感じに思えた。貴族令嬢との言葉にリュエールさんの立場を思い出して、気のせいか胸の付近がもやもやとした。


「今回はユミーナの護衛を任されているからだ。安心して過ごせてもらえないと、シュミト村の村長との約束を破ることになる」


「わかった。そういうことにしておく」


「それよりもユミーナ、疲れは大丈夫か」


 リュエールさんが話題を変えて、馬車へ乗って間もないので大丈夫と答えた。


 フリュージュ街へ行く途中で何度か休憩を入れて、2回ほど下位魔物が現れたけれど1分もしないうちに戦いが終わっていた。盗賊には会わずに済んだ。


 ファイア・オパールが広がったような夕焼けに染まる、フリュージュ街が見える場所までたどり着いた。

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