第3話 隠れ家と魔道具

 コガネが消えて小学生くらいの少女が姿を現した。


「あなたは誰なの? もしかしてコガネ?」


 見た目とコガネがいた場所から、予想しながら聞いてみた。


「その通りなのです。使い魔契約が成立すると、この姿になれるのです」


 どうやら使い魔契約による特殊効果みたい。コガネ本来の年齢は不明だけれど、私は一人っ子だったので妹ができたようでうれしかった。


「好きなときにその姿へなれるの?」


「もちろんなのです。普段はこちらの姿でユミーナ様のお手伝いをするのです」


「その姿なら一緒に買い物を楽しめるからうれしい。それとこちらの世界に関してはなにも知らないので、いろいろと教えてね」


 一緒に洋服を買って美味しいスイーツを食べて、時間を忘れて楽しい会話で日常を過ごしていく。猫の姿でも一緒に出掛けられるけれど、姉妹感覚での行動はあこがれのひとつでもあった。


「任せてほしいのです。最初は家の中を案内するのです」


 うれしそうにコガネが答えてくれた。コガネはおばあちゃんがいなくなって、きっとひとりで過ごしていたと思う。これからは私の家族として、一緒に楽しく過ごせればうれしい。


 コガネに連れられて家の中へと入った。おばあちゃんが住んでいたから何十年も前に建てられたはずだけれど、掃除が行き届いているのか空き家には思えなかった。


「毎日掃除でもしていたの?」


「掃除や料理など家事全般は得意なのです。使い魔契約中は主様が戻ってきても生活できるように、掃除していたのです。それ以降は主様の魔法で保っていたのです」


 たしかに猫の姿では掃除はむりよね。


「この家には魔法が使われているの?」


 疑問に思って聞いてみた。


「自己修復の魔法がかかっているのです。この家を中心にした周辺の森は主様がいたので魔物はめったに来ませんが、魔よけの結界も発動しているのです。ユミーナ様の強さは知りませんが、村の子供がひとりで安心して暮らせる家なのです」


 思った以上に隠れ家はすごいみたい。それよりも気になる言葉があった。


「私のいた世界には魔物がいなかったけれど、魔物は凶暴な動物に似ているという感じであっているかな?」


「その通りなのです。動物が魔力で暴走した結果が魔物なのです。魔物の種類によっては元の動物よりも巨大になって、強さもすごいのです。弱い下位魔物ならわたくしでも倒せますが、中位魔物や下位魔物でも数が多ければ逃げるしかないのです」


 トラやライオンは私に比べれば充分に強いけれど、魔物はもっと大きくて強いと思ったほうがよさそう。魔物の認識はあっていたけれど、コガネでも倒せない魔物がいるので、遠くに出かけるのには注意が必要みたい。


「私は普通の動物にも負けると思うから注意するね。近くに農村があると聞いているけれど、そこまでは大丈夫なの?」


「主様がいなくなって少しだけ魔物は出るようになったのですが、普通の成人した男性やわたくしなら倒せる弱さなのです」


 私では倒せないかもしれないけれど、凶暴な動物よりは弱そうに思えるから、誰かと一緒に移動すれば問題なさそうね。


「近くの農村や森の中を歩くときは、コガネも一緒にお願いね」


「了解したのです。家にかかっている魔法は100年以上は維持されるので、しばらくは問題ないのです。危険を感じたら家の中へ入れば大丈夫なのです」


 私が生きている間は魔法が切れることはなさそう。


「ありがとう、魔物を見かけたら家へ逃げ込むね。話が逸れてしまったけれど、家の中の案内をお願い」


「案内を開始するのです。1階は生活する場所で、2階に寝室や主様の書斎があるのです。この部屋は――」


 1階は大勢でもくつろげるリビングがあって、来客用の部屋も用意されていた。ほかにはキッチンやトイレに、お風呂まで完備されてあってうれしい。


 2階はおばあちゃんの寝室と書斎にコガネの部屋もあって、ほかには来客用の寝室がいくつかあった。コガネは少女の姿でおばあちゃんを手伝っていたみたいで、ただ夜寝るときは猫の姿でおばあちゃんと一緒に寝ていたと教えてくれた。


 おばあちゃんの部屋はそのまま残しておきたかったので、来客用の寝室を私の部屋として使うことに決めた。


 一通り見終わったあとに、食事をどうしようかと思ってキッチンを覗いた。食料が置いてある場所を聞いたけれど、中身は何も入っていなかった。


「食料を入手する必要があるみたいね。ところで見慣れない品物があるけれど、これはどのような道具なの?」


 円板みたいな品物や重たそうな空っぽの容器が置いてある。


「それは火を起こす魔道具で、こちらは水を出す魔道具なのです。どちらも魔石を使って動く道具なのです」


 魔石が電池や電気の役目となる、家電製品みたいな感じかな。


「あとで使い方を教えてほしいけれど、魔石は魔道具を動かす力だと思うけれど、どういうものなの?」


「魔石は魔物を倒すと出現する、見た目は小さな石なのです。その中に込められている魔力を開放して、魔道具は動いているのです。魔石は在庫が少しあるので、必要な魔道具は動かせるのです」


 予想した使い方だけれど、魔物を倒さないと魔石は入手できないのね。コガネに頼めば魔物を退治してくれると思うけれど、お金で解決できれば安全に入手できる。


 家の案内から現在の状況が分かってきた。慣れるまでは不便な生活は仕方ないけれど、最初に片付けなくてはいけない案件がみつかった。


「魔道具は使うときに教えてもらうとして、まずは食料確保が重要ね。近くに農村があると聞いていたから、そこで食料を入手したいけれど、お金はもっている?」


 食料とお金の確保が重要だった。


「食料はないですが、お金はしばらく暮らせるくらいあるのです」


「それなら日の高いうちに、農村へ食料を買いに行きたいけれど可能かな?」


「大丈夫なのです。お金を取ってくるので、リビングで待っていてほしいのです」


 言われたとおりにキッチンからリビングへ移動して、部屋の内装を見ながらコガネが来るのを待っていた。目新しい品物はなかったけれど、書かれた文字を問題なく読めたので、文字の認識ができてうれしい。


「お待たせしたのです。小金貨を何枚か持ってきたので、充分足りるのです」


 コガネが実際の小金貨を見せてくれた。10円玉くらいの大きさに金を思わせる地金で、裏と表に模様が刻まれている。


「小金貨の価値を知りたいから、硬貨の種類と外食時の値段を教えてほしい」


「硬貨は安い順に小銀貨、銀貨、小金貨、金貨で、それぞれの値段は10枚で異なるのです。人が多い街での夕食は銀貨2枚くらいで、アルコールが入るともっと多く必要になるのです」


 夕食を2千円くらいと考えれば、銀貨1枚が1千円くらいになる。小金貨はその10倍だから1万円で、それが何枚かあるのなら食料調達には充分な金額よね。


「ありがとう。種類と価値が分かったから、近くの農村へ案内をお願いね」


「分かりましたのです。今からなら暗くなる前に家へ戻れると思うのです。森の中では魔物が出るかもしれないので、わたくしから離れないようにお願いするのです」


 私が頷くのを確認すると、コガネがリビングから移動を始める。


 家から出て、コガネと並びながら森の道を歩き出した。馬車が余裕で通れる道幅はないけれど、踏み固められた道は人の行き来がある証拠でもあった。まだ日は高かったけれど、木々に囲まれた道は涼しくも感じた。


 農村までどのくらいの距離かをコガネに聞こうと思ったとき、急にコガネの右手が私の前に出されて、私とコガネがその場に立ち止まった。


「静かに音を立てないでほしいのです」


 小声で話すコガネの表情は真剣そのもので、視線は森の奥を見据えていた。

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