第五章 ネラの物語 『新しい箱』の代わりに

文明が崩壊した世界


 ネットワークの最重要惑星、エラムの近くにある惑星テペ・シアルク。

 文明が発達せず、何の脅威もなかったので放置されていたのだが、いつまでも放置とはいかず、ネットワークは接触をすることになった。


 この惑星世界、どうやら文明が一度崩壊しているようで、その残滓の上に変な文明が成立しているようだ。


 統治者はなんと箱型の人工知能、といっても極めて保守的な技術の物ではある。

 ただこの人工知能、それなりの寿命があり、壊れかけたとき、保管していた『新しい箱』にデータを移管して、統治というか、惑星の生命体を守っていた。


 人工知能といってもネットワークのように自立した思考回路などなく、ただプログラミングの集積と呼ぶべきものであった。

 そしてネットワークが接触したとき、最後の箱が機能を停止した……


 ネラは元モルダウ王妃、夫のウィルヘルム亡き後、何とかモルダウ王国を統治した経験があり、テペ・シアルクの『新しい箱』の代わりとして赴任することなった……

 この惑星……『マグ・メル』のような奴隷制があった……


* * * * *


 ある日、ネラは辞令を受け取った。

 『惑星テペ・シアルク執政官に任じる』というものであった。


 ヴィーナスさんの義理の息子、ウィルヘルムの正妻であったネラは、夫が亡き後、ひととき国政を担当した。

 ネラは子はできなかった、死産だったのだ。


 ウィルヘルムは多くの妻を持ち、ほかの妻は子を授かった。

 その中の年長の男子が成人したとき、預かっていた国権を渡し、自分は義理の母であるヴィーナスに使えることにした。


 いつの間にかネラは側女になっており、『夫人待遇側女』になり、同時に惑星テペ・シアルク執政官となったのだ……


 一応、エラムから簡易鉄道が敷設され、テペ・シアルク・ステーションが設置された。

 標準簡易ステーション分割結合型で、ホールトとも呼ばれるユニバース管理のステーションの中では最小のものである。

 ステーション・フルタイム施設もF編成である。

 本来は軽便鉄道殖民軌道であるが、エラムの隣ということで、ユニバースの簡易鉄道となったのである。


「統治はスカラ・ブレイを参考にすればいいわ♪」

 ヴィーナスさんが気安くいっています。 


「スカラ・ブレイ?」

「そう、ただね、どうやら『マグ・メル』のような奴隷制があるようなのよ……」

「『マグ・メル』ですか!あの食用奴隷の島ですか?」

「マグ・メル本島の方よ、シュードラ島ほどひどくはないけど、慢性的に食料が不足しているようなのよ」


 本来、ほっとけばよいのですが、どうやら文明が崩壊したとき、『家畜制度』が成立したようなのですね……


「先史時代のエラムのようですが、『家畜制度』ね……迷惑ですからね……最低限の介入をすることにしたのよ」


 『家畜制度』って、つまりはカニバリズム……しかも食用の為に奴隷女に出産させる……


「その『家畜制度』の残滓が今も残っているようなのね……」


 接触といいますが、ネットワークは惑星テペ・シアルクを軍事制圧したらしいのです。

 ただヴィーナスさんの意向で、虫の食料惑星の扱いとしたようなのです。


 で、とにかく生身の執政官を派遣することになったわけです。


「まあ、好きにしてくれていいわ、どうにもならなかったらキレイサッパリ消えてもらうわ……責任は私にあるから、ネラは思う通りにしてくれていいのよ」

「ネットワークがテペ・シアルクに接触したとき、統治者というか王はなんと箱型の人工知能、極めて保守的な技術の物だったのよ」


 ヴィーナスさんの説明によれば、

 この人工知能、それなりの寿命があり、壊れかけたとき、保管していた『新しい箱』にデータを移管して、統治というか、惑星の生命体を守っていた。


 人工知能といってもネットワークのように自立した思考回路などなく、ただプログラミングの集積と呼ぶべきものであった。

 そしてネットワークが接触したとき、最後の箱が機能を停止したらしいのです。


 この世界、神殿はあるのですが神官は存在しない……

 『箱の神』は直接、その時の最有力施政者に来所を命じて、そのものが来ると、衆人監視の中で幕屋が開き、『箱の神』が声を発するようなのです。


 この『箱の神』の意向は絶対で、呼ばれた施政者はそむくことはないようです。

 数万年このようなことが続き、人々は神のお言葉に従うことしかできないように、『退化』したようなのです。

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