急行『夢のイーゼル2号』の一等車内にて
ペトラさんは二日ほど実家でのんびりし、その後エリザベートさんとイーゼルで合流する予定です。
「ごゆっくりされればよろしいのに」とバトラー。
「侯爵様にはよろしく申し上げてね」とペトラさん。
ロンディウムのライニンゲン侯爵別邸で朝食をいただきながら、執事さんと言葉を交わしているペトラさんです。
「おはようございます、ペトラ大叔母様」
朝食の席でライニンゲン侯爵の三女、パトラさんが声をかけてきました。
ペトラさんが、
「おはようパトラさん、会うたびに綺麗になるのね♪」
「お姉さまのパメラさんはいないの?」
「パメラ姉さまはデートです」とパトラさん。
「パメラさん、彼氏がいたの?」とペトラさん。
パトラさんが、
「ペトラ大叔母様、舞踏会で会わなかったですか?彼氏さんと踊ってらしたようですよ」
ペトラさんは、
「そういえばいたような……あまりにラブラブで声をかけられなかったわ」
「うらやましいわ、私も早くデートしたいわ♪」とパトラさん。
「パトラさんなら、いやでもお声がかかるわよ」とペトラさん。
「ならいいのですけど……」とパトラさん。
「ペトラ大叔母様はもうおたちなのですか?」とパトラさん。
ペトラさんは、
「今度来るときはゆっくりするわ、なんせここのモーニングはおいしいのでね♪」
食卓に並んでいるのは、ベーコン、ソーセージ、卵、トマト、マッシュルーム、ブラックプディング、ベークドビーンズ(煮豆)、トースト、紅茶またはコーヒー。
いわゆる『フル・イングリッシュ・ブレクファースト』、近頃、このエラムでもヴィーナスさんの世界の料理が紹介されていて、モルダウ貴族の間で流行っているのです。
「さておいしかったわ、今夜はエリザベート様にご挨拶に行きますのよ」
エリザベートさんはハイドリッヒの姉、モルダウの王族では一番の女長老というわけです。
パトラさんが、
「エリザベート様ですか……一度お会いしましたが、怖くて顔を上げられませんでした……」
ペトラさんは、
「そんなに怖い方ではないのよ、でも私はいつも怒られているけどね」
云いながらウインクするペトラさんを見て、パトラさんも微笑んでいます。
ということで、ペトラさんはモルダウ王国が所属するハイドリア連合王国の首都ハイドリアを経由して、イーゼルへ向かう大陸横断鉄道馬車に乗りました。
鉄道馬車とはいっていますが、立派な鉄道、馬など使っていたのは昔の話、魔法動力機関車が牽引していますからね。
イーゼル行の急行、『夢のイーゼル2号』の一等車に乗っています。
一等車といっても個室ではないのですよ、個室は特等車と呼ばれ、特別急行にしか連結されていません。
ペトラさんが、
「ロンディウム発のイーゼル行に特急がないなんてね……」
ぶつぶつ独り言を言っているところに、舞踏会の失礼な男が、
「おや、奇遇ですね、こんなところでお会いするなんて♪」
「あら、貴男は舞踏会の?」とペトラさん。
「最後に踊っていただいたマレンコです、舞踏会の華だったライニンゲン侯爵のパトラ嬢ですね」と失礼な男。
「違いますわ、けど名前はご遠慮させてくださいな」とペトラさん。
パトラさんと間違ったのね、まあ好都合かしら……あまり、黒の巫女様にお仕えしている女なんて、はばかられますしね。
「ところでどちらまで?」
ペトラさんが聞くと、マレンコさんが、
「ハイドリアです、父の代わりに会議に出なければなりませんので」
「貴女はどちらまで?」
「イーゼルです」とペトラさん。
マレンコさんは、
「イーゼルですか?うらやましいですね、ファインは美味いですからね」
「そうですね」とペトラさん。
これをきっかけに、マレンコさんは喋りに喋りました、それも顔がだんだん近づいてくるのですよ。
……まったく、失礼な男ね……早くハイドリアにつかないかしら……
……でも、不思議よね、これだけ喋っても自分のことはこれっぼっちも喋らないわ、名前だけね、喋ったのは……
マレンコさんが、
「それにしてもお綺麗ですね、想う方はおられるのですか?」
ペトラさんは、
「雲の上の方ならお慕いする方もおられますが、今のところはおりません」
……いるといったほうがよかったかしら……このマレンコという方、口説きにかかっているようですし……
……あぁ、うっとしいわ、はやくハイドリアにつかないかしら……
ペトラさんの難行苦行はしばらく続いたようです。
マレンコさんが、
「もうハイドリアか、残念です、またお会いしたいですね、その時はよろしく♪」
「そうですね、またお会いできればよいですね」とペトラさん。
……誰が貴男なんかと会いたいものですか!……
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