砂糖のお話 その二


「砂糖ですか……で、その『雑草根』を促成栽培したいのですか?」

 マレーネさん、最初から渋い顔ですね。


「栽培コンテナでなくても、プラントみたいなもので大量栽培できませんか?」

 響子さん、お構いなしです。


「葉物ではないのですよ、根菜なのですよ」とマレーネさん。


 響子さんは、

「難しいのは理解しておりますが、なんとしても廉価で質の良い砂糖の、大量生産を実現したいのです!」


「マイクロ・インフェニティ・カーゴ装置で作れるのではないのか?」

 イシスさんが聞きました。


 待ってましたとばかり影山部長が、

「物資補給部が使うためには『使用料』がかかるのです!まけてくれますか?」


「それは……」

 イシスさん、ちらっとガブリエルさんを見ます。


 ガブリエルさんが、

「防災備蓄食料専用のマイクロ・インフェニティ・カーゴ装置は軍用です」

「そのために開発されたもので、これを民需に使うと、ネットワークの民間食品会社に多大の影響を与えるととも、現地政府の自助努力が減退する」


「無制限に無料で食料を提供するということは不可とする、栽培コンテナの時、ネットワーク審議会で決められたことではないですか」


 しかし響子さんは、

「だから制限をかけ、無料配布の場合はそれなりのペナルティを課す、そうだったですよね」


 事実、ネットワークにおいては食糧危機はありえないのです、栽培コンテナや促成プラント、インフェニティ・カーゴ装置などを使えば、どしどしと食料は生産できます。

 味さえ文句を言わない、その上、モラルの低下に目をつぶればですけどね。


 マレーネさんが、

「防災備蓄食料においては非常時には必要なので、専用のマイクロ・インフェニティ・カーゴ装置を軍用としたわけですよね」

「したがって戦時体制が前提になる、ミリタリー補給カタログに防災備蓄食料を載せているわけです」

「緊急事態には民間の方にも『軍務雇員徽章』を貸出、ミリタリー補給カタログを使えるようになっています」


「緊急用の砂糖は影山部長がおっしゃりましたが、配布には問題はありません」

「そもそも生きるか死ぬかの緊急事態ですから、味は二の次、栄養が第一なのが軍用食料なのです」


「以上の理由で、防災備蓄食料専用のマイクロ・インフェニティ・カーゴ装置の民間使用は、基本的には認められません」

「しかし、そうはいってレイルロードは基本は軍用で、そこの物資を管理する物資補給部の要望は考慮すべきであり、若干の『使用料』で使用を認めることになったのです」


 サリーさんが、

「そのあたりを考慮していただきたいと私が申し入れしたのです」


 あれ、サリーさん、上手くかわしました、本当はご自分がお安く『ケーキ缶』を食べたかったはずでは……


「そうですよね、お嬢様♪」


 ヴィーナスさん、見事に話を預けられたようです。

「そ、そうでしたよ……」


 響子さんとカローラさんを除いて、皆さん、ニヤニヤしています。


 マレーネさんが、悪い顔をしながら、

「ところで、ヴィーナス様のお考えは?きっとよい対策をお考えかと拝察いたしますが?」


 ヴィーナスさんが、

「まったく……わかりましたよ、考えます!マレーネさんも知恵を貸してね!」


 ここでヴィーナスさん、とんでもない案をひねり出したのです。

 いわゆる異空間倉庫の活用です。


 異空間倉庫とは、要するにマイクロワープを行うために空間を捻じ曲げるのですが、それを活用して捻じ曲げた空間の端っこに『部屋』を作り、そこに物を格納することが可能となっているのです。


 もともとアスラ族の最高人工知能である、マレーネさんが作り上げた物なのですが……

 ヴィーナスさんは、その『部屋』を大拡張して農地にするというのです。


 マレーネさんが、

「それはいい考えですね♪」

「あとは人工土壌と人工太陽光を用意すればいいわけですよね♪」


 ヴィーナスさんは、

「でしょう♪時間軸を重層的に調整してパラレル農場♪」

「空間も捻じ曲げておけば、マイクロ・インフェニティ・カーゴのように瞬時とは行かなくても、促成栽培に近いことはできるわよ」


「そうそう♪それに『雑草根』というのは『にがり草』に近いということですし、そこまで大規模にしなくても可能でしょうから♪」


「栽培コンテナは難しくても、プラントみたいなものに収めることは可能でしょうね」


 マレーネさんが、

「あれ?この最初の考えなら、大根でもジャガイモでも根菜類の促成栽培も可能ではないですか?」


「各地にこのプラントを幾つか組み込んで、栽培プラント衛星なんてできますよ♪」


「いいわね♪」とヴィーナスさん。


 ヴィーナスさんとマレーネさん、なんか盛り上がっています、ノリノリですよ。

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