五十話 三日月よ七難八苦はもう結構です!
慶長十年(1605年) 7月4日 北亜米利加大陸 新名護屋城
イスパニアとの戦が終わってから五年の年月が過ぎた。イスパニアとはその後も何度か戦となったが新名護屋沖でイスパニアの艦隊を九鬼が率いる艦隊が粉砕した。これによりイスパニアとその背後にいたローマ法王は戦争継続を断念して講和が結ばれた。
これにより南北亜米利加大陸から欧州勢は排除されることとなった。こうなったのも九鬼を始めとする海賊衆が欧州の湾岸を度々襲撃する{倭寇wako}を行ったためである。彼らは古のヴァイキングの様に恐れられ彼らの反攻の気持ちを折ったのであった。
蒸気機関車のお陰で大陸を横断するのは容易になった。早馬も電信が取って代わり、電話ももうすぐ実用化する。三百年は時計の針が早まった感じだな。
信長殿が亡くなってもう五年になる、イスパニアとの戦の結果を見届けて安堵したかのように亡くなられた。後は嫡男の信忠殿が既に継いでおり太政大臣として政務を行っていたので混乱はなかった。晩年信長は新大陸を尾張の隠居として好き勝手に旅していた。
鉄道のお陰で死に目に間に合ったがその時に言ったのがあの敦盛の一節であった。
「人生五十年というが儂はそれから二十年近く生きた。もう心残りは無い。願わくは日ノ本が此れからも太平であって欲しいものだ」
小さないざこざは起きているが大きな戦にはなっていない。各地に配置された鎮台に配属されている常備部隊が睨みを効かせているからだ。
因みに最上殿は新種の鮭を発見することに生涯を捧げ鮭の学名は(モガミ)になってしまった。最上一族は鮭の養殖に成功し巨万の富を築き鮭王と呼ばれている。
浅井長政殿は新大陸を欧州勢から開放することになり各地を転戦しさらに南米大陸を進み遂には最先端迄たどり着いた。その後アルゼンチンに当たる場所に拠点を起き後にそこは新近江と名付けられることとなった。
その後は南米大陸に睨みを効かせる鎮南府将軍として開発に生涯を捧げている。三年前に最後に会ったが元気そうで何よりである。
「もう齢六十か、そろそろ定年退職してもいい頃合だよな」
商売の方はもう息子たちに任せている。長男の甚太郎は幸元と名乗り本社を切り盛りしている。
えんと咲の子供たちは風魔と鉢屋の仕事を継いだ。忍者というより今は情報機関として情報を収集したりスパイみたいな事をしているようだ。
亀寿と松の子達だが上の男の子が島津と毛利の分家を作る事になった。両家とも山中家と繋がりを末永く持ちたいらしい、山中島津とか山中毛利家とか後世で呼ばれそうだな。
他の子どもたちは鴻池の支社勤めをしているが変わり種は千明との末子が武士になりたいと言い出して織田家に行っている。最前線がいいとかで滝川殿の所に行き前田利益殿と一緒に働いているらしい。傾奇者にならなきゃいいが。
隠居したら信長殿みたいに世界を回ってみようか、奥さんみんな連れて。
最近到達したオーストラリアとかニュージーランドにあたるところも見て見たいな。
★
その後、鹿介は隠居を宣言し公の職からすべて引いた。
隠居した鹿介は望み通り世界のいろいろな場所へ行ったと記録に残っている。
その様子は{鹿介航海記、鹿介放浪記}などの書籍が有名だが後世の人間が書いた物でその内容には間違いも多いと言われている。
結局七十九歳まで生きて天寿を全うし、朝廷から死後従一位を追贈され生まれ故郷には神社が建立され彼の活躍を記念した祭りも行われている。
又商売の神様とか勝負の神様、変わった所では酒飲みの神様(鹿児島)としても各地に由緒のある寺社が点在している。
子孫は鴻池財閥として長く栄えた。 (大日本帝国書籍 日本の歴史 戦国時代~安土時代より)
★
気が付くと真っ白な世界に水に浮くような形でいるのに気が付いた。
どうやらお迎えが来てここはあの世という事らしい。
しばらくすると何かの存在が感じられた。どうやら神様のような存在らしい。
その存在は俺を又生き返らせてくれるらしい、今度はどんな人生を送るのだろうか?
なるべくなら平穏な人生を送りたいものだが。
(そうだねえ~幕府を束ねる職の息子に生まれたけど倒幕されて何度も御家再興するのはどう?)
「却下!却下!そんな中先代は嫌だ!」
(ちぇ、バレたか、じゃあこの国じゃないけど、名家の次男に生まれて乱世の奸雄と覇権を競うってのはどう?)
「マテ、それ何処の袁だよ!兄弟でもめて滅ぶ奴じゃないか、お断りだ!」
(うーん、そろそろ時間切れ(タイムリミット)だな~じゃあ苦労しそうな人へランダムで送るね)
「やめろぉ!」
神様、もう七難八苦はお断りします!
完
※ 本編はここで終わります。幾つか余話を追加していきます。
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