第四十五話 ○○王に俺は成るという既視感

 羽柴肥前守秀吉殿の依頼をこなした後は長崎に向かう。この当時長崎は大村氏がポルトガルとの交易の為に開かれた港で大変賑わっていたが龍造寺氏の詔破りに加担していたので大村氏は滅ぼされてしまい、代わりに織田政権の奉行が置かれるようになった。


「これは山中殿、御足労願い恐縮です」


「いえいえ、佐吉殿も御健勝でなにより」


 長崎の奉行は何と石田三成である。本来の歴史なら近江に所領を得た羽柴秀吉の配下になる筈だが、歴史が変わったせいで織田政権の直属になっていたのだ。当然有能な人物好きの信長によって長崎奉行に抜擢されている。生真面目な性格故に煙たがられるかと思いきや上手くやっているようだ。これは仕えた先が違ったからなのか、興味深い。


「準備は出来ております。船、人共に揃いました」


「そうですか。指揮を執るのは予定通り……」


「おお!いらっしゃいましたか!」


 しわがれた、だがよく通る声の主が現れた。


「これは松浦殿、準備万端ですか」


「然り然り、乗り手も新しき船に慣れ申しておりますぞ。しかしあの船は良い、今までの船が鈍間に見えますな」


「気に入って貰え何よりです」


 平戸を治めていた松浦隆信であったが龍造寺に加担していたため攻められて領地を追われていた。そんな彼に仕事を与えてみたのである。


「山中殿の考案した新型船は南蛮の船よりも大きく速いと評判です。南蛮人たちも驚いておりましたよ」


 三成の言う新型船とはスペインのガレオン船モドキである。こちらの少し怪しい知識を日本の船大工たちを動員して何とか作り上げ、何度も試作を繰り返してやっと本家に勝てるだけの船が作れたのであった。


「南の島々は今だ南蛮の支配に無いところもあると聞く、そこを新天地と定めるわけですな」


 これも北海道と同じく浪人対策となっている。こちらは松浦氏を始めとする旧龍造寺・大友に付いた連中が主であった。


「そうですな、彼の地で暴れて、海賊の王などと呼ばれるのもいいかもしれませんな、うん海賊王に俺はなりますぞ!」


 そう言って力こぶをを作る松浦にあのキャラを感じてしまった。何という既視感。


 一人で盛り上がる松浦隆信に俺と佐吉殿は完全に置いて行かれてしまうのであった。



「船団の指揮の方は問題は無いようですね」


「ええ……多分問題は無さそうです。後は上陸部隊の方ですね」


 俺と佐吉殿は今度は船団が運ぶ上陸部隊の駐屯地に向かっていた。松浦のあの振る舞いにも耐えられる佐吉殿はどうやら大分成長したらしい。


「此方は主に龍造寺と大友の遺臣達が中心です。元の領地に未練が無いので新天地に行って一旗上げようとしている者ばかりです」


「成る程」


 要はヒャッハーしそうな奴らばかりなのか?南方の人たちには申し訳ない気持ちになるな。


「我が槍の前に敵無し! 全て撫で切りにしてくれるわ!」


「何の某の剛力の前に砕けぬ物は無し! この筋肉を見よ!」


 其処では俺の想像以上の光景が広がっていた。皆朱の槍を軽々と振り回してガハハと嗤っている者、ムキムキの筋肉を見せ付けて木の束をへし折っている者。どこの世紀末かと思っちゃうよ。本とに今は世紀末が近いけどさ。16世紀だけど。


「まあ……このような者でして、無論束ねる者たちはまともな者が居りますので問題は無いかと思います。多分……」


 佐吉殿も自信なさげに言われるが確かに此れは束ねる者は大変だろうなあ。


「南海に覇を唱え、南海王に俺はなる!」


 こっちも考える事は同じかよ。


 俺と佐吉殿は視線を合わせて同時にため息をついた。


 







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