第四十二話 織部覚醒

北海道 函館 五稜郭


 開拓が始まって丸五年が過ぎた。徐々にだが開拓は進みこの函館は鴻池の代官所として五稜郭を擁しこの地方最大の都市に成長しつつある。そしてこの地に入植した武士や百姓たちの頑張りで徐々に其の開拓範囲が広がっている。この時代には南下してくるロシアの脅威が無いので無理に根室や稚内にいきなり入植する事は無く南から北へ徐々に進んでいく感じだ。


 無論山師などは抜け目無く鉱山を探して山の中に分け入っている。羆も出るのにご苦労な事だ。お陰で其の護衛任務で鴻池(うち)の警固衆(ごえい)が休むまもなく繁盛しているわけだ。アイヌの道案内と彼らの飼っている犬も警固衆に加えてある。


 アイヌとの関係は今のところは共存共栄を目指している。彼らの生活の邪魔をしないようにお触れを出していて破ると最高で死刑もある厳罰に処せられる。彼らの方は自分たちの生活を荒らさなければ許容してくれているので安定している。


 向こうは狩猟民族で此方は農耕なのも関係しているのだろう。


「夕張(ユーパロ)で大規模な炭田を発見したと山師が報告してきました」


「それは幸先がいいな、あの地域は有望だな」


 山師に付いて来ている鉢屋衆が報告してくる。夕張が産地である事は知ってるけどね。


「では、鉱山町の区割りの必要も出てきますな、出張ってきます」


 風魔衆が動き出す。工夫が集まれば当然遊ぶ所が必要になる。其処は風魔の得意とするところだからだ。


「問題は其処までの輸送路だな、北海道は広い、陸路を荷車では如何にも辛いものがありますな」


 佐竹義重が言うと得たりとばかり里見義弘が頷いて切り出した。


「街道の普請は進んでおりますがそれ以上に開発が進んでおります。普請に使う人足も不足気味ですな」


 二人とも付いてきた家臣達と開拓に従事してるがやはりそこが死活問題だと思っているのだろうな。最近は南蛮人から取り寄せたジャガイモや甜菜の栽培が軌道に乗っているし、鮭の加工も行っているからな。食料の米を買うためには運び出す流通路の確保が大事だと気が付いたようだ。


「判りました。本社に行きますのでその辺の都合をつけてみます」


「頼みましたぞ!」


 二人の期待する視線を受けながら北海道を立ったのであった。



 出羽国 酒田


 北前船に乗って途中に寄港した酒田に最上義光が居た。どうやら新物の鮭を待っていたらしい。相変わらず鮭大好きな御仁だな。


「山中殿、北海道は開拓が進んでおり、新たな鮭の漁場が開拓されているとか?」


 何処で知ったんだよ、鮭の事になると耳が早いな。


「某も北海道に行きたいのですが奥州の纏め役を仰せつかっている身ゆえ出来ませぬ、それゆえこの鮭延を代わりに行かせようと思うのですが如何でしょうか?」


「山中殿某からもお願い申す、まだ見ぬ鮭が待っているかと思うと、今にも羽が生えて飛んでいきたい思いで居ります!」


 どうなっているんだよ?この主従は? そこまで必死になるとこなのだろうか? まあ鮭好きには鮭好きの理論があるかも知れないからそこはまあ尊重するけどね。


「判りました。これから上洛するところですので信長殿には良しなに図ってもらいます」


「おお! 頼みましたぞ!」


 二人で無邪気に喜んでいるのを見ると、この時代が戦国時代だという事を忘れさせてくれてほっこりするよ。




山城国 伏見城


 やっと京まで着いた。信長は安土では無く伏見城に居ると聞いてやって来たのだがどうも様子がおかしいな。確かここで茶会が開かれているはずなのだが来ている客がざわついているんだよ。


「これは、前田殿、このざわつきは如何されたので?」


丁度居合わせた前田利家殿に尋ねる。彼も加賀に所領を持つ大名の一員だがここで茶会があるので呼ばれたのだろう。


「おお! 山中殿か、ここに来られたとは運が良い! 古織が、古田織部がやりましたぞ! あのような茶、見たこともござらぬ、利休殿も手放しで褒めて居られての、大殿も非常にお喜びでござった!」


 古田佐介はうちにきて修行した後、武将として茶人として頑張っていると聞いたが何か凄い事をしてのけたようだ。織部と言うのは信長が彼に与えた官名で正確には織部助というものだ。


 取り敢えず信長の処に行く事にする。すると彼はある茶碗を前に置いて眺めていた。


「鹿介か! これを見よ、古織がやってくれたぞ! この茶碗、このような物見たことが無いわ」


 そう言って悦に入っている茶碗は歪みまるで下手くそが茶碗を作ったかのような形をしている。


「この茶碗は美濃焼ですか?」


「そうだ、古田の奴があちらの職人たちに指導して作らせたのだ。 だがまさかわざと歪ませて作るとは思いもよらぬ工夫よ。 あの利休も褒めておってな。 お前の所に修行に出したのは正解であったな!」


 大変な喜びようだ。こちらも修行させた甲斐があったものだ。ご機嫌だったせいで北海道の事もおおむね許可をくれた。古田様々だな。


「山中殿!お久しゅうござる。ようやく会心の出来の茶碗が出来申した! この古田、感謝しておりますぞ!」


 茶室に出向くと主人を務める佐介君が感謝の言葉を述べてくれた。 だが君が来てくれたおかげで美祢焼も随分と良くなったと皆から報告が来てたからありがたいのはこっちだ。


「織部殿の創意工夫が実ったのでござるよ、そうでありましょう、利休殿」


「古田殿の創意への情熱と山中殿の援助の御陰ですよ、私もこのような茶事に参加できた事を感謝しております」


 佐介君の茶の師匠である千利休の言葉にも古田織部の功績をたたえる言葉があり、古田織部は天下の茶人として日本中に知れ渡る事となった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る