第二幕 情報収集という事で織田信長を見に行こう

 体に異常がないと言うことで宿を引き払い京に向けて出発する。ちなみに宿と言っても宿屋ではなく寺の宿坊。この時代宿屋がないわけではないが今の我々は人目を憚らねばならない身なので巡礼と言う事で旅しているのである。


 暫く歩き人気の無い道端に座り込んでいる者がいる。


「お久しゅうございます、鹿介様」


「久しいな、源四郎」


 一見旅の巡礼のような成りをしているが、油断のならない気配がするのは事前にその素性を聞いていたからだろうか?


 その正体は、尼子を陰で支えた鉢屋の一族で、名を源四郎という男である。


 鉢屋の衆と尼子家は三代前の尼子経久の頃よりの付き合いである。その頃出雲の守護代であった尼子経久が主家の京極家に逆らって放逐された時、月山富田城を奪還するのに協力したのがその初めであり、その後も尼子の忍び働き――主に奇襲などの特殊工作を行っていたそうだ。


 尼子滅亡の時に鉢屋衆は尼子家を退散したが源四郎は我々について来てくれて情報収集や繋ぎ役を受けてくれている。


「京にて立原様と湯様がお待ちになっておられます、すでに尼子誠久様の御子息の寺に行き挨拶をされております」


「うむ、それで尼子家再興の大事、もう漏らされたのか?」


「いえ、御子息のご実家は尼子宗家に滅ぼされて居りますゆえに、其処は慎重に……」


「恨んで居るかも知れませんからな」


 おっさんがさもありなんとうんうんと頷いている。


「当たり障り無く尼子家の滅亡をお知らせし、戦いで命を落とした者たちの回向をお願いしました」


「そうか、そなたから見てどのように感じたか?」


「尼子宗家の滅亡に驚かれ心を痛められていましたな」


  源四郎がそう言うのであれば、当然裏も取っているはずだから間違いは無いであろう。


「そうか、では急ぐとしよう、遅れを取り戻さねばな」





 洛外 宿坊


「鹿介、もう体の方は良いのか?」


 目の前にいるのは立原久綱、鹿介(おれ)の叔父にあたる人物だ。


「叔父上、ご心配をおかけしました、もう大丈夫ですよ」


「肝が冷えたぞ、無茶はするなよ」


「申し訳ありません、気をつけます」


「兄者は体が強いので無茶をし過ぎですぞ」


 立原の叔父貴の横にあるのはまだ元服前の少年、湯新十郎である、どうやら俺を兄貴と慕って居るようだ。


「すまんな新十郎、心配かけたな」


「それで鹿介、源四郎から聞いたと思うが、誠久様の御子息の件なのだが」


「あのお方が尼子宗家に異心を持っておらぬのは聞いております、ですが再興軍の旗頭になっていただけそうなのですか?」


「うむ、わしは脈ありと見たのだが、そなたはどう思う?」


「叔父上がそう感じられたのならば有りなのかも知れませんが、某(それがし)は少し気になる点が」


「なにかな?」


「それはやはりあの方が新宮党の生き残りだからでしょうか?」


「そなたの考えは未だ出雲の民は新宮党の事忘れては居らぬ、そういう事か」


「はい、義久様を始め宗家の方々は毛利に囚われているとは言え健在です、再興の為とは言え傍流の謀反の廉で処断された家の者では呼応する者が少なく企ては失敗する事になります、先年大内家の変で陶に擁立された大友家から来た義長は結局大内家中の支持を得られず厳島で陶が討たれた後脆くも毛利に滅ぼされたという前例があります、我らは同じ徹を踏む事はありません」


「ううむ、ではどうすると言うのだ、毛利に掛け合い殿を解放してもらうとでも言うのか? その様な事は……」


「やってみる価値はあります、無論毛利が方針を変える為の仕掛けが要りますが」


「兄者はその策があるのですか?」


「其の為にしなくてはならない事がある、それには源四郎の力が必要だ、頼むぞ」


「はっ!」


「してどうするのか?」


「まずは尾張の国へ行きます、今川を破り今や美濃をも併吞せんとする大名、織田上総介(信長)を見極めます」


 そしてこれからとるべき道、するべき事を皆に話すのであった。

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