ブレーキ

球技大会前日、最終下校時刻15分前

彰はカードを片付けながら言った。

「明日は球技大会か」

「俺らもアシストするよ」

春翔も応援してくれた。 

鍵を閉め、職員室に返して、下駄箱に向かった。

靴を履き替えながら、壮太はちらりと後ろの方を振り返った。


愛美は、いつものディベート部の仲間と一緒に昇降口へ向かっていた。

笑いながら話す姿。ちょっとしたことで肩を寄せ合って笑う声。

そんな光景が、壮太の視界にスローモーションのように映る。

(あれが、“普通”なんだよな……)

自分は、あの日以来ほとんど話しかけていない。

ようやく普通に話せるチャンスだって、明日やっと作戦を実行するはずだったのに。

ただ、「自分がいなくても彼女は楽しそうにやってるんだな」と、胸の奥にひんやりとした感情が湧いた。

彰や春翔と何度も作戦を練った。

“4作戦”は完璧なはずだった。

でも。明るく笑う愛美を見て、

(邪魔しない方がいいかもしれない)と思ってしまった。

『そうやってニヤニヤされるの、好きじゃないから』

修学旅行の時、彼女の言葉と少し怒った顔を思い出す。

(やめようかな、作戦……。また、気まずくなったら……)壮太はそんなことを考えながら帰路に着いた。


壮太はベッドに入ったものの、ずっと目を閉じることができなかった。天井を見つめながら、何度も頭の中で“もし話しかけたらどうなるか”のシミュレーションを繰り返していた。そして、隣に置いていたコノハビのぬいぐるみをぎゅっと抱き寄せる。

「コノハビ……」

声は小さく、誰にも聞こえないほどだった。

「もう愛美さんに迷惑かけるようなこと、したくないんだ」

彼はもちろん何も答えない。ただ、昔から変わらないその目で、静かに壮太を見つめている。

「せめて、普通に、また顔合わせられるくらいになれたら……それでいいや」

そう言って壮太はようやく目を閉じる。相棒を胸元に抱いたまま、少しだけ穏やかな表情で、眠りについた。

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