季節は寒いが…

時は、2年3学期。通称、“3年0学期”。


大学進学を意識し始め、教室の雰囲気にもじわじわと受験モードが漂い始めるこの季節。

だが学期末試験が終わった直後にそんな空気を吹き飛ばす、2年で最後の大イベントが始まろうとしていた。


球技大会


学期末恒例の、クラス対抗スポーツイベント。

勝てば、学年主任の口から「○組は団結力がある」と言われるくらいには、みんな真剣だった。


冬休みが明け、壮太は、いつもの席で静かに思っていた。

(来年の今頃は受験本番や、始まったな、3年0学期)


テスト勉強に追われ、愛美さんへのアプローチも止まったままだった。

話しかけられないまま年を越し、不安だったテストも乗り越え、また日常が戻ってきてしまった。

「球技大会まであと2週間」

カレンダー見て

ざわめく教室。

誰がバレーでレギュラーを取るのか、ドッジボールに誰が出るのか──

壮太にとっては競技自体よりも、“学校行事で話すチャンス”がまた巡ってきたという意味で大事件だった。


放課後。

ポケカ同好会の部室には、いつもの3人が集まっていた。部活動が再開したばかりなのか今までよりも熱のこもった作戦会議が始まった。


「つまり、球技大会ってのは、“会話強化週間”なわけよ」


彰がペットボトルを机に置きながら言った。


「いや、運動苦手な俺らには拷問週間でもあるぞ」

と、春翔が苦笑いしながら返す。


「……でも、ここで活路を見出すのが俺だろ?」


壮太が静かに立ち上がると、彰と春翔の目にいつものやる気のスイッチが入った壮太の顔が映る。


「作戦はまだ未定。だけど今年度最後の球技大会だ、いつもの教室以上に“混ざれる余地”がある。

ここを活かさない手はない……!」


「いいぞ、壮太! 今回はどんな作戦だ!?」


「ってかその前に、競技何に出るんだよ、俺ら」

春翔が冷静に現実を突きつける。


「それは……明日のホームルームで希望調査されるらしい。そこから……全てが始まる」

「じゃあ一旦俺らは何出るか決めようぜ」

「一回確認してみよう、まず男子が出れるのはサッカー、バレーボール、ハンドボール。女子が出れるのはドッチボール、サッカー、バレーボー

ル」

「やっぱ俺らはバレーボール一択だな」彰は即答し、「せやな」と壮太も同意する。

「で、作戦の方はどうする?」彰はにやけながら言った。

「やっぱり、クラスの人にバレたくないから、1対1で話したいのよ」

「もちろんそれがベストやけどそんなシーン滅多にないでしょ。忘れちゃいけねぇのが……突撃作戦だな」

そう言った瞬間、3人の間に微妙な沈黙が流れ

る。

*突撃作戦-修学旅行最終日、壮太が、バスターミナルで周りの人がいない時を狙うことに集中しすぎて、急に話しかけ、愛美を困惑させ、少し怒らせる形で終わった哀れな作戦である。(詳細は1巻)

「あのときは……”自然さ”がまるでなかったよ

な」

「”バレないように”って気持ちが強すぎて、逆に“会話の流れ”を壊してた。タイミングすら読めてなかったし」

春翔の冷静な振り返りに、壮太はしゅんとする。

だがその表情は、どこか前向きでもあった。

「だから、今回はやる。“話しかけても不自然じやない”作戦でいく」

そう言った壮太に、彰は「どう行くんだよ」と返した。

「競技が終わった後や召集時間前の待ち時間でたまたま一緒になった時に話しかける。そうしたら自然に行くと思う。」真剣な顔持ちで話した。

「なるほどね、だけど、まだタイムテーブルも決まったわけじゃない、この作戦を行う際は、愛美さんの種目を把握しとかないといけねえからな。LHRの時間、生半可に参加するなよ。」春翔は念を押した。




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