第12話 戦闘!くーねたんVS魔獣
「エイタッ!」
3階から飛び降下したとき、視界に飛び込んできたのは、魔獣に吹き飛ばされるエイタの姿だった。
思わず手を伸ばすと、彼もこちらに手を伸ばしてきた。けれど、それは助けを求める仕草ではない。
(・・・笑ってる?)
エイタはサムズアップをしながら、にっと笑っていた。口は何かを動かしているけれど、声は聞き取れない。
でも、大丈夫だと思えた。根拠はないけど。ただ、エイタのあの笑顔で、そう思った。
だから私は、迷わずタタンと足音を響かせながら魔獣のいる2階へと降り立った。
そこは、先ほどとはまるで別世界だった。
壁は崩れ、あちこちに穴が開き、瓦礫が散乱している。まさしく激戦の跡だ。
(エイタは凄いね。私も頑張らなくちゃ!)
「さあ! 次の相手はこのくーねたんだよっ!」
「グルゥ」と低く唸りながら、魔獣が白濁した目でこちらを睨みつける。
魔獣が屈んだ。さっきと同じ構え。
あの巨体での突進。まともに喰らえば、ただでは済まない。
私もすぐにバッと構える。
「スピードなら、私だって負けないんだからっ!」
一気に地面を蹴り、間合いを詰める。魔獣もほぼ同時に飛び出した。
互いに引き寄せられるように距離が縮まっていく。
衝突の直前、私は急停止。身を反らし、遠心力を利用して魔獣の横腹に蹴りを叩き込んだ。
「ッッ!!・・・かっっっっっったい!」
蹴りを受けた魔獣は軌道を外れ、壁に激突。だがすぐに立ち上がる。目立った傷はない。
「グルアァァァアアアアァアアン!!」
怒りが露わになっていた。全身の毛を逆立て、低く唸る。
構えが変わる。今度は、両腕を地面に突き刺し、腰を高く上げている。
まるでクラウチングスタートのような姿勢。
魔獣が飛び出す。今度は速度よりも両腕に伸びた鋭い爪が主役だった。
私は垂直に飛び上がって回避。だが魔獣も素早く方向転換し、空へと爪を振るう。
「っぶないなぁ! お返しだよっ!」
身を翻し、落下の勢いを乗せて魔獣の頭部を殴りつけた。
魔獣は頭から床へ叩きつけられ、ドスンと地面が沈む。しかし、やはり致命傷にはならない。
うつ伏せの状態から、魔獣が振り向きざまに薙ぎ払いを繰り出してくる。
私はその背を踏み台にして跳び、間一髪で回避。
「くぅっ、ちょっとやそっとじゃ倒れてくれないね!」
魔獣が再び屈む。今度は完全に丸まってる。高速突進型の構えだ。
「キミって、わかりやすい子だね!」
魔獣が突っ込んでくる。私は空中に飛んで回避。だが、魔獣は壁に激突すると、バウンドするように反転して再突進!
「ちょちょっ!? 跳ね返るなんて聞いてないよっ!」
衝撃に備えて両腕をクロスし、なんとかガード。だが巨体に押し飛ばされ、壁を貫通して奥まで吹き飛ばされる。
「ぐぅっ!」
止まったところに、魔獣が追いすがっていた。大きく振り上げられた爪が、今にも振り下ろされようとしている。
「ふへっ、詰めが甘いよ」
ポケットからビー玉を取り出し、魔獣の顔面に向かって投げる。
指で銃の形を作ると、それをビー玉に向けて「バンッ」と撃った。
直後、ビー玉が光を放ち始め、ミラーボールのように回転しながら周囲を照らし出す。
突然の閃光に、魔獣が目を覆ってのたうち回る。
「グルワァアアァアァァアァンッ!」
その隙に、私はその場から脱出した。
「いててっ、危なかった~」
逃げた先でも、魔獣は怒りに満ちた顔で追いかけてくる。その瞳には、先ほど以上の殺気が宿っていた。
「うわっ、こりゃ本気でお怒りプンプンだね」
魔獣が突っ込んでくる。構えもなしに。
怒りに身を任せたただの突進だった。
私は再び地を蹴って、魔獣の攻撃を交わす。その至近距離で急ブレーキをかけ、膝蹴りを一発。
よろけた魔獣が尻尾を振るう。
「当たらないよっ!」
絶妙な距離感で尻尾が当たらない場所にいたくーねは、一瞬の隙を突いて、鳩尾に正拳突きを叩き込んだ。
大きな巨体が後ずさる。
「はぁ、はぁ、やっと効いてきたかな?」
(なかなか、タフだなぁ。手応えは出てきたけど、全然倒れる気配がないよ!)
何度も強靭な巨体を殴ったことで、両手足の筋肉が悲鳴を上げている。それでも、戦いは続く。
「まだまだッ、いっくよぉぉーーーっ!!」
再びダッシュ。全身をバネのように弾ませて、間合いを一気に詰める。
魔獣が咆哮し、鋭い爪を横薙ぎに振るう。私は滑り込むようにしゃがんでかわした。
「っとっと、そんな大雑把な攻撃じゃ、くーねたんと握手はできないよっ!」
滑り込みながら片膝を支点に回転し、回し蹴りを魔獣の膝にヒットさせる。
ガギッ、と鈍い音、魔獣がぐらつく。
「ちょっとは転がってくれると嬉しいんだけどねッ!」
そのままアッパーカットを食らわせ、魔獣の顎を打ち上げた。
「グフゥウルルル・・・ッ!」
だが、反撃が速い。魔獣が身体をひねり、強靭な尾を振り回してくる。
今度はしっかり地面を踏ん張り、両手でガードした。
「っ、もうっ・・・ちょっとは休憩させてよねっ!!」
ボロボロのフロアを駆ける。崩れかけた天井、破壊された壁、足元に広がる瓦礫。
それらを利用して、私は動き続けた。
「次はここっ!」
小さな台を踏み台にし、宙を舞う。魔獣も飛び上がってくるが、私の狙いはその先、天井だ。
接合部を蹴り壊し、崩れた瓦礫が魔獣の上に落ちていく。
ドシャアアアッ!
「よしっ、これでちょっとは、って、、やっぱり甘くないか~」
瓦礫の中から現れた魔獣は、さらに怒りを増していた。赤黒いオーラが滲み出している。
「うへぇ、どんどん怒りレベル上がってる気が・・・」
魔獣が突進してくる。今までとは桁違いの速度と威力。
私は紙一重で避け──
「!?」
かわしきれなかった。魔獣が尻尾でバランスを制御して、軌道を変えたのだ。
(防御が間に合わないっ!)
私はピンボールのように吹き飛ばされ、思わず口から血が噴き出す。
ドサドサと地面にバウンドし、よろめきながらなんとか立ち上がる。
「今のは、効いたなぁ」
魔獣も無理をしたのか、追撃はしてこなかった。
互いに距離を取り、静かな睨み合いが続く。
その時だった。
ズガドドオオォォオオォォンン!!
「ふぇっ?!」
「グルアァ!?」
遠くから、盛大な爆発音が響いてきた。
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