第14話弟子入り

やせっぽちの神様』


「え、ちょ……何で避けられないのコレ!?」


「うっそ……反応早すぎじゃない?」


「顔が笑ってるのにパンチが見えないの何……怖……」


──周囲のどよめきが、俺には正直ちょっと居心地悪い。


「……やっぱ俺、浮いてるよな」


格闘技術支援プログラムの一環で、俺――堂島迅は今、都内某所の格闘技道場にいる。


もちろん、弱点克服のためだ。

前のダンジョン、神喰い。あいつには俺の“力”が通じなかった。


「俺は、強くなりたい。技の面で、今の俺は足りてない」


そう自覚したからこそ来た。

が――


「堂島くん、ちょっとストップ。ええと、はい、これはですね、もう『人類と呼べない部類』です!」


明るく笑いながら、インストラクターのお姉さんが親指を立ててくる。


「ごめんね? 悪いけど、ウチで教えられること、もう無いかな!」


「……早いなおい」


練習相手は全員軽傷、医務室が混雑してる。

俺は一応加減してたつもりなんだが……。


横にいたユキが端末を操作しながら言う。


「合理的に判断するなら、ここの教授体系では、迅に“技術”の習得は不可能」


「だろうなぁ……」


「だから、別の手段を提示する」


そう言った次の瞬間だった。


「――おーい、どいたどいた。ヤクルトとカレーパンどこだ?」


どこからともなく現れたのは、猫背の老人だった。


白髪は寝ぐせつき放題。

ヨレヨレのジャージにサンダル履き。

手にはコンビニ袋と週刊漫画誌。

完全に「どこにでもいるジジイ」だった。


「……おやっさん、そっちもう生徒入れちゃダメだって言ったじゃないですか~」


スタッフが苦笑しながら声をかける。


「あー? 知らん。ていうか俺、引退してるしなぁ……でもまぁ、一応聞いとくか」


彼は俺の方を向いた。

目が、合った。


その瞬間、空気が変わった。


「……いい目してるな、坊主」


「……は?」


「お前、堂島迅ってやつだな」


「……ああ。そうだけど」


「拳に魂がねぇな。けど、“芯”はある。だったら鍛えりゃいい」


「……アンタ誰?」


彼は、にたりと笑った。

「俺か? 烏丸冴牙。“喧嘩の神”だよ」


「……はい?」


「知らない?」


周囲がざわつく。


「え、今なんて……」


「喧嘩の神? あの……喧嘩の神?」


「ってことは、都市伝説じゃなかったのか……!?」


ユキの端末が即座に反応する。


「確認完了。烏丸冴牙。国家指定・対人戦闘非公開S級実戦者。かつて“人間戦術兵器”と称され、活動歴の大半が機密指定。……正体不明のまま、5年前に引退」


「アンタ……本物なのか?」


「まぁな。実際、俺はもう引退してんだけどな。でも……暇つぶしにはいい」


彼は俺に指を突きつけた。


「坊主。お前、俺のところで鍛えるか?」


「……どのくらい?」


「2ヶ月。たった2ヶ月で、お前を“拳”にしてやる」


俺は、即答していた。


「……やってやるよ、“神様”」


後日。


山奥の古びた道場――

その畳に寝転び、ヨーグルトを食べる冴牙に、俺は深く頭を下げた。


「よろしくお願いします、師匠」


「ま、死ななきゃ上出来だ。じゃ、まずは地面掘れ。素手で」


「は?」


「拳を作るなら、まずは土を知れ。合理的だろ?」


……とんでもねぇ爺さんに、弟子入りしちまった。


でも今の俺には、こういう“非常識”が必要なのかもしれない。


――技を得るために。


次の神喰い戦、その先に進むために。

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