第17話 『謎の遺跡』
「エリカさん、目的の場所は地下にあるんだ。今からこの梯子を降りるから、気をつけて着いてきてくれるかな。」
仙道さんの言葉に、私は静かに頷き、その漆黒の穴の底を覗き込んだ。彼の持つ灯りが心許なく揺れ、暗がりの奥を照らし出す。
その光に導かれるように視線を辿れば、思ったよりも梯子は長くはないことが分かった。せいぜい2メートルほど、いや、もしかしたらもう少し高いかもしれない。まるで、見慣れた部屋の天井をそのまま地下に持ってきたかのような高さだ。
一瞥した限りでは、畳六畳ほどの空間が広がっているように見えた。壁も床も、人工的なコンクリートの平滑さとは違い、大理石のように綺麗に磨かれており、上から照らす懐中電灯ノ明かりを反射していた。
しかし、それ以外は拍子抜けするほど「普通」だった。てっきり、底の見えない暗闇へ延々と続く梯子を降りるものだとばかり思い込んでいた私は、思わず胸を撫で下ろした。
先に仙道さんが身軽に梯子を降り、私たちを迎え入れるように地下で待った。
続いて私がゆっくりと足を踏み下ろし、その後を追うように桃花と小夜も地下へと降りてくる。
全員が足元に降り立ったことを確認すると、仙道さんは振り返り、壁にまるでぶら下がるように設置された小さなスイッチを入れた。
カチリ、と静かな音が響いた次の瞬間、足元の床からぼんやりとした明かりが灯り始めた。
その光は、まるで水面に広がる波紋のように、さらに奥へと滑らかに伸びていく。それは私たちを、未知の地下へと誘う細い道標だった。
どうやら行き先はこの下のようだ。
仙道さんを先頭に私達は一歩、また一歩と階段を降りていく。
階段やその壁も見事に磨かれて美しい光沢を放ち、壁は巨大な石をレンガのように組み上げているのか、石と石の間はカミソリどころか薄い紙も入るかわからない程綺麗に組まれている
人工物であることは間違いないが、何でこんな見事な物が地下にあるのだろうか?
私はたまらず仙道さんに尋ねた。
「あの……仙道さん。ここって、一体……何なんですか?」
思わず口に出た問いに、仙道さんは微動だにせず、静かに唇を開いた。
「エリカさんは『日本のピラミッド』って聞いたことあるかな?」
「え?ピラミッドって、あのエジプトの三角形のやつですよね?……日本に? まさか、冗談ですよね。私をからかってるの?」
思わず笑ってしまった。だってそんなもの、あるはずがない。地理も歴史もあまり得意じゃないけれど、それくらいの常識は知っている。あまりにも突拍子のない話に、私は少しだけムッとして言い返した。
すると、後ろにいた桃花が「ふふっ」と小さく吹き出した。そんな桃花の笑い声に私は振り向き一瞬足を止めた。
「え、えぇ? 本当にあるの? 私、聞いたこともないんだけど?」
戸惑いながらも、改めて仙道さんに問い直すと、彼は真剣な眼差しで口を開いた。
「まぁね。オカルトや郷土史に興味がある人じゃないと、あまり知られていない話だから。エリカさんが知らなくても不思議じゃないよ。」
彼はそう前置きをして、語り始めた。
「昔……明治から昭和の初めにかけて、『
「へぇ……そんな人がいたんですね」
私は初めて耳にする名前に興味をそそられ、思わず声を漏らした。
けれど仙道さんは、すぐに続けた。
「でもね——それは『間違い』だったんだ」
「間違い……?」
「うん。酒井が見たのはほんの入口にすぎない。本当のピラミッドは、今……私達たちが立っているこの場所さ」
仙道さんの言葉に、私は思わず息を呑んだ。
「……ここが?」
「そう。見た目はただの山にしか見えないけど、この内側にはこの通り、精緻な構造が隠されている。磨き上げられた壁、人工的な石段、明らかに自然の力では作れない幾何学的な空間。誰が、何のために造ったのかは未だ不明だ。でも確かにここは、『造られたもの』だよ。太古の人類が遺した、謎の超古代遺跡……本物の日本のピラミッドなんだ」
言葉を失った私は、再び周囲を見渡した。
光を柔らかく反射する鏡のような石壁、足元に続く石段の滑らかな勾配……、ここが単なる自然の洞窟や岩場だなんて、到底思えない。
まさか、本当に……こんな場所が、日本に存在するなんて。
背筋に、ひやりとした冷たいものが走った。
仙道さんはそんな私の困惑を気にも留めず、楽しそうに続けた。
「もう少し降りて行くと広い空間に出るんだけど、そこに私達が作った『秘密基地』があるんだ」
仙道さんの無邪気で子供っぽい言い方に、後ろにいた桃花が「秘密基地……確かにそうかも!」と、またクスクスと笑い声を漏らした。二人の様子に、私はますます疑念を抱く。
「何それ?」
問いかける私に、仙道さんは軽く振り向きにっこりと笑うだけだった。
「楽しみにしててよ。きっと驚くから」
それ以上は何も教えてくれる気はないらしく、ただ「さあ行こう」とばかりに、彼は先に立って山の斜面を降り始めた。私はまだ半信半疑のまま、仙道さんの後ろ姿を見つめていた。
しばらく石段を降りて行くと、明かりが途切れている場所、まるで世界の境界線のような一帯が見えてきた。
そこから先は、ただ純粋な暗闇が全てを飲み込んでおり、漆黒の帳の奥に何が潜んでいるのか、ここからは一切窺い知ることができない。
得体の知れない不安に苛まれながらも、私はその闇の入り口へと、一歩ずつ歩みを進めた。
入り口で待ち受けていたのは、常識を覆す光景だった。そこには、ただ一本の鳥居があるのではない。入り口から溢れ出す柔らかな光は、幾重にも連なる鳥居が織りなすトンネルだったのだ。
朱色の鳥居が無限に続き、まるで別の世界へと誘う道標のように、神秘的な道を紡ぎ出している。
仙道さんは「ちょっと待ってて」と私に告げると、ポケットから取り出した懐中電灯を点け、躊躇なくその暗闇へと足を踏み入れた。彼の姿が光のトンネルの奥へと吸い込まれていく。
すると……。
まるで魔法のように、足元から光が灯った。仙道さんが通った後に、一つ、また一つと、地面に埋め込まれたライトが順番に点灯していく。
その光は、鳥居のトンネル全体を照らし出し、先ほどは全く見えなかった遥か遠くまで、荘厳な光の道が出現したのだ。
天井はどこまでも高く、見上げても漆黒の闇に溶け込んでいて、その広大さを測り知ることはできない。足元は先ほどまで歩いていた大理石のような滑らかなものとは異なり、古びた、石畳が道を作っている。
幻想的でありながら、どこか懐かしい和の趣を感じさせるその雰囲気に、私は思わず「凄い……!」と、感嘆の呟きを漏らしていた。
私の反応に満足したのか、仙道さんは口元に笑みを浮かべ、「ではこちらへ!」と、まるで高貴な屋敷へと招き入れる執事のような口調で私を促した。
鳥居のトンネルは、緩やかに弧を描き、その先にある、ひときわ大きな光へと私を導いていく。
(何だろう?)
私は手のひらでまぶしい光を遮りながら、トンネルの先に広がるものを確認しようと目を細めた。そして、その光景がはっきりと見えた瞬間、私の心臓は大きく跳ねた。
「神社……?」
一瞬目にしたそれは、紛れもなく神社だった。しかも、外にあったあの古びた小さな社とは比べ物にならないほど、壮麗で立派な神社だ。
そして、私は光のトンネルを抜けた。
目の前に広がっていたのは、想像を絶する広大な空間だった。学校の校庭ほどもあるかのような空間は、天井が全く見えず、まるで夜空の下にいるかのように真っ暗だ。その広大な闇の中に、煌々と光を放つ荘厳な神社が鎮座していた。
派手な装飾は一切なく、瓦も用いられず、純粋に木だけで造られたシンプルな構造だ。
しかし、その木材は、まるで白いペンキを塗ったかのように純白で、ライトの光を受けて、まるで白銀のように輝いている。
その神々しい姿は、この世のものとは思えないほどの美しさを放っていた。
祭壇の入り口には、太く立派なしめ縄が結ばれており、この社の格式がいかに高いかを無言で物語っているようだった。
私がその荘厳な姿に見惚れていると、仙道さんが静かに、しかしはっきりと、私に告げた。
「ようこそ、『裏伊勢』に!」
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