修学旅行④班

夕飯まで食べてホテルに戻らないといけない判別行動。

結局ギリギリになってしまった私たちは、コンビニで夕飯を買って戻った。


「はーい、野球部班お帰り〜」

班員を確認される。

「変わりはなかったですか嶺先生」

「はい、概ね予定通りでした」

サラッと嘘を述べた。

まぁ嘘でもないか。行動的には大体予定通りではあった。


「ほら飯食えよ」

「「「はーい」」」

ロビーの椅子に座ろうとしたところ、もう部屋に行けと言われてしまった。

お風呂の順番が始まっているらしい。


「かな、20時にまた集合だから」

監督がコソッと言い、私を涼太の方に押す。

「行くぞ」

「部屋の前まで送っちゃるから」

後藤が私の頭にぽんと手を置き、涼太は私の手を取り歩き出した。

旅館の中は大騒ぎ。

あちこちからキャッキャとはしゃぐ声が。

楽しい雰囲気の中、私は一気に気分が落ち込んだ。

私の部屋がある3階に着くと、そこには教師が一人見張るように立っていた。

「あ、伊東先生」

体育の伊東先生だ。

「お、やっと戻ってきたな野球部軍団」

「こいつの部屋どこっすか?」

「ダメダメ、男子禁制」

「金もらってもここの女子に何かする気ないけど」

「そう言う問題じゃねぇの」

男子は排除されるらしい。

「かな、大丈夫」

「さっさと寝ちまえ」

「うん」

階段の前でみんなと別れ、私は部屋へ。

扉の前で深呼吸。


「栗原」


見張り番の伊東先生が来た。


「行ける?」

「え?」


コンコン


「開けるぞ〜」

ガチャ


「あ、伊東先生だ」

「なになに〜」

「遅れてたメンバーお連れしました」


伊東先生がドアの前から少しずれ、私を中に押す。


「栗原さんお帰り〜」

「遅かったね〜」

「手厚くもてなしてやってくれ」

アハハハハ

「あ、お前ら美味そうなもん食ってるな」

伊東先生が部屋を覗く。

「仕方ないな、一個あげるよ」

「そんなそんな催促したみたいで」

「したんじゃないんですか?」

アハハハハ


「お前ら風呂まだ?」

「今からでーす」

「ちょうどよかったな栗原」

「あ…でも私」

「背中でも流し合え」

「流し合わないですよ〜」

「修学旅行といえば背中流し合いだろ」

「はず〜」

どうしよう、これから練習だから。


「あそっか、野球部は練習あるんだったな」


「はい」


「えー!こんな時まで?!」

「すごいね野球部」

「栗原は風呂最後、教師枠になってたっけ」

伊東先生が手に持っていた冊子を見る。



「栗原さん、私たち待ってるよ」

「嫌じゃんね、一人で先生たちとなんて」


「え、でも…」


「オッケー、んじゃそう伝えとくな。

 3人で仲良く親睦深めなさい」


伊東先生はそう言って戻って行った。


「とりあえず入りなよ」

「あ、お菓子やるの忘れたね」


二人が中に入れてくれる。


「あんま話したことなかったよね」

「野球部って忙しそうだもんね」

「でもさ、仲良さそうで楽しそう」

「バレー部は?」

「派閥あるからうち」

「え!こわ!」

「野球部ってそういうのないの?」

「たぶんないと思う」

なんか普通だな。

「栗原さんこれ食べてみて〜」

「めちゃうまだった」

「空港で適当に買ったんだけど

 これが一番美味いの」

「ありがとう」

あーー私なんかお菓子持ってたっけ。

リュックをがさごそ。

あ、そうだった

空港でおやつ色々買ってもらって分けたんだった。


「これもよかったらどうぞ」


「「え?」」


私が出したおやつを見て二人が笑う。


「なんで地元」アハハハハ

「しかもちゃんとお土産のやつ」アハハハハ

なんかウケた。



大丈夫だよね。

私、ちゃんとできてるよね?

怖がっちゃいけない。

ちはちゃんも言ってた。

いい人の方が多いって。


「あーーなんか栗原さんイメージ違った」

「うんうん、もっとツンとしてるかと思った」


「普通の子だった」


私が緊張し過ぎているのかもしれない。


エヘヘ


「食べて食べて」

「ありがと」

「今日どこ行って来たの?」

「札幌ドーム行ってラーメン食べて」

「野球部ラーメン食べそう」

アハハハ

「そのあとは北大で練習して

 あ、これいらない?

 なんか北大のボールペンいっぱいくれたの」

「ちょ待っ!」

「え、修学旅行の班行動で練習って何〜」

アハハハハハ

「や、だって北大といえば大学野球界ではすごくて」

「さすがだね野球部」


私、ちゃんとやれてる?


お菓子を食べながらただのお喋り。


緊張してしまうけど、楽しくなってきた。



コンコン


「誰か来た」

「はーい」

あ、そっか。

こういう時って皆んな部屋を行ったり来たりするよね。仲良い人のところとか。

やっと慣れてきたこの状況に、知らない誰かが何人も来たら…

それを一瞬で想像して、緊張は振り出しに戻った。


ガチャ


「お邪魔〜」


「あ、嶺先生だ」


監督?


「うわ、菓子の量すげぇな」

「食べますか?お裾分けしますよ」

「甘いのはいらん」

「しょっぱいのありますよ」


入り口まで入ってきた監督が、私に少し微笑む。


「カニ煎餅って」

「カニなのに不思議とえびせんの味します」

「なんだそりゃ」

なんかカニ煎餅もらってる。


「お楽しみのところあれですが

 うちのマネージャーお借りします」


「あ、練習ですね」

「野球部たいへーん」

「バレー部はやんねぇの?

 バドミントンは筋トレしてたぞ」


パーカーを羽織り支度をする。


「栗原さんお風呂待ってるね〜」

「ごゆっくり〜」

「うん、ありがとう」


監督が迎えにきてくれて、私は一旦解放された。

あんなによくしてくれるのに、解放されたという気分になってしまう。

そういうところが駄目なのかな。

なんか自己嫌悪。


「大丈夫か?」

「うん」


そっか。

監督が来てくれなかったら、私きっと出るタイミングを図れず困ったと思う。


「監督、ありがと」


「一緒に菓子食ってた?」

「いい人たちみたい」

「ならよかった」




旅館を出てすぐ裏の方に大きな公園はあった。

といっても、野球やサッカーが出来るような広さではなく、ゲートボールが2面で出来るような感じ。

フェンスも低い。


「キャッチボール、素振り、走り込み」

「それしかないか。

 どう見てもフライあげたらパリーンのやつだ」

「こらカツオ!!みたいな」

「ばっかもーーん」

「パリーンは波平じゃなくて雷さんだろ?」


すっかり日の落ちた公園で円になって集合する人たち。


「軽く走ってストレッチな」

「「「はい!」」」

いつも通りのお返事。

「涼太とみきはピッチング?」

「丘がない」

「あるわけないか」

「まぁ今日は北大で投げれたし」

「てか今日は北大でやったからよくね?」

「なおくんと圭吾してない」

「「てへっ」」


ガサガサッッ


「キツネ?!」

「ルールルルルルーーー」

「猫だろ」

「猫だな」


「かな、キツネは触っちゃいけないらしいぞ」

「え、なんで?」

「ヤバい菌を持ってるらしい」

「マジ…?」

なおくんが怖い顔で頷く。

「しかもコンコンなんて可愛く鳴かない」

「そうなの?!」

なかなか始まらない練習。

「しっぽモフモフしたいな〜」

「絶対無理だからあゆのしっぽでも買ってろ」

「ほしい!」

「空港で見たぞ、尻尾のキーホルダー」

「帰りに買う!」

そしてなぜかみんなで監督を見る。

ジーーーー

「買いません、破産します」


そんなこんなで練習という練習はせず旅館に帰った。

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