春季大会③ずれ始める歯車
「あ、おはよ〜
昨日は盛り上がったね〜」
昨日の夜のUNO大会は、それはそれは盛り上がった。
ほぼ全員ロビーにいたんじゃないかと思うほどの参加率。
「かなちゃんこっちどうぞ」
町田くんが呼ぶ。
その向こうに私を呼ぼうとしたであろう先生が背景に溶けた。
「なんか食欲ない…おかずあげるよ」
「え、食べた方がいいよ」
「うぇーーーい」ドスッ
私の横に座ったのは隆二。
「世話のやけるやつだ」
「なんでよ」
そして私のウインナーを取る。
「ほら、監督がいただきますやれって言ってるぞ」
大人席から顎がしゃくられる。
私が立ち上がると、青藍はみんなスタンバイ。
昨日の晩に学んだらしい大道が同じようにスタンバイした。
「合掌!!」
「「「はいっっつ!!!」」」
パチンッッッ!!!
「いただきます!」
「「「「しゃーーっす!」」」」
私たちは今日の第一試合。
4試合日程の朝は早いから、昨日の開会式後そのまま宿泊になった。
大道も同じく第一試合。
それは別会場でのこと。
組み合わせが偶然同じ日だったから、こうやって親睦会みたいになった。
そして一回戦のお相手はこの人。
「かーなちゅわーーーん!」
スルーー
「おはようございます!よろしくお願いします!」
「来た来た〜」
「朝から癒されるね〜!」
事務所にご挨拶に寄ると、監督は私の隣で置物と化する。
「うちのホームで野球ができると思うなよ」エッヘン
「はいはい」
「九州大会ってゴールドあったっけ」
「今回だけ特別に3回コールド」
「おいっ!!」
さすがに3回コールドってほどはないけど
「監督さんがいると普通に強い」
「そりゃ九州大会出るくらいだからな」
「なんだったのこの前の練習試合は」
だけどベンチの雰囲気はいいように見えた。
たっちゅんが選手を盛り上げる。
顧問かコーチかなんか知らないけど、そういうポジションじゃなくて、選手よりも誰よりもムードメーカーだと思った。
そして別会場だった大道はというと
「え、じゃあわざわざ大道とするのに来るの?」
「イエス」
楽々一回戦を勝ち上がった大道は私たちの二回戦の相手。
大道と試合をするのにわざわざバスで高速走ってここまで来なきゃいけないという無駄。
「市営球場でいいじゃん」
「それな」
「なんならじゃんけんでよくない?」
「それな」
バスは学校へ帰っていく。
時間次第で授業に出なきゃいけないという拷問なんだけど
「んー…この時間ならもういっか」
「「「「やったーーー!」」」」
ということでバスはグラウンドへ。
「あ、かな」
「監督これ持ってよ〜」
「大貴からメール」
荷物を下ろしている手を止め、監督が画面を私に向ける。
「お前携帯は?」
メールの内容は
『かなちゃんがメール見ない。伝えて。
練習おわったらうちに来てって。
母さんがお菓子大量に買ったらしい』
会える。
「ニヤニヤすんな」
テヘヘ
「てか今朝まで普通に会ってただろ」
そう言われればそうなんだけど。
たぶん違うの。
あれは私の好きな先生じゃない。
ということで、早めに切り上げた練習後、私は先生の家へ向かった。
月島のバス停で降りるのはもう慣れた。
定期券と一緒に150円用意してバスを降りる。
そしてついつい寄ってしまう角のファミマ。
夕飯は先生が買ってくるだろうし、おやつはあるし、特に用事はない。
「らっしゃっせ〜」
入ってすぐの雑誌を物色。
そして無印の棚を物色。
↑ねぇ昔は無印ってファミマだったよね?
マーカー可愛いな。
あ、ふでばこもオシャレ〜
でも今のキティーちゃん気に入ってるしな。
自動ドアの開く音が鳴っても意識はこっちに集中していたから気にしてなかった。
「ん?」
聞き覚えのある声にドアを見る。
「やっぱりかなちゃんだ!」
「みさき先生!」
「やだ〜またここで会ったね〜」
「もしかして言ってた好きな人ですか?」
「まぁ…」
「会えたんですね!」
「かなちゃんは彼氏?」
「はい!」
「そうだ試合お疲れ様
勝ったって聞いたよ〜」
「当たり前です!」
「当たり前か〜確かに」アハハ
「次は明後日です」
「じゃあまたかなちゃんいないのか」
「休みます」
「野球部って平日とか関係ないよね」
「そうなんです」
ふと、みさき先生が私の前髪を指で掬う。
「前髪長いの似合う」
そう言ってスルスルと編んだ。
みさき先生からふわっといい匂いがする。
「ここ押さえてて」
言われた所に指を置いて押さえると、みさき先生はポーチからピンを出し、そこを留めてくれた。
「こんなのも可愛くない?」
編み込みの前髪。
ただ耳に掛かるだけよりも可愛くなった。
「すごーい」
「今度教えてあげるね
ヘアアレンジ動画とか好きなの」
女子力の違いを痛感。
たまに見る動画は、スイングスピードの出し方とか変化球の絶妙な曲がり方とか。
先生、可愛いって言ってくれるかな。
みさき先生とそこで別れ、私は先生のマンションへ向かった。
車はもう帰って来ていた。
先生が先に帰ってるのは初めてのパターン。
自分で鍵は開けれるのにインターホンを押した。
ピンポーーンピンポーーンピンポーーン
ガチャ
『…あ、なんだかなちゃんか』
自動ドアが開いた。
エレベーターで6階まで。
なんか先生元気なかった?ような気がしたけど
「先生!」
「おかえりかなちゃん」
気のせいだった。
いつも通り。
先生は外で待っていてくれた。
「何見てたの?」
見晴らしのいい6階。エレベーターの前。
「あれ、大道の生徒だなって」
視線の先、セーラーの女の子が学ランの男の子とくっついてる。
「黒スカーフだね」
「学ランもうちっぽいよね」
「わかんない」
「かなちゃんこれ可愛いね」
前髪をツンツンとして、そのまま髪を撫でた。
「入ろっか」
「うん」
先生が手を洗ってくれてうがいをして、それからカメを抱っこ。
「カメちゃんただいま〜」
「夕方干しといたよ」
「いい匂いする」
「かなちゃんご飯食べよう」
「うん!」
「お弁当でごめんね」
「わ、とんかつだ〜」
あーー幸せ。
昨日も一緒にご飯食べたはずなのに、久々な気がする。
「あ、そうだ、お母さんがくれたお菓子って?」
「あれ」
視線の先。
スーパーの袋が1つと紙袋が2つ。
「全部?」
「友達と温泉旅行行ったり
近所の人と日帰りバス行ったりしてた」
「すごーい」
「かなちゃん携帯鳴ってない?」
確かに。微かに聞こえるバイブ音はソファーに置きっぱなしの私のジャージから。
「あ、メールだった」
差出人はみさき先生。
『前髪どうだった?彼氏メロメロでしょ
今度お茶でもしよ〜
好きな人の話聞いてほしいし
かなちゃんの彼氏の話も聞きたい!』
みさき先生と恋バナ?!
楽しそう〜!
どうなったんだろ、好きな人。
会えたのかな。
『したいです!
イケメン彼氏の話いっぱいあります!』送信
『楽しみにしてる!』
あーー嬉しい!
ほんともうお友達だな。
「かなちゃん大丈夫だった?」
「うん!友達からだった」
「そっか、よかったね」
食後はその中から山口外郎を選び、先生がお茶を淹れてくれた。
「かなちゃん美味しい?」
先生が少しだけ振り向く。
でもまたパソコンの画面に戻る。
私はソファーで外郎を堪能し、先生はテーブルで仕事を始めた。
背中向きか〜…
最後に先生にくっついたのっていつだっけ。
もっとくっつきたい。
足りない。
外郎は一旦置いて先生の背中にピッタンコ。
「かなちゃん?どうかした?」
「くっつきたい
先生ギュッてして?」
パソコンから手を離しこっちを向くと
「ちょっとだけね」
先生の腕がギュッと包んでくれた。
エヘヘ
「ん?」
「嬉しい」
「僕も」
「チューは?」
「……」
「ねぇ」
「……」
「先生」キラキラ
「ま…」
「ま?」
「また今度ね…」
なんか離されてしまった。
もっとくっついていたかった。
離さないでほしいのに。
もうちょっとだけと
催促するのは躊躇われた。
私だけ?
キスしたいと思ってるのも、くっ付きたいと思っているのも。
先生は思わないのかな。
恋人同士なんだよね?
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