春季大会①ご対面

ということで、九州大会の始まる翌週末。



「おはようございます!よろしくお願いします!」



監督に連れられご挨拶に伺った大会事務所。

「お、有名人〜」

「達川先生が待ち焦がれてたよ」

「スタンドに追いやったから安心して」

アハハハハ


達川先生の話の通り、メイン会場はとても歴史にまみれてそうな雰囲気ある古さだった。

わりと最新なうちの試合球場とはたぶん時代が違う。


「これ足りるかな

 皆さんでおやつにしてください」

地元のお菓子、タルトの詰め合わせ。

この前の沖縄研修で多少は顔見知りになったからお土産を。

しなきゃいけないわけじゃないけど、大人の付き合いらしい。

「わざわざどうもね〜」

「足りなかったら達川先生にあげないから

 大丈夫大丈夫〜」

アハハ

この前までこういうの監督がやってたはずなのに、自然と私に丸投げ。


挨拶を済ませ、開会式のため待機しているみんなの元へ。


「かーーなちゅわーーーーーん!!」


「いた」

「来た」


みんなが声の方を向く。


「新見さん!」

近くにいた新見さんを差し出すと、達川先生は走ってきたまま新見さんに抱きついた。

「誰ーー!」ヒェェェ!

「誰だねちみは!」

この感じお約束なの?

「なんか似てるな」

「でしょ?たぶん生き別れた兄弟」

「生き別れてない兄弟が家におるっちゅうねん!」


「てかたっちゅん仕事中でしょ?」

「たっちゅんと呼んでくれるのか!」

「絶対今一番忙しい時間だろ、行けよ」

「それな!じゃあおいら行くから!」

「口の聞き方な」


たっちゅんはすぐ戻って行った。

秋の大会で私たちがそうだったように、きちっとスーツを着ている達川先生。

一見良さげに見える。

やっぱ初対面は今日でよかったかもしれない。


「かな上にいるだろ?」

「うん」

「千春は?」

「さっきもうすぐバスセンターにつくってメール」

「どうやって会わすんだよ」

「あとでいきなり連れてってみる」

ちはちゃんが来ることはたっちゅんには内緒だった。

クソ忙しい九州大会の会場業務に急にぶっこまれる面会。

「俺もそこにいたい」


「かなちゃん」


その声に振り向くと


「あ、先生」


「俺もいます」

「早かったな」

「集合時間間違った」

「そうなの?」


開会式を待つ球場入り口に大道が到着した。


「先生たっちゅん会った?」

「たっちゅん…?」

「達川先生」

「なにたっちゅんって…」


あ、先生知らないのか。言ってなかったかも。

監督も言ってないのかも。


「あのね」


「ん?あれ千春ちゃん?」

「え?」

「おぉ迷わず来たか」

球場の駐車場の方から歩いてくるちはちゃん。

駐車場の向こうに、走り行く路線バスが見えた。


「応援?」


「たっちゅんに会いに来たの」


「……は?」



「ちはちゃん!」


「かな!」




大きく手を振りかけてくるちはちゃんを見ながら、めが点な先生と、今日試合ないのになんであいつ来た?みたいな選手たち。



「やばーい緊張する」

「「しなくていいしなくていい」」

「え…えホントに?」

予想しなかった展開に戸惑う先生。

「ちょっと前にね、あれいつだっけ」

って説明を始めたところ


「入場行進順に並んでくださーーい

 監督部長顧問の先生方はこちらにーー」


始まるから断念。


「ちはちゃん上行こう」

「会っちゃう?!」

「たぶん合わない。

 たっちゅん事務所の方に行ったから」


と思ったのに



「あ」



「あぁ!かなちゃんちょうどよかった!

 これ正面ゲートに貼ってきて!

 ガムテはチケットブースにあるから!」

「はぁ?嫌だし。当番じゃないし」

「僕っち事務所に呼ばれてるからよろ!

 あそうだついでに外野の規制戦外しといて!

 ロープ取ればいいから!

 いやぁ〜青藍と大道が来たら入る入る〜」


今私たちが上がってきた階段を下りようとする達川先生。



「あ、たっちゅん

 こちらちはちゃん」



「「え?」」



2人の空気が止まる。

そして見合う。



そして顔が赤く燃える。



「はいはいこれね、柵に貼ればいい?」

たっちゅんの手から貼り紙を取る。

「規制線は事務所に置いとくね」



会わせてよかったと思った。

なんとなく紹介したけど、こんなちはちゃんも言葉を失う達川先生も見たことない。


上手くいくかもしれないな。



「あ…あのえっと…!」



「たーーーちかわぁぁぁぁ!!

 すぐ戻れ言ったろ!」


階下から怒号が上ってきた。


「やば!」


色んなことに動揺しまくり慌てるたっちゅん。



「たっちゅんどうするの?」


「送るから待ってて!」



たっちゅんは事務所に戻って行った。




「ちはちゃん」


「やばーーーー」



両手で顔を覆ってしゃがみこんだちはちゃん。



「行こう、開会式始まっちゃう」


そのまま3回頷いて、一緒にスタンドへ行った。

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