第2話
❷
最初はママからのお願いだった。
高校一年生の夏休みに家族旅行をしていた時だった。ホテルのラウンジでママとパパ、私でアフタヌーンティーを楽しんでいて、凄く楽しかった。ママもパパもいつも忙しいから、家族旅行は私が一年で一番楽しみにしている時間で、ママもパパもこの休暇を楽しみにしていてくれた。
ママがこんな顔をするのは珍しい。私は途轍もなく大切なことなんだと身構えた。
「今度ね、立花さんの息子さんが凪ちゃんと同じ学校にくるの」
「立花さん……」
私は記憶を呼び起こす。
「お医者さん!」
私は思い出して、思わず笑顔になった。立花さんは私の健康診断を担当してくれているお医者さんだった。正しくはお医者さんが専門ではないらしいけど、似たようなものね、とママは微笑んでいた。
立花さんを私は大好きだった。他の人は私のことを『立花杏香のクローン』と陰で呼ぶけど、立花さんは違った。初めましての時も目線を合わせてくれて、「凪咲ちゃんって呼んでもいいかな?」と聞いてくれた。仲良くしてくれて、自分にもクローンの息子がいるんだと話してくれた。
いつか会いたいとずっと思っていたけど、立花さんは頑なに私に息子さんを会わせてくれなかった。理由を聞いても、立花さんは困ったように笑うだけだった。
何か大きな理由があるんだな、と子供心に理解した私はそれ以上の詮索はしなかった。
それから、暫くして立花さんは私のお医者さんを辞めた。私はそのことが悲しくて泣いてしまった。少し大きくなった時に、立花さんが第一線を退いたことを人伝に聞いた。なんでも、息子さんとの時間を大切にしたいから、とのことだった。
まだお医者さんを辞めていないなら、またいつか会えるかも。そんなことも考えていた。
なんで、こんな大切なことを忘れていたんだろう。私は不思議に思いながら、思い出した先生の記憶で心が温まる気がした。
だけど、変だ。目の前のママは全く嬉しそうじゃない。ママもパパも立花さんと仲良しだったのに。
「その、こんなことは言いたくないけど……」
ママはとっても辛そうだった。その様子を察して、パパが口を開いた。
「立花さんの息子―俊くんは、その、難しい子なんだ」
「難しい子?」
私はパパの言葉を繰り返した。
「ああ。根っからの悪い子ではないと思う。立花さんの子だしね。でも、あのお宅は色々複雑なんだ。愛花さんも倒れてしまったし」
「愛花さん?」
「立花さんの配偶者だよ。元々体が弱くてね。俊くんが幼い時に……」
私はピンときた。立花さんが第一線を退いた理由だ。きっとお母さんがいなくなって寂しい思いをしている息子さんをこれ以上悲しませないように、時間を大切にしようと考えたのだろう。
「その、立花さんには良くしていただいたから、できることなら、凪ちゃんも仲良くして欲しいの」
ママは言葉を詰まらせながら、言葉を発した。
「でもね、ママとパパは当たり前だけど、凪ちゃんが一番大切で大好きなの。その、俊くんが……、その、良い子ではなかったら。その、ね。断る勇気も、必要になると思うの」
「凪ちゃんはとても優しい子だから、パパたちは心配なんだ」
2人は困った顔をしていた。
「大丈夫! 私、どんな子でも仲良くなれるから」
私には自信があった。皆、最初は私がクローンで怖がるけど、話したらすぐに仲良くしてくれる。しかも、息子さん、俊くんは私と同じクローンなんだから。分かり合えないはずがない。
その言葉にパパとママは更に困った顔をしていた。
学校は高橋健二くんの事件の話で持ちきりだった。高橋くんは10日間の自宅謹慎で、立花くんも学校を休んでいた。空いた席は、教室に空洞ができてしまったみたいで気持ち悪かった。
「絶対に立花のせいじゃん」
誰かが呟いた。それは波みたいに教室に広がってしまった。
「分かる。あいつ性格悪いもんな」
「そう? メガネも大概じゃん。あいつ、陰で女子の悪口ばっか言うし」
「え、マジで?」
「男子には言わないんだから、本当に最低」
「あ〜、言いそう、かも」
「メガネの親、去年の授業参観で感じ悪かったし。あの親にしてこの子あり、って感じ?」
「なんでお前ちょくちょくそういうの入れてくんの?」
「詩人だから?」
「流石に2日連続の詩人は飽きるわ!」
皆、口には出さないけど、高橋くんと立花くんがいないことに喜んでいた。
今日はずっとこの話題で持ちきりだろうな。私はそう思ってしまって、少し憂鬱だった。
嫌なことも過ぎればあっという間だ。
「凪咲ちゃん、行こ」
「香里奈ちゃん」
どこに? という言葉が出る前に、香里奈ちゃんは私を教室から連れ出した。香里奈ちゃんは身長が小さい女の子で、私と頭一つ分くらいの差があった。
「どこか、行きたいところがあるの?」
迷いなく進む香里奈ちゃんの背中に問いかける。
「うん」
香里奈ちゃんはいつも迷いがない。私は最近迷ってばかりで。
香里奈ちゃんのこういう真っ直ぐさが大好きだった。
「立野さんバイバイ!」
「凪咲、また明日!」
「あ、立野ちゃん。また遊ぼうね〜」
香里奈ちゃんに手を繋がれたまま、皆にさよならする。
下駄箱で靴に履き替える。
校門を出ようとした時、スマホをこちらに向けた人がいた。慣れた光景だった。皆、私の写真や動画を欲しがる。それに社会的価値があるから。
香里奈ちゃんは手を離した。私がびっくりしていると、真っ直ぐスマホを持った人のところに向かった。
「写真か動画、消してください」
香里奈ちゃんは元々ハスキーな声だけど、今はなんていうか、ドスが効いていた。
「……なんのことか」
惚けようとしている人の腕を香里奈ちゃんは掴む。その行動が予想外だったのか、相手は明らかに怯んでいた。
「香里奈ちゃん、危ないよ」
私は香里奈ちゃんの片方の手を引く。香里奈ちゃんはチワワみたいな身体を震わせていた。
「殴れるもんなら殴りなよ。障害事件で警察呼んでやる」
私には香里奈ちゃんの表情が見えない。でも、きっとこの震えも怯えてる訳じゃなくて、こう、なんて言うのかな、武者ぶるい、みたいなものなんだと思う。
「何してる!」
警備員の人がやってきた。逃げようとする人を、香里奈ちゃんは決して離さなかった。その人は逃げるために香里奈ちゃんを突き飛ばした。手を繋いでる私も一緒に転ぶことになる。
砂場で転ぶのなんて、小学生以来だ。きっと痛いだろうなと思った。
でも、私を助けようとしてくれた香里奈ちゃんが砂場で転ぶよりずっと良い。私がクッションになれるから、少しはマシになる筈だ。
ママとパパにはどう説明しよう。そのままを伝えたら、きっと傷付けてしまう。でも、怪我したらバレちゃうよね。
こんな時、立花くんなら何か良いアイデアが浮かんだかもしれないな。そんなことを考え
た。
気がつくと、私は空を見ていた。今日は快晴だった。思ったより痛くない。
「お、おお〜!」
感嘆の声が校庭に響いていた。皆が拍手している。その視線は私の下に向けられていた。
「あの……立野さん、矢島さん、もし大丈夫なら退いて」
弱々しい声が地面からした。
「高橋くん?」
「はい。高橋ですよ」
そう戯ける生徒会長の高橋くんは私と香里奈ちゃんの下敷きになっていた。
「あ! ごめん!」
香里奈ちゃんが急いで退いてくれた。高橋くんと香里奈ちゃんで私を挟んでいたので、香里奈ちゃんが立ち上がってくれないと私も退けないからだ。
私も立ち上がると高橋くんも起き上がった。
「ごめんなさい」
私も2人に謝る。また、捕まえてくれた警備員さんにも謝った。警備員さんはなんとも言えない顔をしていた。
「「なんで立野さん/凪咲ちゃんが謝るの?」」
高橋くんは困ったように、香里奈ちゃんは怒りながら言った。
ほぼ同時だった。2人が一瞬見つめ合う。
「高橋カッケーじゃん」
絶妙なタイミングで同じクラスの高畠くんが話しかけてくる。
「俺がかっこいいのはいつものことだろ?」
「は、言ってろ!」
高畠くんは高橋くんの前の座席にいる男の子で、高橋くんと仲良しだった。
高畠くんは高橋くんの背面についてしまった砂を落とす。
「あ!」
香里奈ちゃんは大きな声をあげたかと思うと、高畠くんがいない方の肩に近付いて、一緒に砂を落とし始めた。
その様子をギョッとした様子で高畠くんと高橋くんは見る。
「矢島さん」
高橋くんは困惑した声を出す。何かを察した高畠くんは口を開いた。
「矢島、俺の仕事無くなっちゃうから止めて」
「……? 2人でやった方が早いよ」
その返事が予想外だったのか、高畠くんは少し考えた後、高橋くんを見た。
「高橋、言っちゃうか」
高畠くんは意を決したような声を出した。
「俺、高橋と付き合ってるんだよね。だから嫌だ」
高畠くんは真摯な目をしていた。
「え……? ご、ごめん!」
香里奈ちゃんは兎みたいに飛び跳ねた。後ろから、男の子のふううううう! と言う野太い声と女の子の呆れ声、なぜか悲鳴も聞こえた。
「お前彼女いるだろ!」
高橋くんは大笑いしながら高畠くんの背中を叩いた。
「ばっ! ここでバラすなよ!」
高畠くんにとっても予想外の返答だったのか、本気で焦っていた。
「え?」
「お前にしか言ってなかったのに」
高畠くんは気まずそうに呟いた。
「はぁ、いいよ。もう。高橋、着替え、ないだろ? それで電車はキツいからさ。俺ジャージあるから貸すよ」
「今日部活で使わないのか?」
「汗で気持ち悪くなった時用に多く持ってきてんの! ほら、行くぞ」
高畠くんは高橋くんの肩を抱くと歩き始めた。
高畠くんたちが去った後、「高畠、彼女いたんだ……」という切ない声が聞こえてきた。
2人が去った後、周りの人たちが私たちを心配してくれた。たくさん、大丈夫だよ、とか、怖かったねって声をかけてくれた。保健室の先生が来てくれたけど、丁寧に断った。香里奈ちゃんも私も高橋くんのお陰で怪我をしていなかったからだ。
「香里奈ちゃん、行きたいところあるんだよね? ごめんね。遅くなっちゃって」
「ううん」
「行こう?」
私は香里奈ちゃんの手を繋いだ。香里奈ちゃんは下を向いていた。
「ごめん。本当は行きたいところなんてないの」
「え、そうなの?」
「うん」
香里奈ちゃんは小さな身体を更に小さくしていた。
「凪咲ちゃん、人の悪口とか嫌いだから。あの教室から遠ざけたかったの」
「え?」
「でも、結局、凪咲ちゃんに嫌な思いさせちゃった」
震える香里奈ちゃん。その震えは明らかにさっきとは違った。
「……私は嬉しかったよ。香里奈ちゃんが守ってくれて」
「ありがとう」
香里奈ちゃんは微妙な表情でお礼を言ってくれた。
「でも、せっかくだからお出かけしようよ。香里奈ちゃん、行きたいところある?」
「高橋にお礼言ってないから、お礼が言いたい」
「……? もう香里奈ちゃん謝ったよ?」
「謝罪とお礼は別物だから」
そう言う香里奈ちゃんがあまりに真剣だったから。
「うん。待とう」
私と香里奈ちゃんは高橋くんを待つことにした。
高橋くんが出てくるのに、そう時間は掛からなかった。
私たちを見つけた高橋くんは驚いていた。
「え、先生から事情聴取とかある感じ?」
高橋くんは面倒くさそうに苦笑しながら質問してきた。
「それは佐伯が動画撮ってたから大丈夫だよ」
佐伯さんは同じクラスの女の子だ。私のことを凪咲って呼んでくれる洋服とかが好きな子だ。
「佐伯ならありえるな」
高橋くんは朗らかに笑った。
「高橋、ありがとう。凪咲ちゃんを助けてくれて」
「……そこ、自分じゃないんだ?」
「ついでに私も」
「えっと、ありがとう。高橋くん」
私も香里奈ちゃんと同じように頭を下げる。
「お礼言ってくれてありがとう。佐伯と高畠にも言ってあげて」
「佐伯にはもう言った」
「佐伯さん、『私と凪咲の仲じゃん、気にしないでよ〜』って言ってくれたよ」
「さすがギャル佐伯」
高橋くんは無邪気に笑った。
「警備員呼んでくれたの高畠なんだよね。あいつ自分からそういうアピールしないから、明日でもお礼言ったげて」
「善は急げで今から」
もう歩き出そうとしてる香里奈ちゃんに高橋くんは声をかけた。
「今日は陸上部の練習だから。明日も会えるし」
「それもそうだね」
納得した香里奈ちゃんは私の隣に戻ってきた。
「これから凪咲ちゃんと遊ぶの。高橋もどうかな?」
「「え?」」
今度は私と高橋くんの声が揃う番だった。私たちは暫し見つめ合う。
「……それって、俺がお邪魔していいやつなの?」
「うん。だよね、凪咲ちゃん」
香里奈ちゃんは表情が乏しい子だ。私は今、香里奈ちゃんが何を考えているのか分からなかった。
「う、うん。高橋くんが良いなら……」
でも、私は高橋くんが嫌いじゃないし、香里奈ちゃんにも考えがあるだろうから、その提案に乗ることにした。
「え、と。じゃあ、どこ行こうか。カラオケ? ファミレス? 焼肉……は、ないか」
高橋くんは探り探り会話してきた。
「高橋、駄目だよ」
「え? あ、カフェ……とか?」
ダメ出しと思ったのか、高橋くんは瞬きしながら慎重に答えた。
「凪咲ちゃん、体育祭の時、たまたま近くに男子がいただけで彼氏かもってネットニュースになったんだよ」
「あっ」
高橋くんは明らかにしまった! という顔をした。私はその姿に苦笑する。一年生の時、体育祭でもそうだったし、部活に入ろうとした時も、顧問の先生に立野も他の生徒も守りきる自信がないから、と困った顔で言われたことを思い出した。
「ごめん。配慮がなくて」
高橋くんは眉を下げた。
「ううん。気を使わせてごめんね」
その言葉に、高橋くんは他の大人と同じような顔をした。
「だから、遊ぶのは凪咲ちゃんのお家だよ」
「は……?」
高橋くんは固まった。高橋くんはいつも軽快に話す人だったので、私は驚いてしまった。
「いや……、それは……もっと、駄目、じゃね?」
絞り出したような声だった。高橋くんはハキハキ話すイメージがあったから驚いた。
「なんで?」
「いや、なんでって、そりゃ」
「もう、親御さんに許可はとってあるよ」
香里奈ちゃんはスマホの画面を高橋くんに突き出した。
そこにはパパのメッセージがあった。
『お礼をさせてほしいから、ぜひどうぞ!』
「もしかして、俺、ピンチだったりする……?」
その画面を見た高橋くんは引き笑いをした。そういう表情をすると、年相応に見えた。
「凪咲ちゃんのお父さん、優しいよ。高橋くんが凪咲ちゃんを助けてくれたって言ったら、お家に来ていいって。たまたま今日在宅勤務だったんだって」
「それは矢島さんが女子だから。てか、助けたのは矢島さんだし……」
「……私が声かけなかったら、凪咲ちゃんも高橋も倒れなかったし。高橋が受け止めてくれなかったら、凪咲ちゃんが怪我してたよ」
香里奈ちゃんは淡々と語った。
「凪咲ちゃんパパ、タクシー呼んでくれたって」
「やぁやぁ、いらっしゃい!」
パパは笑顔で私たちを出迎えてくれた。
「君が……、高橋健司くん?」
パパが目を細めて高橋くんを見た。
「お嬢さんと同じクラスの高橋健司と申します。この度はお招き頂き、誠にありがとうございます」
高橋くんは綺麗なお辞儀をした。高橋くんの緊張した声は初めて聞いた。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「いえ。立野さんのお父様は高名な脚本家さんと聞き及んでおります。手土産も持たずにすみません」
「立派だね。……まぁ、君にお父様呼びされる謂れはないんだけど」
「パパ、そんな言い方は良くないよ」
私はパパを注意した。
「凪ちゃん、でも、凪ちゃんが男を家に招待したのは小学校以来だし」
パパは情けない声を出した。
「招待したのは香里奈ちゃんだよ」
「え、そうなの?」
「私、凪咲ちゃんが誘いたがってるなんて言いましたっけ?」
香里奈ちゃんは逆に問いかけた。
「なんだ! てっきり! 高橋くん、悪かったね!」
パパはビジネススマイルを止めると満面の笑みで高橋くんと握手していた。
「いつまでも玄関じゃ良くないね! さぁ、おいで!」
パパはケーキを3人分出すと、ソファに腰掛けた。
「いただきます」
「いただきます」
私と香里奈ちゃんがケーキを食べるのをパパと高橋くんは見ていた。
「高橋くん、もしかしてケーキ苦手だった?」
私が問いかけると、高橋くんは少し困っていた。
「……あ、いや。お父、立野さんの分が」
「ああ、俺は大丈夫だよ。大して好きじゃないし。来客用だからね」
紅茶を啜ったパパは高橋くんに微笑みかけた。
「……では、遠慮なく。いただきます」
高橋くんが食べ始めたのを確認してから、パパは話し始めた。
「さて、食べながら聞いて欲しいんだけど」
パパは真面目な声で言った。
「今日は凪咲を助けてくれてありがとう」
パパは2人に頭を下げた。
その様子が予想外だったのか、高橋くんは目を見開いた。
「え、いや、俺は別に」
高橋くんは困った様子だった。
「俺だけじゃ、てか、最初に不審者捕まえたのは矢島さんだし、捕まえたのは警備員だし、証拠押さえたのは佐伯で、警備員呼んだのは高畠だし」
高橋くんは言い訳するみたいに呟いた。
「立野さんにそんな風に言ってもらうことなんて」
「君がどう感じたかは、正直、俺はどうでもいいんだ。事実として、君は凪咲と香里奈ちゃんを助けてくれた。俺がお礼を言うのに、これ以上の理由が必要かな?」
パパは一呼吸おいた。
「あと、紗奈ちゃんにはもうお礼の連絡してる」
「え、佐伯とも連絡先交換してるんですか?」
「あ、もちろん、紗奈ちゃんから言われて交換したからね! 授業参観の時に。香里奈ちゃんも。変な想像しないでね! あ、高畠くんの連絡先教えてくれる?」
「パパさん、連絡簿見れば分かるのでは?」
香里奈ちゃんは素朴な疑問を口にした。
「今は家電ないお宅が多いし。それに、俺がお礼がしたいのは高畠くんの親御さんじゃなくて、高畠くんだよ。親御さんにも連絡するけどね」
パパはここで紅茶を飲んだ。
「確かにそうですね」
香里奈ちゃんも納得したのか同じく紅茶を飲んだ。
「あー、高畠に確認とってからでいいですか?」
「もちろん。今回のことがなくても、高畠くんとは話してみたかったし」
そうパパは笑った。パパと高畠くんに何か接点はあっただろうか。私は少し考えた。
「あ、高橋くん」
「は、はい」
まだ緊張が解けていない高橋くんは恐る恐る返事をした。
「制服、明日、先生から受け取って」
「はい?」
「制服、汚れてしまっただろ? クリーニングよりも買った方が速いからね。なんなら、朝はジャージで登校して、後で着替えてくれ」
「いや、流石にそれは申し訳ないです」
高橋くんは困った顔をしていた。今日は高橋くんの困り顔ばかり見ている気がする。
「嫌な言い方を敢えてさせてもらうとね。俺にとって、制服一式なんて大した金額じゃないんだ」
「はぁ」
「それよりずっと、凪咲を助けて貰った感謝が大きいんだ。ここは俺の顔を立ててはくれないかな?」
パパは笑った。
「……では、お言葉に甘えて」
それに高橋くんも苦笑で応えた。
「本当に、パパさんの交渉術には舌を巻きます」
「香里奈ちゃんは難しい言葉を良く使うよね。いいことだよ」
「折角、現役高校生が3人も揃ったんだから、青春してるか聞きたいな」
パパはヘラヘラ笑った。基本的にパパはヘラヘラ笑う人なので、これが通常だった。
「パパさん、お仕事は?」
「してるよ。取材を」
「お役に立てるほどの話は……」
高橋くんは目を泳がせていた。
「謙遜しなくていいよ。高橋くんの話は聞いてるから、凪咲と香里奈ちゃんから」
「え?」
「物凄くいい人だって。生徒会長も大変だろうに、成績も常に上位で、特待生で運動神経もいいって。俺はあの話が好きだな。代打のリレーのアンカーで逆転優勝した話」
「ああ、あれはアンカーが熱中症で。高畠、色んな競技に出さされてたんで」
「本当に、主人公みたいな子だね」
パパは微笑んだ。その微笑みに反比例するように、高橋くんの表情は曇っていった。
「あ、凪ちゃん、香里奈ちゃん」
「うん」
「はい」
「2階に頂いたお菓子があるんだ。取って来てくれないかな? 俺の部屋の机の上に置いてあるから」
「うん」
「了解です」
「あっ。俺も」
「君はここにいなさい」
パパは高橋くんを言葉で制した。
「ちょっと話があるから」
その言葉に、高橋くんは冷や汗をかいていた。
パパの仕事部屋は2階の真ん中にある。子どもの頃、勝手に入ろうとして、ママに怒られたけど、パパは笑ってくれた。随分、時期尚早な職場見学だね。そう言って抱っこしてくれたのを、良く覚えている。その後の言葉も。
「これかな?」
私は綺麗にラッピングされた箱を見つけた。
「全然、一人で大丈夫だったね」
私がそれを持つ。香里奈ちゃんの返事がなくて、私は香里奈ちゃんがいる方向を見た。
香里奈ちゃんは一枚の絵を見つめていた。
「香里奈ちゃん?」
香里奈ちゃんは吸い込まれるように、その絵の前に立つ。
その姿に、少し笑ってしまった。
私が初めてその絵を見た時と、全く同じ反応だったからだ。
私はもう少しその姿を見たくて、声をかけるのを止めた。
多分、油絵だと思う。芸術に疎いから、もしかしたら、違うかもしれないけど。
誰が教えてくれたか忘れてしまったけど、油絵は何重にも上から絵の具を重ねることで完成するらしい。絵のことを全く知らない私は、絵は一度描いたら終わりだと思っていたから、とても驚いたことを覚えている。
揺れる水面に、二輪の花が咲いている。
見たこともない花だ。
造花なのかもしれない。
上面が明るい水色なのに対して、下面はほの暗い。
ただ、綺麗なだけじゃなくて、なんだか、怖い。
それが、私がこの絵を初めて見た時の感想だった。
「素敵な絵だよね。パパが額縁を買った時に、見せて貰ったけど、私も見惚れちゃった」
「えっ、凪咲ちゃんが?」
「うん。絵の良し悪しなんて分からないのに、見惚れちゃって」
「そうなんだ」
「綺麗なのに、怖くて。でも、目が離せない」
私は額縁のガラスで覆われた絵をなぞった。
私はハッとした。
「ごめんね、一階に戻ろっか」
今日の出来事のせいなのか、随分とセンチメンタルなことをしてしまった。
こんなのは、私らしくない。
そう自分に言い聞かせて香里奈ちゃんの返事も聞かずに、戻ってしまった。
「遅れてごめんなさい」
私はパパにお菓子を渡した。
「もっと長くても良かったくらいだよ。男同士、水いらずでね」
「それは、親子水いらず、では?」
香里奈ちゃんは紅茶を啜りながら言う。
「凪ちゃんには水じゃなくてトロピカルジュースを出したい派だな、俺は」
「凪咲ちゃん、トロピカルジュースが好きなの?」
香里奈ちゃんは私を見た。
「う、うん。夏の旅行で飲んでから好きになったの」
「そっか、今度行こうね」
「うん」
私は香里奈ちゃんと約束ができたことが嬉しくて、微笑んだ。
「あ、そういえば」
私は香里奈ちゃんもパパの絵を気に入ったことを教えてあげることにした。
「香里奈ちゃんもあの絵、好きだって」
パパは少し首を傾げた。
「あの、パパの仕事部屋の」
「ああ! あの絵は本当に最高だよね!」
パパは満面の笑みを浮かべた。
「あの絵にふさわしい額縁を探すのは、本当に大変だったよ。なんせ、あの絵だからね」
「どんな絵なんですか?」
高橋くんも気になったのか、身を乗り出してきた。その表情が少し明るくて、私は安心した。
「多分、油絵だと思う。モネみたいな、綺麗な絵」
「それは綺麗だね。やっぱり脚本家さんとなると芸術まで詳しいんですね」
高橋くんは感嘆したように呟いた。
「う〜ん。俺は芸術自体にはさして興味はないよ」
「え?」
「ただあの絵が素晴らしかったから」
パパは目を細めた。
「好きだから、綺麗だから、欲しいと思ったから。興味が湧いたから」
パパはまるで自分に言うように呟いた。
「芸術って、そんな感じでいいんじゃないかな? 俺の作品を芸術って言ってくれる人がいるけど、俺は高尚な何かになって欲しいなんて思ったことはないよ。皆、自分の感性を喜ばせることを軽視し過ぎだよ。もっと自由でいい。理由なんて、後から見つければいいよ」
パパはここで息を吐いた。
「もちろん、人に迷惑はかけちゃ駄目だけどね」
「きっと、そうですね」
香里奈ちゃんが言った。
「ごめんね。どうしても、おじさんになると話が説教臭くなる。今度から気をつけるから」
それから、パパは私たちの話をずっと聞いていた。
宝物を見るみたいな優しい目で。
それからの日々は穏やかに過ぎていった。
次の日から、噂は高畠くんの彼女が誰かというので持ちきりになった。
高畠くんは頑なに口を閉ざしていた。
その話になる度に、高畠くんは高橋くんを軽く睨んでいた。
高橋くんはそれに苦笑で応えていた。
高畠くんにお礼を香里奈ちゃんと言いに言った後、逆にお礼を言われてしまった。パパがギフトを送ったんだそうだ。有名チェーン店のドリンクチケット。彼女さんとどうぞ! だって。そうパパが言ってたと笑う高畠くんは恥ずかしそうだけど、とても嬉しそうで、私は幸せな気持ちになった。
立花くんは以前に増して浮くようになった。
そして、以前に増して、私を避けるようになった。
相変わらず、ネットはあのお笑い芸人さんの件で燃えていた。
私の意志なんか、関係なく。
高橋龍二くんが登校した時、空気が少し変わった。
張り詰めた空気。私が嫌いな空気。
高橋龍二くんは震えていた。
対照的に立花くんはスマホを弄っている。
その静寂を消すように、高橋くんが教室に入ってきた。
高橋くんはイタズラっ子みたいに笑うと、高橋龍二くんに近づいた。
高橋龍二くんの体が大きく跳ねる。
「あ、高橋、おはよう!」
その言葉が予想外だったのか、高橋龍二くんは目を見開いていた。
「後ろの席がいないと、なんか変な感じでさ」
高橋くんは自席に座って、体を捻り、高橋龍二くんの机を軽く叩く。
「ほら」
高橋くんの声は、どこまでも優しい。
その声色に安心したのか、高橋龍二くんは着席する。
「てかさ、前から思ってたんだけど」
高橋くんは高橋龍二くんの顔を覗き込む。
「高橋って、眼鏡取ったら結構イケメンじゃね?」
「えっ」
高橋龍二くんは小さな声を挙げた。
「ほらほら! 取ってみて。俺見たい」
高橋くんは優しいけど、有無を言わさない雰囲気を纏っていた。
その様子に負けたのか、高橋龍二くんは眼鏡を取った。
「おお〜! いいじゃんいいじゃん!」
高橋くんはその場で拍手する。
「な! 高畠!」
前の席で様子を伺っていた高畠くんは若干引き攣った顔をしていた。
「あ〜、まぁまぁじゃね?」
「こら、高橋がイケメンだからって嫉妬すんなよ」
「はっ、どう見ても俺のがイケメンだし?」
「彼女いるんだからこれ以上モテなくていいだろ、お前は」
高橋くんは、高橋龍二くんの方を向く。
「てか、高橋って呼ぶの違和感あるから、龍二って呼んでいい?」
「え?」
「は?」
高橋龍二くんと高畠くんはほぼ同時に言った。
高橋龍二くんは困惑した声で、高畠くんは吐き捨てるような声だった。
「龍二って名前、かっこいいよな。やっぱり男ならドラゴンに憧れるじゃん? 俺、小学校の頃の裁縫道具、ドラゴンだったんだよね」
高橋くんはボゥっとしている高橋龍二くんを置き去りにして話続ける。高橋くんが人の反応を無視して話をするのは珍しかった。
「ね? ダメ? 俺に名前呼ばれたくない?」
「そっ、そん、な、ことは」
「ありがとう! 龍二、コンタクトにした方がいいよ。あ、髪とかもバッサリいってみたら? 前に高畠が教えてくれた美容院とかどう? きっと似合うよ。あ、なんなら放課後暇? どんなのが良いか選ぼうよ」
高橋龍二くんは困惑していた。だけど、嫌がっていないのは明白だった。
「あ、高畠もくるだろ?」
「なんで俺が」
「俺より高畠のがセンスが良いから」
その言葉に、高畠くんは苦笑した。
「……当たり前だろ。任しとけ。……確かに、龍二のお母さん美人だしな。ポテンシャルは高いんじゃね?」
皆、なんとなく高橋くんの意図を察していた。
高橋くんは、高橋龍二くんが気まずくないように、気を使っているんだ、と。
そして、高畠くんもそれに乗ったことにも。
「この偽善者が」
そう言ったのは、立花くんだった。
「あのさ、お前、本当に」
反応したのは高畠くんだった。
「んだよ。高橋のイヌが」
「俺が犬だったら、お前はなんなの? 可燃ゴミ?」
高畠くんがここまで怒る姿を初めて見た。高畠くんは高橋くんみたいに困ったように笑う、飄々としたイメージがあったからだと思う。
「高畠、いいから」
高橋くんは高畠くんの腕を掴む。
「さすが、生徒会長様は人ができてる」
「立花、保健室だろ? 先生には言っておくから」
「ふん」
立花くんはわざと高橋くんに肩をぶつけながら教室を去った。
私は思わず、その姿を追ってしまう。
「あっ、立野さん」
そんな高橋くんの声が耳に残った。
立花くんは保健室にいた。
保健室の先生はいない。
私は立花くんに近付いた。
「なんで来たの?」
「……心配だったから」
「へぇ」
立花くんは目を細めた。
「俺のことが心配なら、出てってくれる?」
立花くんの言葉に、温度はなかった。
拒絶だ、と思う。どこまでも深い溝が、私たちにはあった。
「凪咲ちゃん」
息を切らした香里奈ちゃんが私の腕を掴む。
「ああ、矢島。きちんとお姫様のことは見てなくちゃ」
「……見てても、酷い事するくせに」
「分かってんじゃん」
香里奈ちゃんはため息を吐きながら、私を教室に連れて行った。
少し経ってから、香里奈ちゃんのスマホが震えていた。香里奈ちゃんは慌ててスマホをサイレントマナーモードにしていた。
次の日、高橋龍二くんの風貌は大きく変わっていた。
眼鏡はコンタクトになっていたし、髪も短くなっていた。
「な、俺の言った通りだっただろ?」
その中で、高橋くんは満足気に笑っていた。
「ほぼプロデュースしたのは俺だけどな」
高畠くんは高橋くんを軽く突いて言った。
「どうせ龍二は髪の毛セットなんかしないだろうから。本当はもっと似合いそうなのあったんだけど」
「あ、ありがとう」
「いいよ。別に。コンタクトも慣れたらワンデイじゃないのにしたら?」
「な、なんで?」
「いや、なんでって。お前乱視だから、コンタクト高い……ああ、そうか、お前ん家、規格外の金持ちだったっけ」
高畠くんは思い出したように呟いた。
「ま、親と相談してよ」
「高畠に頼んだ俺の慧眼について話さない?」
「話さねぇよ!」
高畠くんは笑った。高畠くんがこんなに無邪気に笑うのも初めて見たかもしれなかった。
その姿を、立花くんは無表情で見ていた。
しかし、すぐにスマホの画面に目線を戻していた。
その顔が歪んだ。
一瞬、心底嫌そうに。
次の瞬間は、笑顔に歪んだ。
私は、なんとなく察した。
これから、とんでもないことが起きることを。
『です!』
いきなり、声が聞こえた。このクラスの人の声じゃない。どこかで聞いたことがある声だった。
「は? 何?」
佐伯さんが音の発生源を探す。
私だけは分かっていた。発生源は、間違いなく立花くんだ。
『私の彼女は世間一般にクローン人間と呼ばれている存在です。彼女は資産家の娘として何不自由なく生きてきたと誤解されています。しかしっ、しかし、彼女は、幼い時からっ』
涙声に変わる。その次に出てくる言葉に予想がついてしまった。
『戸籍上の父親に、強姦されていたんです』
そこからの記憶は曖昧だ。
確か、香里奈ちゃんが立花くんのスマホを取り上げて、ビンタをした。
立花くんは笑っていた。
楽しそうに。
香里奈ちゃんが二発目を打とうとしたのを、高橋くんと高畠くんが止めた。
「ここでは殴るな。バレないようにやれ」
香里奈ちゃんを引き剥がして、教室から出した高畠くんが小声で吐いた言葉が嫌に頭に残っていた。
私がぼうっと、しているところに、誰かが来た。
立花くんだ。
立花くんは無邪気に笑っていた。
立花くんは着席している私と目線を合わせるように、腰を屈めた。
その姿が、記憶の中の、お医者さんと重なった。
「これ、僕と立野も巻き込まれるね。クローンなんて所詮誰かの成り損ないなんだよ」
立花くんは首を少し傾げた。
「僕、やっと凪咲ちゃんと友達になれるかも。その時は、最初みたいに俊くんって呼んでいいよ?」
立野くんは鞄を片手に持つと、スマホを弄りながら、教室を出て行った。
立花くんと初めて会った日。
一年生の。
夏休み明けのあの日。
クラスの皆はワクワクしていた。季節外れの転校生なんて、期待しない方が変な気がする。
教室に入ってきたその男の子は、想像よりも背が低かった。
お医者さんは背が高い人だったから。でも、子どもだったから、正確な身長なんて分からないかと思った。
長い前髪のその子は、自己紹介をするようにと先生に言われ、名前だけを言った。
「何か、趣味とか。なんでもいいよ」
先生は優しい声色で言った。それに対して立花くんはただ一言。
「言いたくないです。仲良くする気がないので」
そう言って、空席に着席した。
授業が始まる前、私はパパとママへの約束を果たすために、立花くんの席に行った。
立花くんはある程度、私が来ることを予想していたのか、何も言わなかった。
周りはザワついていた。
私が自分から人に話しかけることは、殆どなかったからだと思う。
「その、知ってるかもしれないけれど、私は立野凪咲です。良かったら、俊くんって呼んでもいいかな?」
同じクローンの、とは言わなかった。私は隠すことが出来ないから公言、というか。知って貰っているけど、立花くんは違うかもしれないからだ。
「は? 嫌だけど」
私は予想外の反応に固まってしまった。てっきり、立花くんもクローンの友達を欲しがって転校してきたんだと思っていたからだった。
私が固まっていると、佐伯さんが席にやってきた。
「分かる〜。凪咲ちゃん、可愛すぎて緊張して、トゲトゲした言葉使っちゃうよねー。私も最初、顔面強すぎてびっくりしちゃったもん」
佐伯さんは私の肩を掴む。佐伯さんに刺々しい言葉を使われた記憶はない。佐伯さんは大胆に見えて、とても気を使ってくれる人だから、この言葉もそうなんだと思った。
「てか、立花、よく見ると顔整ってない? 前髪クリップ貸したげるね」
佐伯さんはキャラクターの頭部がついた前髪クリップを有無を言わさず、立花くんの前髪に止めた。
「ほら! これで凪咲ちゃんと並んでも変じゃないよ」
初めて、立花くんと目があった。私はその瞳に違和感を感じた。
その瞬間、立花くんは前髪クリップを床に投げつけた。
佐伯さんは驚いていたけど、ため息を吐きながら、前髪クリップを拾った。
「あ〜、ごめんだけどさ。投げ捨てなくても良くない? 口で嫌だって言えば」
佐伯さんは静かに怒っていた。普段、反応が大きい佐伯さんのそんな姿に私は驚いてしまった。
「……口で言って分かるタイプに見えなかったからさ」
「は?」
「僕みたいなのが反論すると思ってなかった? というか、顔がいいことなんて、お前に言われなくても知ってるけど、何回言われてきたと思ってるの?」
この時の立花くんはお医者さんと同じ綺麗な黒髪だった。
「へぇ、顔だけでなんとかしてきたタイプ? 性格の悪さが滲み出てる表情だね。いつかご自慢の顔も歪むから、さっさと性格治した方がいいよ?」
「むしろ、お前みたいなのに構われなくなるなら万々歳なんだけど? どうせ、お前、立野の知名度に惹かれた売れないネットインフルエンサーとかだろ?」
「……は?」
「立野も大変だね? その顔で有名女優のクローンだと、こんなのしか寄って来ないんじゃない?」
「え、わ、私」
いきなり話を振られた私は戸惑ってしまった。
「あー、いいよいいよ。言わないで。大変だったよね?」
「ち、違っ」
このままじゃ、私が佐伯さんを好きじゃないみたいになってしまう。確かに、多少強引だけど、佐伯さんは良い人で。
「凪咲ちゃん、困ってんだろ」
「続きを聞くのが怖い、じゃなくて?」
佐伯さんは大きく目を見開いて、黙ってしまった。
「ねぇ、立野」
「な、何?」
「もし、僕とお友達になりたいならさ。今ここで、佐伯にお前なんか友達じゃないって言ってやってよ」
立花くんはにっこり、と効果音がつきそうな笑顔を浮かべていた。
「そ、そんな、こと」
出来る筈ない。いくら、パパとママからのお願いだからって。
「だよね」
立花くんの表情は消え失せていた。
「なら、もう僕に話しかけないでくれる?」
立花くんが前髪を元に戻すのと同時に、予鈴が鳴った。
「凪咲ちゃん!」
どのくらいそうしていたのか分からない。
香里奈ちゃんの声で現実に引き戻された。
香里奈ちゃんが、心配そうな顔で私を見てる。
言わなきゃ、言わなきゃ、大丈夫だって。
「なぁに? 香里奈ちゃん」
「私がいない間に、何か言われなかった?」
「……特に」
私は言えなかった。
「あ、アイツ、酷いこと言ってた」
高橋龍二くんだった。
「クローンは成り損ないだとか、やっと友達になれるとか、訳分かんないこと」
その言葉に香里奈ちゃんも目を見開いた。
「教えてくれてありがとう、高橋」
香里奈ちゃんはお礼を言うと、私に視線を戻した。
「早退する? 私もそうしようか?」
「だ、だいじょ」
「いや、早退した方がいいよ」
そう言ったのは佐伯さんだった。
「私、結構その筋では有名なインフルエンサーなんだけどさ」
佐伯さんは吐き捨てるように言った。
「だから、分かるんだよ。放課後まで待ってたら、マスコミとか押し寄せるって」
その言葉が香里奈ちゃんの決定打になったのか、私の腕を掴んだ。
「香里奈ちゃんまで、駄目だよ」
「私、成績良くないから大丈夫」
香里奈ちゃんは鞄をもう持っていた。
「私も」
佐伯さんも鞄に手をかける。
「佐伯は大丈夫」
「は? なんで」
「佐伯は成績いいし、推薦狙ってるでしょ」
その言葉に佐伯さんは黙った。
「もう、凪咲ちゃんのパパさんに連絡取ってあって、タクシーも来るから安心して」
「……準備、いいじゃん」
佐伯さんは少し悔しそうに呟いた。
「安心して。凪咲ちゃんは私が守る」
佐伯さんは一瞬、泣きそうな顔をした、気がした。
「オッケー、ノートは任しといて。連絡先」
「今は一刻を争うんでしょ? パパさんから聞くから大丈夫。ありがとう。無事に送り届けたら連絡する」
そう言い終えると、私は香里奈ちゃんに腕を引かれた。
校門には既に人だかりが出来ていた。
そのスマホが、カメラが、私を捕える。
私は下を向いた。今はどんな顔をすれば良いのか、分からなかった。
香里奈ちゃんは鞄から、何かを取り出す。
小型のカメラだった。
「ビデオカメラだよ」
「え、香里奈ちゃん、そういうの持ってたんだ」
私は香里奈ちゃんがそれを持ってるのを見たことがなかったから驚いた。
「うん」
香里奈ちゃんはビデオカメラを回しながら、タクシーに向かう。
裏口に来てくれていたが、そこにも、人だかりが出来ていた。
「私は! カメラを回してます!」
香里奈ちゃんは叫ぶ。私は、香里奈ちゃんの小さな背中に隠れる。
「立野さん! 今、クローンとしてどうお考えですか?」
「あの会見は見られましたか?」
「あのクローンとは知り合いですか?」
「立野杏香さんのクローンでいたくないと考えたことはありますか?」
「クローンさ〜ん、こっち向いてくださいよぉ」
「良い絵撮れないなぁ」
「いや、クローン女子高生と普通の女子高生の友情なんて十分過ぎる絵だろ」
「いいね、禁断の恋、とか見出しにしよう」
タクシーの扉が閉まりかける時。
「凪咲さんも戸籍上のお父さんに抱かれてるんですかぁ?」
私は目を瞑った。香里奈ちゃんが、何かを私の耳に入れた。
「ざけんなゲスが! 凪咲ちゃんのパパさんはお前たちと違うんだよっ! これ以上凪咲ちゃんを傷付けるなら、私が許さない!」
多分、ワイヤレスイヤホンとか何かだと思う。
ははっ、香里奈ちゃん、駄目だよ。
これ、全然音が消えないもん。
香里奈ちゃんの涙声が、丸聞こえだよ。
まもなく、タクシーは発車した。
車内は暫く香里奈ちゃんの啜り泣く声が響いていた。
「あ、家じゃない、んですか?」
「あ、ごめん。パパさんが家は危険だから、ホテルにって」
香里奈ちゃんは、運転手さんに話しかけた私にそう答えてくれた。
「部屋で予約してるから、5人まで泊まれるって。佐伯に来てもらう? あと、誰か来て欲しい人とかいる? 高橋とか」
「な、なんでここで高橋くんが?」
「あ、そうか。今は男子は駄目だね」
香里奈ちゃんは何やら納得した様子で呟いた。
「わ、私は」
私は香里奈ちゃんの手を握った。
「香里奈ちゃんだけがいい」
その言葉に、香里奈ちゃんはキョトンとした顔をした後に、頷いた。
「分かった」
握り返してくれた力は、泣きたくなるくらい優しかった。
ホテルについた私たちは、裏口から部屋に通された。
従業員専用通路と書かれた扉の先には、煌びやかさとは無縁の世界が広がっていた。現実だって、そう変わりない。上部はいくらでも繕える。きっと、そんなものなんだ。
スタッフの皆さんは私たちを見て、一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には笑顔で「おかえりなさいませ」と言ってくれた。今は、その笑顔さえ、私は怖かった。
案内してくれた人がいなくなって、私たちは安堵のため息を吐いた。
香里奈ちゃんはお茶を入れてくれた。
「ハーブティー、飲める?」
「うん、ありがとう」
すぐ飲めるくらいの良い温度だった。
「味、薄くない?」
「ううん、凄く美味しいよ」
「良かった。濃い目に出して、氷で適温にしたから」
香里奈ちゃんはなんでもないことのようにそう言うと、自分は全く違う色の飲み物を飲んだ。
その視線に気がついたのか、香里奈ちゃんは言葉を続けた。
「ああ、私、ハーブティー好きじゃないから」
「……私のために入れてくれたの?」
「……? 当たり前だよ?」
香里奈ちゃんの顔が、何を言ってるの? と物語っていた。
「佐伯の連絡先、パパさんに送ってもらったから」
「うん」
「佐伯、着いたって言ったら、安心してたよ。ノート、写真送ってくれたけど、字が凄く綺麗で」
「うん」
「ママさん、今は北海道だっけ?」
「うん。帰って来てくれるって言ったけど、断った」
「……そっか」
「うん」
「じゃあ、お風呂入ろっか」
「うん、あ、先に入っていいよ」
「うん? 二人で入るのに、先とか後とかなくない?」
「うん?」
「パパさんがスタッフさん? に頼んで、もう沸かして? もらってるって。なんか温泉を運んで? 効能もあるお湯みたいだよ」
「その、私はいいけど」
「……嫌なことがあるとさ、一人でお風呂入るの、キツくないかなあって、思って。ほら、子どもの頃さ、怖い話とか聞いちゃった後に、シャワーの時、目を閉じるの、怖くなかった?」
「怖かった、かも」
「うん。ママが一緒にお風呂入ってくれて、ここにいるよ〜、って言ってくれたの。それで、大丈夫だった」
「……うん」
「私が、ここにいるよ〜って、言うから」
「うん」
「凪咲ちゃんはお風呂だけに集中して?」
「……うん、入ろっか」
私たちはお風呂へ向かった。
乳白色のお湯は効能は分からないけど、なんだかいい感じだった。
「髪、洗ったのに」
香里奈ちゃんは私の髪を見ながら言った。
「そこまでして貰うのは……」
「私、凪咲ちゃんの髪、好きだよ。真っ直ぐで」
「私も、その、香里奈ちゃんのクルクルしてる髪、好きだよ。香里奈ちゃん、絶妙な長さだよね。セミロングより少し短くて」
「うん。ギリギリ結べるくらいにしてるの」
「結べた方が楽だもんね」
「そうなの」
「ふふ」
私は笑った。
「どうしたの?」
「さっきまであんなに怖かったのに、香里奈ちゃんといると全然怖くなくなるの」
「それは良かった」
「香里奈ちゃんは、本当にすごい」
「すごいのは凪咲ちゃんだよ」
「え?」
「私、結局泣いちゃったし。凪咲ちゃんは泣いてなかったのに」
「でも、私、香里奈ちゃんが泣いてくれて嬉しかった。その、私のために、ここまでしてくれて」
「そりゃ、私は凪咲ちゃんが好きだから」
その瞳のあまりの真っ直ぐさに、私は目を逸らしてしまった。
「か、香里奈ちゃんはいつもいい匂いするよね?」
「え? そうかな?」
「なんだろ。お香みたいな香り」
「あ〜」
香里奈ちゃんは思い出したような声を上げた。
「つけてるね」
「どこのなの?」
「私が選んだ訳じゃないから分からない」
「ふふ、香里奈ちゃんらしいね」
「私もう上がるね」
「えっ、もう?」
「私、長風呂出来ないタイプなの」
そういうと、香里奈ちゃんは徐に立ち上がった。
私はつい、その姿を凝視してしまう。
ずっと下を向いていて、香里奈ちゃんの裸を見ていなかった。
見たら失礼という気持ちも会った。
ほんの一瞬だったけど、見えた香里奈ちゃんの体。
アザが多かった。
私は一人のお風呂で考える。
そういえば、私、香里奈ちゃんから、お父さんの話って聞いたことあったっけ。
私は嫌な想像をしてしまう。
さっきの出来事のせいだ。あの、嫌な質問のせいで、余計なことを考えてしまう。
いや、でも、お母さんがお風呂に入れてくれた話をしてくれたし。
ううん。お母さんが良い人だからって、お父さんが良い人とは限らない。
というか、香里奈ちゃんが受けた嫌なことって、なんだろう。
もしかして、もしかして、もしかして。
香里奈ちゃんは強い子だ。私のために、男の人の手を掴んで、殴れるものなら、なんて言える人だ。そんな子が、シャワーも浴びれない出来事って。
心臓が忙しなく稼働する。
そもそも、仲が良いからって、いきなり娘がホテルにお泊まりなんて、許すものなのかな。私の家なら、きっと許されない。それは、私がクローンで特殊だからだと思っていたけど、もし、それが普通だとしたら? 香里奈ちゃんの家の方が、変なんだとしたら?
「……どうしよう」
私はお風呂の中で、頭を抱えた。
もし、そうだとしたら、私は香里奈ちゃんを救えるだろうか。
香里奈ちゃんが、私を救ってくれたように。
思ったより、長湯をしてしまった。
惰性で化粧水と乳液を顔に塗る。
少し逆上せてしまった私は、いつもならすぐに髪を乾かすのに、今は出来そうになかった。
どんな顔して、香里奈ちゃんに会えばいいんだろう。
私は鏡で笑顔を作って、頷いた。
大丈夫。多分、大丈夫。
「香里奈ちゃん、お待たせ」
そう言った先に、香里奈ちゃんはいなかった。
このホテルは何部屋もあるタイプだし、ここじゃない部屋にいるのだろうか。
少し歩くと、そこに、香里奈ちゃんの鞄があった。
鞄の上に、スマホが置いてある。
それを、なんとなく見ていると、スマホの画面が光った。
『今日、どうしたの?』
短いメッセージだった。
『待ってんだけど』
すぐにまた、メッセージが来た。
『無視すんなよ』
私はゾッとした。通知欄の名前はクソ野郎と登録されていた。
私は、駄目だと思うのに、スマホを取るために、屈んでしまった。
「や、やめて!」
香里奈ちゃんは怯えながら、私から鞄ごとスマホを取り返した。
「ご、ごめんなさい!」
私は香里奈ちゃんのそんな悲痛な声を聞いたことがなかったから、咄嗟に謝った。
香里奈ちゃんは目を泳がせながら、下を向いた。
「……ううん。その、何も、見てない……よね?」
香里奈ちゃんはいつも目を見て話してくれるのに、全然目が合わない。
「うん。見てないよ」
嘘だ。でも、言えなかった。私が香里奈ちゃんにこんな顔をさせ続ける訳にはいかなかったから。
「えっと、大きな声出してごめんね。凪咲ちゃん、疲れてるのに」
「ううん、その、私こそ、ごめんなさい。勝手に……」
「ううん」
気まずい沈黙が流れた。
「髪、乾かしたら?」
「あ、香里奈ちゃんから」
「私、自然乾燥派だから」
「……そっか」
そう言われてしまっては、私が言えることはなかった。
香里奈ちゃんは、私と居たくないんだ。
仕方がない、よね。
私が嫌なことしちゃったんだから。
髪を乾かしながら、考える。
もし、香里奈ちゃんが帰ってしまっていたら、どうしよう。
元々、約束があったみたいだし。でも、相手は、その、あまり良い人じゃなさそう。
私も香里奈ちゃんに嫌なことをした癖に、私は自分のことを棚に上げて、こう思ってしまった。
同じ、嫌なことする人なら、私の方が良くない?
私は脱衣所を出た。そこには、ルーズリーフが落ちていた。
そこには、矢印が書いてあった。
私は、それを拾いながら、次のルーズリーフを見つけた。
同じように、また、そのルーズリーフには矢印が書いてある。
それを何回か繰り返すと、一つの扉の前で終わっていた。
私は、扉を開ける。
パンっ!
何かが弾ける音が聞こえた。
紙吹雪が舞っている。私はそれが、クラッカーだと気がついた。
「十七齢の誕生日、おめでとう」
香里奈ちゃんは笑っていた。
「あっ」
色んなことが起き過ぎて忘れていた。今日は、私の誕生日だった。
「ありがとう」
私は頭に乗った紙吹雪の紐みたいな部分を取った。
「……さっきはごめんね。その、鞄の中に」
香里奈ちゃんは小包を差し出した。
「プレゼントが入ってたから。見られる訳にいかなくて」
「……うん。開けても、良いかな?」
「もちろん」
私は綺麗にラッピングされた小包を開ける。
そこには、初めて見るのに、見慣れた柄のイヤリングがあった。
「綺麗」
「うん。モネ好きだって言ってたから。モネの睡蓮イメージのイヤリング」
「つけても良い?」
「もちろん」
私は台紙からイヤリングを取り出した。
「鏡」
「あ、いいよ」
香里奈ちゃんはイヤリングを私から受け取ると、真剣な顔で私の耳につけてくれた。
「パパさんから写真頼まれてて、撮っても良いかな?」
「もちろん」
「ありがとう」
香里奈ちゃんはベッドを指差した。
「じゃあ、ここへ」
「え?」
ベッドの上に、水色のバルーンで『17』があった。
「天蓋ベッド、似合うね」
「あ、ありがとう?」
「あ、これも」
「うん?」
香里奈ちゃんはまた小包を出した。
「これは?」
「誕生日プレゼント」
「うん? さっき貰ったよ?」
「本当はこっちを渡す予定だったんだけど、モネが好きだって知ったから変えたの。これは、今日は大変だったね的なモノとして受け取って」
「そ、そんな、悪いよ。香里奈ちゃんが使ってよ!」
「私には似合わないよ」
香里奈ちゃんに押される形で、私はまたラッピングを解いた。
そこにはリップがあった。キラキラした宝石みたいなパッケージの。
「店員さんがオススメしてくれたの。凪咲ちゃんはブルベ冬なんだって」
「うん?」
「あ、安心してね。凪咲ちゃんの写真は見せてないよ。どんな子か聞かれたから、凪咲ちゃんみたいな人とは言ったけど」
「みたいというか」
「うん。本人だけどね」
香里奈ちゃんは笑った。私も釣られて、笑った。
「つけても、良いかな?」
「うん? もう寝るだけだよ?」
「今日のうちに、つけてみたいの」
「……なるほど。鏡」
「つけて」
「うん?」
「香里奈ちゃんが塗って? 私に」
「うん」
香里奈ちゃんはリップを手に取った。
「私、自分でお化粧したことないし、下手だと思うけど」
「香里奈ちゃんにしてほしいの」
「了解」
さっきより、余程、真剣に香里奈ちゃんは私を見ていた。
ペンダコができてる指が印象に残った。
「……出来たよ」
「どう、かな?」
「綺麗」
「ありがとう」
「凪咲ちゃん、体調悪くなると唇が紫になっちゃうから。これ、保湿効果? もあるみたいだし、美容液成分? が殆どらしいから、きっと良いよ」
「……そこまで見ててくれたんだ」
「うん」
それから、写真を撮ってもらって、パパは喜んでくれた。ケーキとかご飯とかデリバリーしてくれたけど、香里奈ちゃんが冷蔵庫に入れてくれた。こういう時、凪咲ちゃん、食欲なくなるタイプでしょ? と言っていた。
取り止めのない話をして、寝る時間になった。
香里奈ちゃんは他のベッドに行こうとしたので、私は引き留めた。
「……私がいるよって、言って」
その言葉で察したのか、香里奈ちゃんはベッドに入ってくれた。
香里奈ちゃんは本当に優しい。
私のことを良く見てくれてる。
だけどね、私も同じくらい、香里奈ちゃんのことを見てるの。
だから、分かるんだ。
『……さっきはごめんね。その、鞄の中に』
『プレゼントが入ってたから。見られる訳にいかなくて』
あの言葉が嘘だって。
なんで、私に、嘘ついたの?
ねぇ、香里奈ちゃん。
アラームで起きた。
隣に香里奈ちゃんはいなかった。
私は飛び起きる。
「あ、おはよう」
香里奈ちゃんは制服に着替えていた。
「私は学校行くけど、その、どうする?」
「おはよう。早いね」
「うん、あんまり、寝付けなくて」
「そっか。その、行こうかな」
その返事に香里奈ちゃんは頷く。
「分かった」
チャイムが鳴った。
それだけなのに、私たちは震えてしまった。
「あ」
香里奈ちゃんはスマホを見た。
「パパさんだ」
画面を見せてくれる。私はもう、何も見たくなくて、スマホの電源を落としていたから気がつかなかった。
私は扉を開ける。
「パパ!」
そして、私はパパに抱きついていた。
「凪咲、ごめんね。昨日は来れなくて」
「ううん」
「あの後、俺も外に出られなくてね。時間がかかってしまった」
パパはやつれていた。人はこんなに一日で変化できるんだ、と場違いながら思ってしまった。
「大丈夫、大丈夫」
「その、今日、学校行くのかい?」
パパは困ったように言った。
「うん」
「……そうか、うん、そうなんだね」
「私がついてます」
香里奈ちゃんは静かに言った。
「ううん。今は止めときな」
「え?」
そこには、佐伯さんがいた。
「検索するのはオススメできないけど、今はアンタは凪咲の近くにいない方が良いよ」
「なに……それ」
「俺からもお願いだ。これ以上、俺は二人に傷付いてほしくないんだ」
パパは苦虫を潰したような顔をした。
「それは……佐伯も同じじゃ、ない?」
「私は撮られ慣れてる」
佐伯さんは何の感情もなく、言い放った。
「ファンかアンチかなんて分かんないけどさ、みんな好き勝手に撮るよ。今更」
「……それ、嫌じゃないの?」
「嫌だよ」
佐伯さんは即答した。
「でも、そんな酷い顔してる矢島より、私のが適任ってだけ」
その言葉で、私たちは別々に学校に行った。
私は佐伯さんと教室の前に来た。
心臓がドキドキする。クラスメイトの皆まで、あんな噂を信じていたらどうしよう。
怖い。私のことを全く知らない人が言う言葉より、クラスの子達が私をそうだと信じてしまったら。
私は、果たして、この学校に通い続けられるのかな。
私はポケットに入ってる、香里奈ちゃんから貰ったリップをポケットの中で握りしめる。
大丈夫、大丈夫。
息を吐く。
「凪咲、大丈夫、じゃ、ないか」
佐伯さんは困った顔をしていた。
私は昔から人を困らせてばかりだった。
私が、クローン人間だから。
「ううん。大丈夫だよ」
「あ、あのさぁ」
佐伯さんは何か言いかけた。
「うん。どうしたの?」
佐伯さんは、何か言いかけて、止めた。
「……ううん。私もできることをするからさ」
「うん。よくしてくれて、本当にごめんね」
「……うん」
佐伯さんは諦めたように笑った。
パーン。パーン。パーン。
つい最近、聞いた音が聞こえた。クラッカーだった。
「お誕生日、おめでとう」
扉を開けた先で、皆が笑っていた。
「あ……」
「佐伯、気付かれなかったか?」
「当たり前。私、これでもかなり頭脳派よ?」
「成績いいから否定できねぇのが辛い」
高畠くんが言った。
「……本当は、昨日の放課後の予定だったんだけど」
高橋くんは申し訳なさそうに言った。
「ごめん、立野さんは今、そんな場合じゃないかもだけど、どうしたら、その、少しでも、いい感じになってくれるか分かんなくて」
高橋くんは眉を八の字にしていた。
「こいつさ、あれから、立野さん大丈夫かなぁ、しか言わなくて。ウザくてウザくて」
高畠くんは高橋くんの肩を組んでいた。
「その、申し訳ないけど、付き合ってやってくんない?」
「う、うん。でも、授業は」
「今日も自習だって。柴野先生、どうしたんだろ。最近休みがちじゃない?」
「まぁ、嬉しいけど、自習」
「だから、静かに、バレないようにお祝いしようと」
「クラッカー使った時点で無理じゃね?」
「それはそう」
「まぁ、先生たちも鬼じゃないし、今回はお目溢しをもらえるんじゃない?」
「でた」
「詩人語録」
「俺が言う前に詩人言うなよ」
クラスに笑いが溢れる。
私は、皆があんな噂を信じるなんて想像してしまった自分を恥じた。
そんな人達じゃないって、どうして信じられなかったんだろう。
まだ、4月だけど、去年同じクラスだった人も多いのに。
「皆、その、ありが」
最後までは言えなかった。
立花くんが来たからだ。
場が凍る。
そんな気がした。
なんせ、昨日の今日だから、私も微かに反応してしまった。
「ああ、凪咲ちゃん。誕生日おめでとう」
立花くんは笑った。
立花くんは、私に近付く。
その間に、香里奈ちゃんが割って入った。
「何? 矢島、邪魔なんだけど」
「何するつもりなの?」
「何って、凪咲ちゃんの髪に花吹雪がついてるから、取ってあげようかと」
「え?」
クラスの誰かが声を漏らす。
「このクラッカー、花吹雪が舞わないように、繋がってるヤツじゃなかったっけ?」
「え、嘘。昨日の?」
私は自分の髪を触った。
そして、立花くんの笑顔で、反応を間違えたことを悟った。
「やっぱり、矢島とホテル行ったんだ」
「えっ」
「嘘だよ。紙吹雪なんて。ネットで矢島とタクシー乗ってる姿と、家に帰ってないって書いてあったから、まさかと思ったけど、本当にそうだなんてね。ネットじゃ、二人はお付き合いしてることになってるけど、実際どうなの?」
「違う!」
私が何か言う前に、香里奈ちゃんが叫んだ。
「お前に聞いてないんだけど」
「アンタさ、いい加減に」
佐伯さんが言いかけた時。
「いい加減にしろよ」
静かな声だった。声は高橋くんのものなのに、高橋くんがそんな声のトーンで話すなんて信じられなくて、皆、黙ってしまった。
そんな私たちを横目に、高橋くんは立花くんの前に立つ。
「立野さんに何か言いたいなら、一旦俺が聞くから」
「へぇ、彼氏面?」
「同じクラスメイトとして、前からお前の言動は目に余る」
「ああ、そう。ヒーロー様は」
「お前の煽りってワンパターンだよな。意外と語彙力ない?」
「少ない手札で勝つ方が強いでしょ」
「それは他の手札があるヤツが手の内を隠すためにやるから意味があるんじゃないのか?」
「僕が他の手札があるかないかなんて、高橋が分かることじゃなくない? ないことの証明はできないんだからさ」
「ないことの証明ができない、ね。そう言うなら、お前が今、他に手札があることを先に証明するべきじゃないか?」
「へぇ、僕の手札がどれだけあるか知りたいの? 高橋って」
「俺はお前のことが虫唾が走るくらい嫌いだ」
その言葉に立花くんは目を見開いた。
「……へぇ?」
そして、微笑んだ。
「じゃあ、邪魔者は帰ろうかな? あ、凪咲ちゃん」
「立野さんに話しかけるな。あと、名前で呼ぶな」
「じゃあ、伝書鳩の高橋。これ、凪咲ちゃんに渡しといて?」
綺麗にラッピングされた小包だった。
「なんだこれ」
「誕生日プレゼント」
「お前が?」
「もちろん、僕、凪咲ちゃんと友達になりたくて」
「御託はもう良い」
「本音なのに」
立花くんは落ち込んでみせた。
「ま、凪咲ちゃんにあげたものだから、凪咲ちゃんの好きにしてよ」
そう言うと、立花くんは腕時計で時間を確認した。
「じゃ、俺は凪咲ちゃんの誕生日を祝いたかっただけだから、帰るね。バイバイ?」
そう言い残して、立花くんは教室から出た。
高橋くんが手に持ってたプレゼントを、香里奈ちゃんが取り上げると、ゴミ箱へ投げ捨てた。その瞬間、教室は「お、お〜!」という声と拍手に包まれた。
「立野さん、大丈夫?」
高橋くんが私に話しかけてくれた。
「う、うん」
私の目線はゴミ箱にいっていた。
「凪咲ちゃん」
それに気が付いたのか、咎めるような声を香里奈ちゃんは出した。
「え、えと」
「誕生日パーティー、仕切り直そうよ」
香里奈ちゃんは縋り付くような声をあげた。
でも、私は、ゴミ箱からプレゼントを取り出してしまった。
「凪咲ちゃん!」
香里奈ちゃんが責めるような目で私を見る。
「そ、その、ごめんなさい。私、私は」
なんだろう。私があんなことされても、立花くんに構う理由。
パパとママに頼まれたから?
他の人に優しくしないといけないから?
お医者さんのお子さんだから?
クラスメイトだから?
たまに私に優しくするから?
友達になりたいって言われたから?
立花くんの生い立ちが可哀想だから?
そのどれもが正解で、でも、同時に、しっくりこなかった。
「私、クローンだから」
その言葉に、香里奈ちゃんは明らかに傷付いた表情をした。
「多分、立花くんも、今、辛いと、思うから」
「立花くん!」
私は立花くんに追いついた。
化学室などの移動教室ばかりのこの一帯は、この時間は人がいなかった。
いつもなら、人が多いこの場所に二人きりだ。
今、この場には、クローン人間しかいない。
「ああ、来てくれたんだ?」
立花くんは嬉しそうに呟いた。
「その、誕生日プレゼント、ありがとう」
「ああ、矢島辺りが捨てなかった?」
「そ、んなことは」
「なくないよね? 箱、潰れてるよ」
「あ」
「まぁ、緩衝材入れてもらってるから大丈夫じゃない?」
「その、ありがとう」
「どういたしまして。凪咲ちゃんと僕の仲でしょ?」
「ええと、どういうつもりなのか、聞いても良いかな?」
「心外だなぁ、凪咲ちゃんまでそんなこと言うの?」
「流石に、今までの流れで信用できるほど、箱入りじゃ、ないよ」
「ふぅん?」
立花くんは目を細めた。
「その、立花くん」
「俊くん」
「え?」
「俊くんって言って?」
「な、んで?」
「最初に言ったのは凪咲ちゃんじゃん」
「そう、だけど」
おかしい。絶対に変だ。立花くんがこんなこと言う筈がない。
「僕、凪咲ちゃんのこと大好きだよ」
「は?」
「今まで意地悪してごめんね? 同じクローンだから、つい凪咲ちゃんに甘えちゃってたんだ。今回のことで目が覚めた。凪咲ちゃんが矢島と高橋と仲良しだから、二人にも嫌がらせしちゃったし。これからは、クローン同士、仲良くしてほしいな」
私は鳥肌が止まらなかった。
今、私は、弱ってるんだと、思う。
私の孤独を、正しく理解できるのは、多分、目の前の立花くんだけだ。
まだ、クローン人間は極端に少ないからだ。
今、この申し出を断れば、立花くんは二度と私と仲良くしようとしないかもしれない。
それは、私にとって、辛い選択肢だった。
でも、この話に乗るのは、あまりにも危険だと言うことも、立花くんに会ってからの日々で学んでいた。
私は。私は、どうしたら、いいの?
「立野さん!」
私はその声に振り返った。
そこには、意外な人物がいたから、私は驚いてしまった。
「高橋龍二くん?」
「その、騙されないで。そいつ、そいつ、立野さんとの会話、録音してる、から」
「ろ、録音」
私は立花くんを見た。
立花くんは舌打ちをする。
「ぼ、僕もされたんだ。そいつのボールペン、録音機能が付いてて」
「マジでお前なんなの?」
立花くんは忌々しそうに呟いた。
「あ、高橋にイメチェンしてもらって、高橋の好きな女を守って取り入ろうとでもしてるの? それとも、矢島から立野に鞍替え? 流石に身の程知らず過ぎない?」
「そんなんじゃ!」
「ないって、心の底から言えんの? 言えないよね? あ、わかったぁ!」
立花くんは徐にポケットからボールペンを取り出した。
「ここに入ってる、矢島をボロクソに言ってたデータを取り戻したいんだ? なんだ、まだ矢島のこと好きなんだ?」
その言葉に、高橋龍二くんはあからさまに震えた。
「そうだよね。さすがの矢島もこれ聞いたら、二度とお前の相手なんかしてくれないもんな」
立花くんは笑っている。
「ぼ、僕を脅すの?」
「いや、最初に約束破ったのはそっちじゃん。僕は二度と話しかけないなら、このデータは誰にも言わないって言ってやったのに」
立花くんはボールペンを遊ばせながら言う。
「ま、でも、意外だったよ。恩がある高橋と、高橋が好きな立野を守るために、こんなことするなんてさ」
立花くんは笑みを深める。
「そんなお前に敬意を表して、このボールペンをあげるよ」
「え?」
「あれ、いらないの?」
立花くんは首を傾げた。
「い、いる!」
「なら、取りにおいでよ」
立花くんはボールペンをひらひら揺らす。
それに吸い寄せられるように、高橋龍二くんは歩く。
もう少しで、手が届くところで。
「じゃ、頑張って?」
窓から、ボールペンを投げた。
「なっ」
「はは、僕、直接渡してやるなんて言ってないんだけど? 早くしないと、誰かに見つかるよ?」
高橋龍二くんは何か言いかけて、走っていなくなった。
立花くんはその背中が遠ざかるのを見て、私の横を通り過ぎようとした。
私は立花くんの腕を掴む。
「何? まだなんか用?」
「なんで、こんな、酷いことするの?」
「立野が嫌いだから」
「私、何かした?」
「……それ聞いてどうすんの?」
「理由が知りたいの」
「僕は言いたくない」
「なら、違うこと聞く」
「一応聞こうか?」
「あの、会見、どう思った?」
「ああ、あの。お笑い芸人のクローンの恋人が強姦されてて、あのバラエティーの一件も世間の注目度を上げて、それが収まりかけた時に燃料投下でクローンの是非を世間に問いかけたやつ? 炎上商法としては中々上手いんじゃない? クローン嫌いは多いし、元々ネタも話し方も巧みな人だったから、記者会見も上手だったしね。あれは相方もグルだね。相当用意周到にやったんじゃないかな」
「そういう、こと、じゃなくて」
「うん? これが僕の意見だけど」
「立花くんの、クローンとしての、感情を聞いてるの」
「クローンとしての感情?」
立花くんは鼻で笑った。
「それ言って、どうなんの? 傷の舐め合いでもしたいの?」
「違うよ」
「違くないよ。世間様はクローンが嫌い。クローンが強姦された。恋人が怒った。世間が騒いでる。事実はこんなもんじゃない? 立野はとばっちりだったとは思うけどね。でも、慰めるのを僕に求めないでよ」
「私は、慰めてほしいわけじゃないよ」
立花くんの腕を握る力が強まるのを感じた。
「へぇ、そう」
立花くんは冷めた目で私を見てる。
「今日の立野、唇の色、綺麗だね?」
私は手を離しかけた。
立花くんはいつの間にか、私のポケットに手を入れていた。
「ああ、これか」
立花くんの手には、リップがあった。
「何? こういうの、学校に持ってくるのは校則違反じゃない?」
私の頭は真っ白になっていた。
私のリップ。
香里奈ちゃんが、私にくれた。
香里奈ちゃんが、私につけてくれた。
私の大切な。
「触らないで!」
私は気がついたら、立花くんからリップを奪い取っていた。
自分から、こんな大声が出るんだと、私は驚いた。
「僕も立野に対して、同じような感情だよ」
「なんで」
「立野って、なんでって聞いたら、皆が当然に教えてくれるとでも思ってんの?」
「え」
「そんな訳ないよね。僕と立野は」
「でも、私たちはクローンじゃない」
「うん」
「なら、分かり合えない訳ないよ」
「へぇ」
「私、私たちはクローンだから。遺伝子がママと同じだから。皆、私とママを重ねるの。私は私なのに、私にママを求めるの。私が何をしても、ママの過去の行いを見て、同じことをしてるねって言うの。皆、嬉しそうに言うの。私、貴方が転校して来るって聞いて、本当に嬉しかったの。だって、私以外のクローンは見たことなかったから。皆、私の優しくしてくれるけど、それは、私がママのクローンだから。私が、私になれるのは、きっと同じクローンの貴方の前だと思ったから。……前にね、パパが私のこと、間違えて、杏香って呼んだことがあったの。あの時、あんなに焦った顔のパパを初めて見たの。丁度、パパとママが出会ったのがその時の私くらいの年齢だったんだって。ネットニュースで見たことあるの。それで、クラスの子に話したら、私のパパも間違えたことあるよって、言ってくれたの。でも、でも、その子と、私は全然違う。違うの。私はっ」
私は自分の声が震えていることに気がついた。
「私は! 私がっ、……クローン人間だからッ」
膝が崩れる。
「ねぇ! 立花くんなら、立花くんは、分かるよね? 皆、優しいの! 優しくしてくれるの! でも、苦しいの! でも、誰も悪くないの! クラスの子が優しさで言ってくれたのも分かってる! パパがただ間違えただけってことも分かってる! ママのことも、パパのことも、私は大好きなの! 大好きなのにっ! 苦しいの! どうしていいか、分かんないの! 誰も悪くないから、誰もっ何もっ恨めないの! 辛いの! 仕方ないから、だから、どうしようもなく、苦しいの! 息が出来なくなるの!」
私は立花くんに縋り付いた。
「ねぇ、分かるでしょ、立花くんなら!」
立花くんと目があった。
立花くんは泣きそうな目をしていた。
「……分かり合えたところで、そこに未来なんかないよ」
「でも」
「いい加減、僕も疲れてきてさ。僕に付きまとうの、止めてくれる? 僕は立野の理解者には、なれないと思うよ」
「そんな」
「大方、賢吾とお父さんとお母さんに頼まれたんでしょ? 立野、真面目だから。よく頑張ったと思うよ。ここらが、潮時だとは思わない?」
「……なんで、そんな、優しい言い方するの?」
「……こんなこと、僕でもしたくないんだけど」
立花くんは口を歪めた。
「これ以上、立野が僕に関わろうとするなら、僕は矢島に酷いことするよ?」
「……は?」
「矢島、意外と胸大きいよね? 触ったら、どんな感じかな?」
私は目を見開いた。
「立花くんは、そんなこと」
「僕はそんな奴だよ。噂、聞いたことあるでしょ? 前の学校で不純交流で退学だって」
「あれは、噂で」
「ほとんど、本当だよ」
「え」
「自主退学したの。どんな交流したか聞きたいなら話すけど、どうする?」
「そんな」
「矢島は正直、好みではないけど、手が出せない程じゃないからさ」
「香里奈ちゃんをそんな目で見ないでっ!」
「まだ、見てないよ」
「貴方って、貴方って!」
「最低? ゴミ? クズ? 人間のなり損ない? 聞きすぎて、耳タコなんだけど」
「私っ! 私だって! 貴方みたいな自分勝手な人、本当は大っ嫌い! パパとママと、お医者さんに頼まれたから、仕方なく声をかけたのにっ! 酷いこと言われる度に、すごく嫌だったのに、それでも、それでも、同じクローンだから、きっと、立花くんも辛いから、仕方がないんだって思って! 思ってたのに! 嫌い! 嫌いよ! 貴方みたいな最低な人!」
「やっと、分かってくれた?」
立花くんは目を細めて、笑った。
その口元は相変わらず、歪んでいた。
「じゃあ、もう話しかけないでね。大好きな矢島のために」
私は、立花くんが立ち去るのを見て、膝を抱えて泣いていた。
そこに、クラスの皆に報告を受けた鈴木先生が来てくれた。
私は保健室に行った。
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